act 29

電車の席の足元には、俗に言う、駅弁の残がいが数個ある。そして神楽の手の中に更に一つ、そしてきわめつけに沖田の膝の上には、もう二つ弁当がある。それぞれ一つとして同じ弁当はない。全種類制覇するアル!と神楽が言った結果だった。沖田は遠い目をしながら、買った時の状況を思い出していた。気前いいねェ!と言う50代の店員は皆でおでかけかい?と聞いた。が、神楽はなんの躊躇もなく頬をそめ、日帰り温泉旅行に二人で行くアル…。と言った。幸せそうだねェ、との声が返ってくるはずだ。普通なら。しかし店員は弁当の数と神楽の言葉、天秤にかけてるがどうしても数があわない。本当は連れが居るのではと店員はしきりに後ろをうかがってたのは言うまでもない。

最後、沖田が促すように神楽を電車に乗せたが、最後まで店員は唖然と立ち尽くしていた。

「食べないなら私が胃袋の中におさめるアル。貸すヨロシ。」

沖田の膝の上にある弁当二つを神楽は凝視するなり口をひらく。どうやら残り二つの弁当も気になるらしい。その中の一つは唯一沖田が選んだ弁当であって、神楽が残り一個になるのを待っていたのだ。
「何言ってやがる。残り一個になったら私と一緒に食べようっていったのは誰でェ。」
「む…。そうだったアルカ…?仕方ないアル、じゃぁ、一緒に食べるアル。」
神楽は沖田の手の中の弁当を取った。
「ハッ?いやいや、ちげェ。そりゃ俺ンだ。オメーはこっちだ。」
当然の様に神楽がとりあげ蓋をあけようとしている所を沖田は掴む。
「だってこっちの方が何か美味しそうアル。」
「そんだけ何個も食ってりゃ、もう味も何も分かンねーだろうよ。」
「そんな事ないアル!だからこっちを食わすアルぅぅ!」
沖田が取り戻そうとしている弁当をぐぐぐと神楽が引っ張る。若干弁当の形が変形してきた。
「オイ。この手をオメーが離さなけりゃ喧嘩勃発しちまうぜ?」
「何を言ってるアル沖田さん。ちょっと沖田さんがこの手を離せば万事上手く治まるアル。むしろこの神楽様の愛を無償で受けることが出来るネ。」
弁当を取り合いしている時点で無償もクソもねーだろうと沖田は思うが、神楽の愛と言う言葉に、思わず意思がぐらついた。
「いやいや、神楽さん?アンタ何個食ってるか知ってっか?その中の一個までもモノにするたァ女として何処か疑いやすぜ?」
こんな女と分かって付き合ってんじゃなかったアルカと思いつつも女として疑われると言う言葉に思わず意思をぐらつかせた。
で、結果…。こうなる―――。



「じゃぁ…。別にいいアル…。ふーんだ。」
弁当の手を離してその余った手をいじいじと遊ばせながら背中を沖田に向け、拗ねた。

こうなると勝敗は決まったも同然であり…。
「―――何で俺が毎度毎度…。」
気に入らないとぶつぶつ沖田は文句を言っている。しかしその弁当を神楽の前に差し出した。
「んじゃいいから食えよ。」
「嫌アル。もういらないアル。」
「いいから、食いたかったんだろうが。」
「だってお前怒ってるアル…。」
そうだ。いっつもこの路線にのっかってしまう…。
分かりきった台詞を神楽が吐き、それに分かって自分が乗っかる。思わず沖田はため息を漏らす。
「怒ってねー。」
「嘘ネ。」
「コレ以上つまらねー言い合いを続けるなら俺もそろそろヤバイがな。」
言うなり神楽がほっぺを膨らましながら沖田の方を振り返った。
「絶対怒らないアルカ?後でも絶対アルカ?」
これは沖田に後で文句を言わせないために言う神楽のいつもの呪文だ。
「あぁ、絶対だ。」
そしてくやしいが自分はコレに乗ってしまう。
沖田の表情を神楽はジーと見る。沖田が呆れはしつつも、怒ってはいない事を確認するなり、満面の笑みを作った。そして目当ての弁当を沖田の手から取ると蓋を開けた。
「うおぉぉ!すっごいアル!さすがお前の選らんだやつネ!めっさ旨そうアル!」
だろうな。思いはしたがあえて口にはださず、沖田の方も最後の弁当をあけた。しかし駅弁だけあって、そんなに悪くない。こんなんならば取り合いなどしなくてもよかったのではと思った。一歩間違えば神楽の天邪鬼が発動するやもしれん。そう思ったら危うく地雷をふまなくて良かったとの思いに駆られた。しかし神は最後の最後で沖田総悟に見方した。

尻にしかれっぱなしの彼を哀れに思ったのか、彼女に尽くす彼に感動したのかさだかではないが――。

「沖田。んっ!。」
差し出されたのは、何の変哲もないカマボコ。しかしあるのは神楽の口の先。察するに取れと言う事で…。
周りの席に客はいない。絶好のシチュエーション。よくみなくても神楽の頬はほんのりと赤い。自分が手の中にある弁当に少なからず感動している合間、ぶつぶつとあれでもない、これでもないと言ってたのはこの為だったらしい…。そしてコレは、神楽なりのお礼とお詫びのつもりらしかった。気持ちが揺さぶられたのは言うまでもない…。

ゆっくりと神楽の口へと沖田は自身の唇を近づける。カマボコを取る時に、なったチュッとの効果音。
やった神楽は恥ずかしいと俯いた。神に礼を言いつつも沖田はそれを悟られないように、神楽の顎へともう一度手を伸ばした…。




……To Be Continued…

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