act 10

8畳ほどの畳部屋には丁度四人分の布団がしいてある。
部屋の隅には、それぞれの荷物が置いてあるが、明らかに性格が出ていた。
四つあるうちの二つはキチンとチャックが閉められ、そして明日の朝着るであろう自分の洋服がきちんとたたんで置いてある。うち二つは、【チャック】さえ閉められてなく、中の様子は丸見えである。しかもバックの中身はといえば、明日着るであろう服を探す為にもみくちゃにされたと見られる形跡が素晴しかった。そこまでしたのにも関わらず、結局出されている服は形状を【山型】へと変化させていた。

おそらく、前者の二人は、口を挟みたかったに違いない。しかし何も言うまいと口に【チャック】したのだった。




「ねぇねぇ。さっきの沖田さんて…ねぇ?」
意味しげに口を先に開いたのはお妙だ。電気の光を一つ落とし柔らかくした真ん中、頭を寄せるように彼女達は集まった。枕を下に、ワクワクと足を布団の中でバタつかせ、その先の言葉を既に想像している。約一名を覗いて…。

「あれって、確信的っスよ。」
「そうね。総ちゃんったらあんなにムキになっちゃって。」

「えッ?な、何アルカ?」
石化としていた神楽は知る由もなかった事であって、神楽は何の事だか分からないと皆の方をキョロキョロと見ている。また子は、面白い場面を見逃したなとでも言う様にプククと笑った。それに同調する様にお妙は笑う。ミツバは声に出さないが微笑む程度の笑いを漏らす。

「何で二人とも素直になんないか不思議っス。」
「あら、沖田さんにすれば、今日の動物園は貴重な進歩だったと思うわよ。」
「電車の中での総ちゃんも、ちょっぴり可愛かったわよ。神楽ちゃんの手を引いて…。ね、神楽ちゃん。」
これについては神楽は意識があった訳で…。ごにょごにょと口を濁らせた。
「全くよ。あなたの所為で、せっかくの銀さんとの愛の時間がつぶれちゃったじゃない。」
おぉ!っと皆の視線は声の方へと集まった。いつの間にか神楽の布団の中に、そして神楽の隣に、同じように枕をクッションにねころんで居るのは、進入など、お手のモノだと吹く、あやめだった。

「ちょっ…。猿飛さん、貴方の部屋って確か――。」
「銀さんの隣、銀さんの一枚の布団の中のはずだったのに…。」
テンションだだ滑りのあやめの言葉を、最後まで聞かずとも結果は見えた。そして追い出されたあやめの様子と、追い出している銀八の様子が容易に汲み取れた。
確かに元々は、この部屋の五人目の人物だったのだが、強制的に銀八の部屋、と言う事に決定していたのも、その時間になれば、こうして追い出して終いにするつもりだったんだと銀八の頭の中が手に取るように浮かんできた。あやめはと言えば、狭いわね。と神楽を中央に押している。ぶつくさ言いながらも神楽は寄り、布団を分け合った所で話は再開された。

「大体ねー。あなた達じれった過ぎよ。もっとガンガン責めなきゃ駄目。いい?私みたいに―――。」
会話途中でお妙が口を塞いだ。
「それより神楽ちゃん、明日のお寺…。動物園で一緒に回れなかったし、皆で回らない?」
いっとくけど私は駄目よ?だって銀さんと二人で…。言うあやめをそのままにお妙は神楽に笑みをやった。
「あっ…えっと…。」
神楽の様子に何かピンと来たらしいのは全員だ。
「もしかして、総ちゃんと約束、してる?」
口をきゅっと噤み、神楽は顔をバフンと色づかせた。
「やややや、でも、皆とまわるアル。うん。」
「いやいや、いいんスよ?素直に二人で居たいって言っちゃっても。」
また子は堪えきれないように笑い声を漏らした。
「べべ、別にそんな事。断じてないアル。なにか勘違いしてるアル!」
「なーにが、勘違いっスか。顔に書いてアルっス。好きでたまらないって。」
「マジでか!?」
神楽の予想以上の声に思わず、あやめを含めくすくすと笑った。神楽はまずった様に枕に顔を埋め足をもっともっとバタつかせ、枕の上でぐしゃぐしゃと顔を振っていた。

