act 13

甘味亭に入ってからも神楽のふくれっ面はなおる事無く、小さいがその頬は膨らまされていた。
何ゆえ狭い店なので、その席は広く取れず、丁度四人ずつ、二席に別れて座った。店の端、勝ち誇った様な猿飛あやめの姿が見えたが、悲しいかな銀八といえば、あやめではなく、目の前の特大パフェに夢中らしい。
沖田と神楽の雰囲気を肌で感じ取ったお妙は、この二人と一体誰が組んで座らせようと考えた。

土方とミツバ。このペアと組んで座らしてみた所を予想してみた。ミツバはいいだろう。彼の最愛の姉だ。沖田と土方両方を止める力を唯一持っている人物とも言える。
しかしその隣に座る男が問題だった。下手をすれば沖田の怒りを煽ってもおかしくない。

次は高杉とまた子ペアだった。
ある意味、このペアが一番危険だとふんだ。高杉は土方と同じく沖田の天敵である上、また子は神楽とは話すが、沖田と高杉を両方を止められる程の力を持ってはいない。

そうなると、唯一沖田と宥める事ができる近藤と、唯一沖田を恐怖で征服できる事が出来る、お妙、近藤ペアに決まった。

「まぁ、神楽ちゃん見て。とってもおいしいと思わない?」
神楽は無言でパフェの頂上にある生クリームを救ってそのままスプーンを咥えたまま、沖田の方をじっと見ているだけだった。
「そ、総悟ぅ? う、旨いと思わないか? この汁粉。この小豆の味が絶品で……。」
沖田は近藤と同じく注文した汁粉をずずっと飲むと、そのまま不機嫌そうに神楽を見つめた。
神楽の肩には現在も沖田の制服がかかっている。冷たかった体は、店内の暖かな空気によって元の温度を取り戻した。神楽の方は、何か沖田に言いたそうにしているが、沖田の不機嫌な面がそれを邪魔している。
いっそ二人きりにした方がいいのかも……。考えるが早くお妙は席を立つと、近藤に目配せをした。
イマイチ状況を分かってない近藤だったが、お妙と二人きりになれるのならばとお妙の後ろにホイホイと付いていった。



「そ、そっちのお汁粉、ちょっとだけ頂戴アル……」
せっぱつまった神楽なりに、出た言葉だった。沖田はすすっていたお椀から口を離し、これ見よがしに、神楽の目の前でダンっと置いた。小豆が神楽の頬とビン底眼鏡にひたりとくっついた。
神楽の額に青筋が浮き出たのは言うまでもない。顔をピクピクとさせながらそれを取り、豪快に喉をならしながらそれを流し込んだ。

「ははは〜。そうかァ、貴様がそんなつむりながら私にも考えがあるアルヨ」
パフェ様の長いスプーンをブンっと振ると、それは見事に沖田の頬へ生クリームを配達してくれた。
沖田はそれをおしぼりで丁寧にふき取る。ひくひくと眉が動いているのは誰がみてもあきらかだった。

下手すれば、此処で教室の再現がでるやもしれない。
思わず周りは非難しようとした。しかし一番先に立ち上がったのは、当事者の神楽だった。

「もういいアル」
一言だけ言葉を残して、あっさりと沖田に背を向けた。
泣くでもなく、怒るでもなく……。例えるなら、諦めた様に切り捨てた、と言った所だった。
さすがの沖田も唖然としていたが、その立った神楽の行き着いた場所に、再び唖然とした。


「ぎ〜んちゃん。一緒に食べさせてヨ」
にこりと笑ったかと思えば、猿飛あやめと銀八が座っている席、しかも銀八の隣に神楽は腰をおろした。
別にいやみでもなんでもなく、ただただ自然に……。

こう言う時、切り捨てるのは女が早いと言われるだけあって、いつまで機嫌が悪いままで居る沖田に
今は、どうやっても無駄だろうと、向き合うのを諦めた。
銀八の目の前のあやめは、当然目を吊り上げている。銀八は、またかと呆れた視線を神楽に送っている、が、しょうがない奴……と拒絶はしないでいる。甘えれば甘えさせてくれる。
神楽は、沖田の方には目もくれず、銀八の特大パフェを大きく口に含んだまま、銀八に笑みを見せた。





……To Be Continued…

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