act 16

するりと抜けた男の熱は、あっと言う間に冷めてその隙間を冷たい風がすぅっと通った。
今しがた出ていった背中をどうする事も出来ずに見送ったが、何も考えれないまま、とりあえず教室に戻ると、もう其処には誰も居なく、自分の鞄だけが机の上にあった。

丁度今の時間は夕陽が教室の中に入っていて、鞄を持つと、ほんのりと温かさを感じた。


昼間は騒がしい校舎も、今は、部活で外の方が騒がしく感じた。
下駄箱から靴を取り下にストンと落とすと思ったより大きな音がして、先ほどの蒼とのやりとりが頭の中に浮かんだ。

今頃、寧々に追いついたかな…。
何を話してるんだろう。あの蒼が…。考えてみるがやっぱり想像できるものではなく、携帯を取り出し無意識の内に寧々の番号をだしてはみたが、じっと見つめ、静かにしまい、歩きだした。

校舎を出るなり夕陽が直に顔をあてた。思わず手で遮りながら歩いていると、校門の所で先ほど話していた男の影を見つけると、はっとし、思わず其処まで走ったが、丁度すぐ後ろまで来た所できゅっと足を止めた。





「心配しなくても、あいつはしっかり自覚してる。寧々を傷つけるようなマネは絶対しねーよ。」
振り返ると、トレードマークの伊達めがねが見えた。走って姿をちゃんと確認できた時にまさかと思ったが、やはりその姿は蒼ではなく、隼人だった。

隼人の言葉が何の事を言ってるのか理解すると、ゆっくり雅は口を開いた。
「見てたの?」

ふっと笑った隼人だったが、どちらの意味で笑ったのかよく雅には分からなかった。
「街に新しいクレープ屋が出来たんだってよ。オメー好きだろ?」
言うと隼人は歩き出した。
質問の答えを結局もらえず、しかも好きだろとまで聞いておきながらスタスタと前を歩き出した隼人の背中を唖然と雅は見ていたが、確かにその情報は少し前から小耳に挟んでいて、食べたいと思ってた事もあって、少し足を速めながら隼人の背中を追った。






「だって、あの蒼なんだよ。心配して当然でしょ?寧々は大切な友達なんだから。」

両手で形状が崩れないようにチョコバナナアイスクレープを持ち、かぶりついた後、まだ口にアイスが溶けきってないうちから言葉をだした。唇の両端にはトロリと溶けたバニラとチョコレートソースが色をつけていた。

隼人は鼻で笑うと、親指の腹で器用に雅の口元を拭った。
触んないでよ。言いたかったが、その直前に食べたバナナが口の中をゴロゴロと踊っているので、とりあえず何も言わないであげた。

「じゃぁ、あの二人がうまくいかない方が雅はいいんだな。例えお互いの気持ちが向いてたとしても…だ。」

「寧々ってば、蒼の事が好きなの!?」

思わず出てしまった言葉の所為で、危うく口の中の噛み砕かれたクレープの残骸まで飛び出しそうになり急いで口を覆った。しかしその視線は真っ直ぐに隼人の方に向けられている。
「よく見てりゃ、気付くと思うがな。」
口の中を必死に動かし、ゴクンと飲み込んだ所で、やっとと、雅は口を開いた。
「いつ、あぁ、でも考えたら色々と…。でもやっぱり――。」

ふむぅぅと考えるように眉間しに皺を寄せた。
確かにそんな片鱗は垣間見えていた。それは認めよう。ただそれは男に免疫がない寧々が見せたしぐさだと思っていたのだった。しかしそう思ったら…。

「あたしってば、邪魔しちゃったって事?」
良かれと思ってやってたが、実は思いっきり邪魔をしてたのではないか?
ってゆうか、そうだろうと雅は口をポカンと開けた。クレープの中のアイスが少しずつ溶けだした。

隼人は雅の手からクレープを取ると大きく口をあけアイスの塊を口の中へと放り込んだ。

「邪魔ではねーだろ?お前はお前なりに二人の事を考えた上の行動だったんだしな。」
「でも結果的に、邪魔した事になるよね…。」
「結果的にうまく行ってるんだからいいんじゃねーの。」
「えっ、うまく行ったの?ねェ!そうなの!」
残りのクレープを隼人が食べきったが、もうそんな事どうでもいいと、雅はベンチを立ち上がり真剣な眼差しで隼人を見下ろした。

「多分な。電話がならねーもん。」
隼人の言葉に雅は、はっと息をだしたかと思うと、脱力した様にベンチに項垂れた。
「良かったぁ〜。良かったね〜。」
背もたれに、うっとりとする様に雅は言葉を漏らした。心底心配し、心底喜んでいる様子が本当に現れていた。隼人はふっと笑うと、少し手に付いたチョコレートソースを舐めると口元をあげ、雅を見た。