「さっさと告白しないと…他の女にもってかれちゃうッスよ。」
それはないな…。皆は思ったが、どんなつもりでまた子が言ったのかを知っているので、それについて反論はしなかった。ただ枕の上でうぅ〜と唸る神楽が、不覚にも面白おかしく、そして可愛らしいと、様子を伺っている。

「ちょっと。頑張りなさいよ。私も頑張るから。」
布団の中で、あやめが神楽を肘で小突いた。この中で意中の人と、確定的な関係を持ってないのは自分と神楽だけであって、冷やかしながらも、変に通じるものがあるのだと思えた。トレードマークの眼鏡を枕元に置いては居るが、流石に真隣に居る人物を間違える事はなかった。そんなあやめに、連帯感ではないが、やはり共通する何かを、神楽も感じ取っていた。二人見つめあうとフンと鼻息荒く頷く。

何かが違う。何かがアンタと神楽ちゃんでは大きく違うくないか…?
思ったが、鼻息荒く瞳を燃やす少女達に何も言う気にはなれない。もしかすると、普段じゃなくいつでも何処でもやる気がない銀八の隣に並ぶのは、案外この力強い瞳を燃やす少女かもしれないのだ。この普段とは違う修学旅行と言う学生最大級行事の中で何かが変わるやもしれない。そしてそれは一概に少女達だけではなく、自分達も同じだと言う事…。事にミツバとまた子にしてみれば、今日の出来事で、もっといえば動物園らしき辺りから、彼氏の気分はご機嫌斜め所か水平なる勢いだった。何とか機嫌を取ってみようと心得たが、少年の傷、と言うか恨みは、案外じゃなくても深かった。まるで深海の如く…。深く濁りすぎて何処まですれば気が済むのかさえも見当がつかない。

こんな場所で喧嘩したくないのは言うまでもない。だからこそ、明日は皆で回ろう、そうすれば変に別行動をするより、いい方向に進むかな、進むといいな…と殆ど願望に近いものが感情を占めていた。

明日は寺だけあって、喧嘩する場面もそうそうなかろう。いっそ寺の雰囲気にあてられ、浄化してもらってと願いを込めて…。

「じゃ、明日は皆で行動すると言う事で…。」
「でも、銀ちゃん絶対一緒に来ないと思うアル。むしろバスの中で待ってるかもしれないアル。」
神楽が最もな意見を述べた。すると、あやめはふふふと笑った。
「ハナから、あなた達と一緒にまわろうなんて思ってないから。私は銀さんと二人で寺を堪能するからいいのよ。いっそ挙式しちゃうからいいのよ。」
どんな理屈のもとで挙式とツッコミたかった神楽だが、問題は其処じゃない。が、神楽が口を開く前にお妙が開いた。
「だから銀さんは、典型的な面倒くさがり屋だから階段登って歩く訳ないじゃないって言ってんだけど。」
「あら?銀さんOKしてくれたわよ。」
勝ち誇った様なあやめの表情に、さすがに唖然とした。言葉を続ける。
「階段登った後に、有名な甘味屋でお団子とあんみつ食べさせてあげるって約束したもの。」
思わず肩を崩したのは、間違いなく神楽だ。
「んな、銀ちゃんと同じって〜〜。何か馬鹿にされてるみたいで嫌アル〜。」
この意味がわかるのは神楽ひとりしか居なく、思わず首を全員でかしげた。そんな中、神楽は一人で、やっぱ一緒に居る時間が多いと、こんな所まで似るのかと、もしくは、沖田とあやめが変な所で似てるのか…などと考えながら声を漏らした…。


……To Be Continued…

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