act 19

なけなしの勇気は、さっきの一言で、こっぱ微塵に粉砕された。
今、雅に置いてきぼりをくらい、更に、見た事のない不機嫌さをそこら辺に撒き散らせている蒼に、恐くて近づく事さえ出来ていないのは、言うまでもなく、頑張って声を出してみたが、うやむやに終わった寧々だった。

寧々の頭の中には、色々な事が目まぐるしく回っていた。

その中でも、一番に思ったのは、やっぱり雅は凄いな、と言う事だった。あれだけ不機嫌さを撒き散らしていた隼人に難なく声をかけるどころか、それを更に上に行く様な不機嫌さを醸し出し、更にはあっと言う間に隼人を素にもどしてしまったのだ。コレには、もぅ、感動するしかなかった。自分がどう逆立ちしようがあんな風にはなれない。逆ギレなんてもってのほかだった。しかもそんな逆ギレする雅を怒るどころか、なんというか、呆れると言うか、宥めるというか…。うまく言葉が見つからないが、隼人は雅の機嫌を損ねたくないとでも言う雰囲気だったのだ。

その後、更に逆ギレした風な隼人だったが、初めの怒りとは、【種類】が違っている様に、寧々の目には見えたのだ。そんな隼人に目を吊り上げ声をあげる雅には、正直あっぱれと見惚れてしまった。

そんな寧々だが、危機は自分の元へまだあるのだ。しかもすぐ目の前の方に…。

先ほど、ちょっと頑張ってみた自分だったが、勇気と言うメーターは今はもう、うんともすんとも動かない。
教室は、先ほどの雅と隼人の騒動でざわざわとしていたが、少し落ち着きを取り戻したかと思えば、次のターゲットに目をつけた。

寧々だ。

......


廊下から入ってきた女子の一人が、軽く寧々を押した。
寧々はハッと息を瞬間飲み込み、上履きのつま先で倒れそうになるのを阻止したが、声は出せなかった。驚きのあまり、息がとまったからだった。
付き合ってると言っても、自分はまだ、信じられないくらい蒼の事を何もしらない。
こんな一面があるのも、勿論知らなかった。そして、雅の様に上手く蒼に話す勇気もなければ、近くによる行動力もない。そんな寧々だからこそ、女子は面白がった。

やっぱりこの子は雅とは違う。
そう思うや否や、複数の女子の手は、寧々の体にへと触れた。前に、前に、押し出すように…。
上履きのつま先で、必死に抵抗してみるが、その手の力は強く、ツン…ツン…、と前にと体が出てしまう。
もう泣きそうだった。変わりたいと思ってはみたが、やっぱり自分は変われない。雅の様になんて、なれない…。

助けてと叫ぶ自分と、もっと、もっと、ちゃんと自分で立ちたい。ちゃんと雅や、隼人、そして、一番に蒼の隣で堂々と笑っていたい…入り混じった。

すぐ前には、蒼が居る。けれど、自分が見た事もない蒼が居る…。

ガシャァァン!!!

踏ん張り過ぎた体だったが、いい加減イライラしていた女子の強い一手の所為で、寧々の体は強く前にと突っ込んだ。その先にあった誰かしらの机にぶつかると机の上のペンケースが派手に床へと落ち叩き付けられた。
倒れないようにと必死で机を掴んだ寧々の手は、恥ずかしさと、強くぶつけてしまった痛みとで震えていた。床へとついた膝はジンジンと痛みを心に届け、自分でも分からない自分の表情を必死に隠そうと俯いた…。

プッ―――。

くすくすと笑い声が漏れた。
寧々の綺麗な葡萄色がさらさらと顔の横に流れた。じわじわと羞恥心が目頭へと上っていき、もうピークになる瞬間だった。

「オイ!大丈夫かよ!」
体という体の意識がピンと張りつめ、瞳は大きく開いた。そんな自分の、硬直する肩は声と共に強く掴まれた。



……To Be Continued…

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