act 17

暖かい日差しが差し込む教室、先に居たのは、いつも遅刻間近にくる雅の方だった。
見るなり寧々はあっと口を開いた。まだ殆ど人は居ない。当然蒼や、隼人の姿などあるはずもなかった。
雅はほうづえをつき、ベランダの向こう側に視線を向けている。かといって其処に何か目当てのものがあるのではなさそうで、ただただ、どこか上の空といった感じだった。

クラスメイトは来てるものの、それぞれ廊下やベランダで談笑の最中だった。
寧々はそっと雅に近寄った。席を引いたことでやっと気付いた雅は、おはようと笑顔であいさつをした。

「雅ちゃんがこんな時間に来るなんて、珍しい。」
クスっと笑いながら寧々が言うと、頬を染めた。
「な、なんとなく早く起きちゃって…。やる事ないし、来ちゃったと言うか…。」
頬を染めた雅の不自然な緊張が寧々にも伝染したのか、寧々まで少々頬を染めた。おかげで瞬く間に会話はきれ、寧々は空へと、雅は遠くのグラウンドへと移した。しかしそんな沈黙も長くは続かない。シンとした空気を裂いたのは、遠慮がちに口を開いた雅の方だった。

「昨日…その…。」
切れた言葉から何かを感じ取った様に寧々は思わず俯いた。
「うん…。」
雅の方もその一言で何かを感じ取ったらしい。しかし寧々の方は雅と隼人の事は、何一つ知らないままであって…。不公平と言う訳ではないが、雅は言いずらそうに口を開いた。
「あ、あのね…実は…あの…。」
ふわふわの髪が風に靡く。右手で唇や頬をいじいじと触りながら、ちらちらと寧々の方を見る。まだこの時点で寧々はキョトンとしている。
「隼人、とね…。」
此処まで来たら最後まで言う必要はなかった。寧々は驚いた表情をしたが、すぐに笑顔になった。
雅は恥ずかしそうに口をきゅっとむすんだ。そうかと思うと、いきなり雅は顔を寧々の方を向き、真剣に見つめながら口を開いた。

「寧々の事、あたしが絶対絶対守って見せるからね!何かあったら、絶対あたしに言ってね!」
一瞬あっけに取られていたが、クスクスと寧々は笑い出し、一息つくと、おもむろに口を開いた。
「雅ちゃん…。ありがとう。あたし嬉しい。雅ちゃんが友達で、凄く嬉しい。」

寧々から出てきた言葉に、雅は思わず感動してしまった。
口数がとにかく少なかった寧々が、自分だけに少しづつ心を開いてくれ、笑ってくれる様になって、心からの笑顔と言葉を言ってくれる。本当に嬉しかった。二人クスクスと笑い一気に空気が和んだ。
「ね、蒼、優しい?」
「えっ…。うん、優しいよ…。」
寧々の反応を面白がる雅は、イタズラな顔をしている。寧々はちょっとホッペタを膨らますと、雅に質問を投げ返した。
「隼人、君は…優しい?」
寧々の口からの質問に、雅は思い切り同様する。
「あ、あいつ?ぜ、全然優しくなんかッ…。てか強引だし…。」
昨日の事を思い出したのか、雅の顔はたちまち赤く染まっていく。

そんな時だった。声がしたのは―――。

「ねェ。」
声がした方に二人同時に振り向いた。一瞬蒼や隼人と連想させたがどうも違うらしい。
二重瞼にしっかりとメイクを施した綺麗顔のサラサラストレートヘアーの娘一名、隣のもう一名は、これでもかとつけられたグロスにマスカラを三重塗りはしてるだろうと言う大きな瞳、肩までの髪は朝の陽にあたって茶色にも金色にも見えた。
見た事のない顔なので、すぐに他クラスの娘と雅は気付いた。
「近頃、蒼と隼人にくっついているって娘がいるって噂になってんだけど、アンタら?」
いかにもキツそうな娘。おそらく代表して、近頃の噂の真相を探りにきたと考えれた。
雅はやっぱり、そんな目で一瞬項垂れた。だから嫌だったのよ。一瞬思ったが、ならば隼人との事を全部白紙に戻して、顔も見ず、声も聞かずと言う事が出来るかと聞かれれば、答えはNOだった。
どちらかと言うと、落胆したような先ほどのため息は、むしろ自分に対してだった。こうなる事が分かっていて、昨日全て受け止めたのだ。だからこの事態は少なくとも予測できていた事だった。

彼ら双子はいわずとも有名人である。学年は勿論、後輩の女子、更には他校の女子までもが校門で告白待ちをしていると言う場面を何度も見た事がある。今更だが、人生が何処でどう交わって、その彼らが自分の彼氏になってるのかと、逆に聞きたいくらいだった。どこでどうひっくり返ると彼らから告白されなければいけなかったのか、大体にして、彼らは何故自分達を選んだのか、考えれば考えるほど答えは深みにはまっていく。

しかし、とにもかくにも、今はそんな事を考えている状態ではなく、目の前の女の毒から寧々を守るのが先決だと雅は考えた。だが、実は寧々の方こそ、大事な友達を傷つけられたくはないと珍しく眉間に皺を寄せてどうしようかと恐くてたまらない中、考えていた。

「とりあえず、廊下、廊下出てよ。」
その場しのぎな答えを言っても、今更仕方ないだろうと雅は腹をくくった。が、寧々に矛先がいくのは阻止したかった。不機嫌そうに、何でと言う表情をしてる二人の腕を掴むと無理やり雅は手を引き進んだ。だが、一人にしてはおけないと寧々が立ち上がると雅は首を振った。

恐い、恐くて仕方がない。寧々は大きく鳴らす心臓にぎゅっと握った拳をあてると、十分鼓動が聞こえた。自分に一欠けらの勇気があるのなら、こんな時につかってこそ意味がある。寧々は大きく行きを吸い込んだ。
「待ってください…!」
あの寧々から、こんな力強い声がと雅が一番驚き、驚いた。
「あたし――。あの、あっ…。――――そ、蒼君と…。蒼く…。」
浅く深呼吸をしながら言葉を吐き出すが、声は震え、目をぎゅっと瞑り、喉を何回も何回もならしつつ…それでも最後の言葉が出てこない。しかし寧々は頑張った。
「蒼くんと、つ、つ、付き…つきあってます!」


……To Be Continued…

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