act 7

「あっ…。手よ手!沖田さんが神楽ちゃんの手を引いてるわ。」
「マジっすか?」

高くそびえる象の檻の影から、身を乗り出すように見ていたお妙とまた子はキャァと喜び手を絡ませた。

その直後、「移動するみたいだ!」と目をキラキラと輝かせた近藤が声をあげた。二人はすぐに又尾行バージョンに戻り背を低くしつつ、バレない様に、バレない様にとこそこそと後をついて行く様に動いた。

なんの為に来た動物園だと言いたくなるが、只今真剣に尾行真っ最中の三人は、他の事が一切見えていない。

そんな二人の背中と、もう近藤だかゴリラが檻から逃亡しているのか分からない背中を見ながら、土方はため息をつき、「ほっとけばいいじゃねーか。」と最もな意見を言った。

すると、すぐに、また子とお妙から猛烈な、そんでもって突き刺さる様な冷たい視線を浴びせられ、土方は顔を引きつらせた。

「なんの為に、私たちが神楽ちゃんを一人にしたと思ってるの!」
「そうッスよ!女心が全く分かってないっス!」
そうよそうよ!二人に混じって近藤の甲高い声も混じった。
キモ可愛い、ではなく、ただただキモイ近藤に土方は思わず顔を覆った。

何てバカバカしいこの状況。
かといって此処から逃げ出そうともんならミツバを人質に取られる危険性があった。

そして当のミツバでさえも、このバカバカしい状況の中、楽しんでこそ居ないが、たった一人の血を分けた弟の恋模様を心配している風であり、だからこそ、中々土方も動けないで居るのであった。

そしてもう一人、かぎりなく面倒くさそうな面をしたまま、近くのベンチに腰を下ろし、堂々と煙、をふかしている男一人発見する。この馬鹿な事に首を突っ込みたくないゆえ、もぅいっそ俺に話しかけるなと言うオーラを醸し出している。
此処でいつもなら、止め役の彼女である、また子が急いで駆け寄りその火を消すのだが、今日はそれどころじゃないらしい。

おかげで彼の足元にはいくつものタバコのカスが落ちている。それはとても目立っていて、しかし面とむかって注意ができる様な勇敢なやつも居るはずなく…。

そんな男の横にドスっと腰を下ろした男が二人…。

「たっかすぎくーん。そんな事してたら、俺が何か言われる訳よ。分かる?」
そう言いながら自身の胸ポケットから一本取り出し、ライターで火をつけ高く煙を吐いた。
その隣の男は、今しがた火をつけた天パーの男の胸ポケットから勝手にそれを取り、ちゃっかりと持っていたマヨネーズ型ライターで火をつけるなり、あっと言う間に深く吸い先端を赤く色ずかせた。


「つーか。何とかしてくれ。よりによって近藤さんまで何やってんだ。」
ため息と一緒になって、白く吐かれた煙は一瞬の間に空気と溶けた。
「いやいや、アレはあれで楽しンでんだからいいんじゃねー?」

遠い目をしながら、女子高生の背中と、逃げ出したと思われるゴリラの背中、そしてそれを困った様に、しかし心配そうに見守る小さな背中を見つめながら銀八が言った。

「つーか何だ?動物園に来たんじゃなかったけか。」
「いーや。チャイナと総悟を見守る会に来ちまったらしい。」
「いやー。マジで同情するわ。何が恐いって…なァ。」
銀八はくくくと笑いながらベンチを立つと、ご愁傷様だと手をひらひらさせながら立ち去った。

『何だ、ありゃぁ―――。』
銀八の背中を見ていたが、そのうち二人とも同時にベンチを立った。
面倒くさくて仕方ない…。が。
「行くしかあるめェ。」

ダルそうに高杉が言葉と同時に歩きだした。その後ろを土方がつき歩き、また子の背中が見え、その向こう側に居る沖田の姿が見えた。近藤達の側に土方と高杉がつき、口を開いた。
「つーか、いい加減にしろ。あいつにもプライベートってもんが――。」
直後、離れた沖田がコチラ側を一瞬見た。皆の口が一瞬にして開いたのは言うまでもない。
しかし沖田は神楽の方へと向くと、柔らかい笑みを見せ、財布から小銭を取り出し、神楽に持たせた。神楽の顔は満面に輝き、キャッホーイと少し離れたアイス売り場へと駆けていった。

沖田は右手を軽やかにあげ、いっておいでとも言える様な笑みを見せたあと、ドス黒い笑みを振り返り見せた。
全員の体がヒクリと震えた。
沖田の前を園内の修学旅行対策で雇われた警備員が通った。
その警備員の肩をトントンと叩くと、まさにコチラ側を指差した。沖田はとっても困った表情をさせた。

すると警備員は沖田に一礼すると、一直線にコチラ側に向ってきた。逃げる間はない。
皆の前でピタリと止まった。
「土方くんと高杉くんと言う子が、彼女をストーキングするので止めて欲しいといっている。悪いがちょっと事務所まで来てもらっていいかな。」


怒りを通り越して、嘆きの叫び声がキーンと筒抜けた…。





.....

「トッシーの声が聞こえたアル。」
つーか、皆何処にいるアルカ?言いながら神楽は携帯を出した。その手を沖田がやんわりと止めた。
「邪魔するモンじゃねーよ?いいじゃねーか。テメーの面倒は俺が見てるんだから。なァ?」
面倒?神楽は口を尖らしたが、先ほど買ってきた二人分のアイスのうち、沖田のチョコレートのアイスを口元に持ってこられるとはむっと食いつき、「そう、アルナ。」と頬を染めた。

幸せそうにアイスを食べる神楽を見ながら沖田は表情を和らげる…。

「せっかくチャンスなんでェ。邪魔なんかさせやせんぜ…。」
「え?何か言ったアルカ?」
「いいや。ナンも。」

言いながら沖田は口元に付いたチョコレートアイスを手の腹で優しく拭った…。

……To Be Continued…

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