act 10

冷たい感触が、瞳の奥にじんわりと染み込むような気がした…。

あの後、保険室へ駆け込んだ神楽は、先生がいない事を確認し、ベットに忍び込み、濡らしたタオルで目を覆った。沖田に感づかれているだけではなく、高杉には、もっと奥の方から自分をかき出される様な気がして、今にも押しつぶされそうだった。何もかも話してしまえば、どれだけ楽になれるだろうと思う。本当は、高杉の腕に、その体に、思わず縋りつきそうになってしまった。何も洗いざらい話したかった。助けてって叫びたかった。

でも――出来ない…。

ズッと言う鼻の音と一緒に、咽こむような嗚咽を出した神楽の前に、勢いよくカーテンを引き、自分の間合いに入ってきた沖田の姿があった。
息を飲み込みとめた。直後喉を高くならした。
タオルを退けた神楽の赤く腫れた目元を見るなり、沖田は強く神楽の手首を持った。
「オメーッ…。やっぱりこの間から絶対ェ変だぞ?!」
「何も…。何でもないアル――。」
「チャイナ!」
沖田は神楽の両手首を強く掴んだ。押し倒される様なその中、ベットの上で神楽が暴れる様にもがいた。
「何でもない!何でもないッ!何でもないアルッ――!」
沖田のイライラはピークに達していた。神楽の手首に沖田の跡がつけられる程に…。
「このッ――。いい加減に…!」
そう言い掛けた沖田の体が急に神楽の体から引き剥がされた。息を上げながら沖田は勢いよく後ろを振り返った。
「何すんでェ!今お前にかまってる場合じゃねー!」
沖田はその人物に噛み付いた。

「いい加減にすんのはオメーだ!」
高杉は沖田の首元を捻り掴んだ。
「あァ!?」
沖田の声が凄んだ。
「いいからこいつから離れやがれ!」
至近距離での睨み合い…。神楽は体を起し、声をかけようとした。けれど二人が本気だったため、口から言葉が出なかった。
「テメーこそ今すぐこの場から消えやがれ。」
「あァ、消えてやらァ、ただしオメーも連れてな!」
先ほどまで神楽にイライラをぶつけようとしていたが、それを二倍も三倍も膨らまして今沖田は高杉にぶつけている。高杉は、何が何でも沖田を神楽の側から離そうとしているが、相手が沖田の為、当然苦戦をしいられる。けれどそれでも神楽を守ってやりたかった。特別な感情抜きにして、何か深く棘がささっている神楽に、これ以上深くねじ込まないようにと…。

カッとなった沖田は腕をふりあげそのまま高杉に向けた。神楽が息を吸い込むのと同時に高杉の唇が切れた。本格的な喧嘩になってしまう。神楽は声をあげた。
「やめてヨ!」
しかし二人には届いていない。神楽はベットを下りると泣きはらした顔で二人の間に割って入った。
「止めてヨ!高杉――。沖田――。お願いアルッ…!」

「――何だってってんでェ!大体オメーが何で此処に来るんでさァ!何か知ってやがんのかよ!」
たまたま沖田は見ただけだった。保険室へと神楽が駆け込むのを…。しばらく立ち尽くしていたが、気になってしまい中へと入ると、すすり泣く神楽の声が聞こえたので勢いよくカーテンを開けた。しかし高杉は何を見ていた訳でもない。沖田は神楽の向こう側に居る高杉に今にも突っかかりそうな勢いだ。
「俺は何も知らねー!だからッ――。」
高杉が言葉を詰まらせた。真ん中で神楽が頬を濡らしていたからだ。
「オイ。どの道、このままじゃ俺たちにだって分かっちまうぜ。観念して何がオメーに起ってるかいってみろ。悪りィ様にはしねー。」

そうだ。どの道徹底的に調べあげるつむりだと、ならばここら辺で口を割らしても同じだと。唯一神楽が知られたくない沖田にも殆ど感ずかれてしまってるじゃないかと…。
しかしここでも神楽は首を振った。沖田は歯をギリっとならし神楽の肩を強く掴み揺らした。
「何ででさァ!何で口を割らねー。誰かに弱みでも握られてんのかよ!」
何も聞きたくないと神楽は両耳を塞いだ。顔はくしゃくしゃになっている。
「チャイナ!!!」
沖田と高杉の声が重なった。

「言いたくない!言いたくない!言えれないアル――!!!」



……To Be Continued…

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