「で?」
「で?」

隼人の言葉をオウム返しした雅は、本当に分からないとでも言う様に首をかしげた。
「俺らはどうなるっつー筋書きなんだ?」
「ハッ!?お、俺ら?す、筋書き!?なななに言ってんの!?」
思わず隼人から体を離そうとしたが、その前に両手を掴まれ、ベンチの背もたれに縫い付けられるようになった。
「俺らもうやる事ヤっちゃてんだけど。」
「ヤる事!?へ、変な事言わないでよ!まだキスしかッ―――。」

墓穴を掘ったとあわわと唇を震わせたが、時既に遅し、余裕のある笑みで体をそのままに雅の顔に近づいた。
「彼氏でもねー男とキスする奴だったのかよ。お前…。」
誘導されていると分かっていたが、雅は言葉を出してしまう。
「そんな軽い女じゃない!てかあれは隼人が――。」
「嫌なら引っ叩いて逃げりゃぁ良かったンじゃねー?」
「そんな今更…大体――。」
反論の言葉が出てこないと雅は見下ろされたその影の下でうぅぅ〜と唸った。
「ほんっとお前って馬鹿。」
「馬鹿!?ばかって言った今!?」

「蒼と寧々が付き合う前から俺ら付きあってンじゃねーか。なァ?雅ちゃん?」
あまりにもありえない言葉に口をパクパクとさせ言葉を失った。
「ンな…。あっ…てゆーか…じゃなくて…。」
ブフっっと隼人が吹いた。が、余裕ありげに又もや笑うと雅の方へと顔を傾けた。思わず雅は背もたれから下にズルズルと体を沈めた。

「だからオメーは甘めェーっつーの。」
言いながら、右手で雅の背中の下に腕を回し抱くと、自分の方へと引き寄せ有無を言わさずそのまま重ねた。

驚きに見開かれた瞳はユラユラと揺れた。軽く触れた程度ですぐに離されたその温度にさえ気付かないでいたが、眼鏡越しに見つめられたその瑠璃色があまりにも綺麗すぎて、思わず見とれた。

「覚えとけよ。自分の彼氏くれー。」

あっけと見つめた。しかし嘘か誠か、信じれないような気が溢れんばかりに自分の中にあるが、信じてみたいような気もしたのと、言われて初めて、こいつの事が好きなんだと気付いた思いが意外にもすんなり首を縦に振らせた。振ったあと、やっぱり信じれないと首をそのままにしていると、頬を持たれた。

かァっと熱が其処に集中したのが分かった。思わずぎゅっと目を瞑ってみた。しかしその頬に伝わる熱は一向に冷める気配はなく、むしろその温度をどんどんと上がらせてゆく。そんな雅に更に隼人は親譲りのS心を発動させる。

「聞きてーンだけど。」
何を?首をかしげる事で表した。
「雅の気持ちを、雅の口から。」
わっと雅は表情を驚かせた。
「無理。そんなの絶対無理!」
「無理じゃねーだろ?」

ココロを解きほぐす様な柔らかい笑顔を隼人は見せた。これは作戦なんだ。絶対に乗っちゃ駄目だと雅は必死で抵抗した。

「じゃぁ、じゃ隼人が言ってよ!そしたら私も言ってあげる!」
プライドの高そうな隼人は絶対に言わないだろうと、そして言わないんだったらこちらも絶対言わないでやるものかと雅はほんの少し余裕の笑みを見せた。しかしその笑みは直後に木っ端微塵に粉砕されサラサラと風にふかれる事となった。

「好きだ。惚れてる。自分でも信じられねーけどな。かなり重症だと思うぜ。」
アンタのその頭の回路は本当にぶちきれていると雅は思いながらも唖然とし、それと同時にじわじわと内側から出てくるとこらえきれずにほんのりとほっぺを色ずかせた。次はお前なと声がした。自分ばかり振りまわされている感が強いが、しっかりと気持ちを出してくれたのも事実であって…。

「だって、まだよく分からない…もの。」
言い訳がましく口がすべった。
言った後に、ずるい。自分でも思った。

しかし隼人はそんな雅を見て笑うと、軽くその唇に音を鳴らせた。
「まぁ、焦るつもりはねーよ。付き合ってくうちに始まるナンとやらって言葉もあるしな。とりあえず宜しく。彼女さん。」

ふっと笑うと、拘束していた雅の手を離し、夕陽を遮ってたその体を離し、そっと手を差し伸べた。
夕陽が顔に当たって目がチカチカとした。こんな風に始まっていいものだろうかとココロでは思ったが、言うタイミングを逃してしまったが、この差し伸べてくれる手は離したくないとゆっくりとその手に自分の手を絡ませた…。





……To Be Continued…

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