act 8

楽しい時間というものは、いつだってあっと言う間に感じてしまう。
勿論、本当に早く時が過ぎる事はありえないが、人間の感性というものは錯覚を起こしやすい。神楽は今、丁度その錯覚にとらわれていた。

昼食前にアイスだポップコーンだと買い食いを重ね、その機会を逃してしまい、集合時間まであと少しと言う時に、神楽と沖田は園内のカフェに居た。もう夕方近くにもなる時間に昼食を食べる生徒も居なく、店内はガランとしていた。おかげで何だか気まずい上に、一言一言が反響してしまう。

店員は暇な時間だと奥に引っ込んでいたおかげで人の目を気にする事は無かったが、逆に二人きりを意識せずには居られず、目の前のオムライスとお子様ランチと、沖田とを交互に視線を交わしていた。

「早く食べろ。集合時間になっちまうぜ。」
むぅと神楽は膨れた。そんな事言ったって…。思わず出そうになったことばを飲み込んだ。

沖田はといえば、腹が減ってないと飲み物だけを注文し、神楽だけが食べているのだ。そして神楽自身、今更だが、注文した事を後悔していた。集合時間になり、もう一度バスに乗れば後は宿泊地にレッツゴーだ。
そうなると、必然的に其処では夕食が待っている。何も急いでこんな処でお腹がすいたと沖田に強請らなくてもよかったのにとスプーンを噛んだ。

神楽がそう思う理由がもう一つあった。
先程から沖田の視線が自分にずっと向いているのだ。席が向かい合わせなので仕方がないといえばそうだが、当然食べずらい。何度もあっちを向けと言ってはみたが、五分もすれば自分に視線を寄せていた。

これでは食べられないと食事をやめてみたが、集合時間に遅れるから早くしろと言われ…。

「だったらお前が向こうむくアル。」
「今更なに言ってやがんでィ。テメーの大食いなんぞ見慣れてらァ。」
神楽は頬を膨らました。そう言う問題じゃないアル。口からでそうになった言葉を飲み込んだ。

しかし集合時間まで時間が迫っているのも本当であって、神楽は仕方なく口に運んだ。すると沖田はふっと柔らかい笑みを見せ、そんな神楽を見た。
「お前も何か食べればいいのに。」
「悪いが俺はそんな強靭な胃袋を持ち合わせていないんでね。」

沖田の言葉にムっとさせた神楽だったが、意地になった様に口に詰め込みもぐもぐと口を動かした。すると今度はそんな神楽が面白いように沖田は軽く吹いた。それでもかまうかと神楽は沖田の視線を無視するように口へと運ぶ。しかしそんな簡単に無視できるようなものでもなく、まもなく喉を詰めた。ぐふっと色気の無い声を発し、必死で喉を押さえ、沖田が差し出した水を含んだ。喉をならし流し込んだあと、大げさに肩で呼吸をし、涙目になり沖田を見た。

「シ、死ぬかと思ったアル…。」

沖田はクッと笑って神楽の涙を指の腹で拭うと、神楽が再び頬を色づけた。あれだけ電車の中で口をきくどころか、不機嫌さを表に出していた沖田と同一人物かと思うほどに、目の前の沖田 総悟は優しかった。
神楽はもう一度ゴクンと水を飲み、ゆっくりと口を開いた。
「あ、ありがとうアル。」

神楽から思いがけない言葉が出てきた事で沖田は目を丸くした。
「本当は、一人で、どうしようかと思ってたけど、楽しかったから…。」
「どういたしまして。…まァ、散々俺の財布の中身を使ってくれたっつーのはあるけどな。」

返す言葉もない。ここでの会計も沖田が払うのだ。何せ、けちな銀八によって神楽は殆どお金を持っていない。
まるでこうなる事を見越したような計らいだとは気付かないようだったが…。

「だ、だからありがとうって言ってるアル。」
だんだんとシュンとなる神楽に沖田は身を乗り出した。
「なァ。明日は何処行くかしてますかィ?」
なんだと神楽は首をかしげた。沖田はチョイチョイと人差し指で神楽を近づける。
「寺だと。其処にある抹茶クリーム餡蜜っつーのがカナリ美味いって話ですぜ。」
「マジでカ?!」

神楽は沖田の顔の側で瞳を輝かせた。
「マジでさァ。みたらし団子も有名みたいですぜ。寺の長い階段を登った後…。腹を満たしてくれる甘味…。」
「やばいアル!もぅお腹が減ってきそうアル!」
「だろィ?でも残念でさァ。銀八から貰ったのは300円。一桁もちげェ。可愛そうなチャイナ…。」
「うおォォ!銀ちゃん恨むアル!あのクソ天パー、いっそちりじりに燃やしたいアル!!」

沖田の言葉に神楽は引き込まれ、その妄想を今最大に繰り広げている。
狙い通りだとでも言う様に沖田はにやりと笑う。実際狙いどうりの線が強かった。

「なァ。」
妄想から神楽を呼び寄せる。
「俺が一緒に食ってやろうか?」
先程の様子から一変、視線を斜め下に、その瞳をキョロキョロと…。
しばらくした後、その角度のまま至近距離にいる沖田を見つめ、コクンと頷いた。
「し、仕方ないから一緒に食べてやってもいい、アル。」

言いながら、どんどんと染まる頬に、沖田はこみ上げてくる感情をおさえるのに必死で口元の笑みを掌で隠した…。


……To Be Continued…

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