act 13

沖田は自分の目や、耳を、何度も疑った。
本当に、これは神楽なのか? 今まで散々その台詞を言っていたが、今は真逆の意味で、頭の中で繰り返していた。

隣に鼻歌を歌いながら座る女は、先ほどまで自分と高杉に泣き叫んでいた人物と同一人物なのかと、本気で疑いたくなった。
ちらりと、教室の隅の方を伺うと、高杉もまた、沖田と同じように信じられないものを見る様な目で、神楽を見ていた。

マジマジと沖田が神楽を観察してみても、
不自然さが見当たらない。本当に、普段からいる神楽だった。
思わず食い入るように見ていると、神楽がその視線に気付いた。すかさず、あの憎たらしい瞳の色を見せた。

「そんなに見てると、この私の顔に穴が空いちゃうヨ。ははーン。さてはついにこの神楽様の美貌に気付いて見惚れたアルナ?」
いつもなら沖田も間髪入れず、こにくたらしい台詞を返すところだが、ごくりと喉を鳴らすだけで、口をあける事はなかった。そんな沖田を神楽は首をかしげて、頭にクエッションマークをつけ見ている。
「どうしたアルカ?」
「あ……。いや、別に……」
それだけの言葉しか言えなかった。
神楽は前を向くと、教室に入ってきた銀八に、いつもの笑顔をむけた。何がなんだが、沖田は本当に分からなかった。先程の保健室での神楽とは、比べる事が出来ない。
あまりにも自然で、あまりにも不自然……。
そんな沖田をそのままに、神楽はといえば、昼食は何を食べようかと真剣に考えている。自分が作ったお弁当を確認し、まだ食べていないとにんまりしたかと思えば、これじゃまだまだ足りないアル! と、購買に買いに行くためにポケットにある小銭を調べ……。

見れば見るほど信じられない。
そうこうしてると、銀八が神楽の頭を小突いた。あのいつもの笑い顔で舌をペロっとだすと、授業に集中しはじめ……。

ふと周りと見れば、土方や近藤も首をかしげている。やはり誰の目から見ても神楽は【不自然さがない】が、確かに不自然だった。
まるで……別人かの様に……。

「ね、ね、沖田」
思いにふけっている沖田に、いきなり神楽が話しかけてきたので、沖田はヒュっと息を呑んでしまった。
「今日、お弁当一緒に食べヨ?」
「はァ?」
思わず大きな声をあげてしまった沖田に、皆の視線が集中した。神楽はすかさず教科書で沖田の頭をフルスイングすると、シィ〜と人差し指を立てた。
「声が大きいアル!せ、せっかくこの神楽様がお前なんかと昼食を取ってやろうと言ってるのにっ……」
拗ねた神楽はフンと前を向いた。けれど、沖田の返事が気になるようで、ちらちらとコチラの方を伺っている。
沖田は益々訳が分からなくなってきた。

なんでコイツはそんな余裕があるんでェ…。俺に何も気にするなって言う態度を見せてやがんのか…? いや、今さっきの出来事だぜ? 女優でもなけりゃそんなに上手く演じる事は出来ねー。けど演じてるって考えるのが一番しっくりきやがる。けどさっきのあいつは、そんな軽いものを持ってる風じゃなかった……。もっと……。気が、狂いそうな……。

神楽の目をじっと見つめながら考えてみるが、何も答えは浮かばない。正直、別人だと、言ってくれた方が、ずっとしっくりくるものがあった。しかし目の前の神楽は、恥ずかしそうに、沖田の返事を待っている……。
沖田はゆっくりと口を開いた。

「あァ、いいぜ。教室でいいのか? それとも屋上にするか?」
今まで神楽から、一緒にご飯を食べようなんて言った事など、一度だってなかった。大抵お妙やミツバ、また子達と机を並べて食べていたからだ。もしかしたら、何か話す気でいるのかもしれない……。

そんな沖田を高杉達は静かに見ており、お妙達は、よく言ったわ神楽ちゃん! とガッツポーズをしていた。
「お、屋上が……いいアル」
授業中と言う事で、神楽は小さく声を出すと、頬をそめ、机の下、足をバタバタとする事で喜びをあらわしていた……。




……To Be Continued…

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