act 28

来島 また子…。
高杉伸介にベタ惚れ…。勝気で若干短気。友達思いで、強そうに繕ってはいるが、実際は結構な泣き虫、そして寂しがり屋。世界の半分は高杉のものであって、もう半分は自分と友達のものであると何故か自信たっぷりである。

そんな彼女が目の前の男、高杉の元へと来たのは、朝、七時半の事だった。
ずっと前から持っている合鍵でガチャガチャと開け、「おはようッス〜!」とハイテンションでリビングから寝室に直行した。が、現在も男は爆睡中である。

ゆっさゆっさと体を揺すってみたが、帰ってきたのは不機嫌な言葉。めくられた布団を取り上げると、頭からかぶって再び睡魔が誘うままに熟睡へと…。
耳元で、「朝ッスよぅ。」などと呼んでみたが、ぴくりとも動かない。もう一度布団をめくろうと思ってはみたが、自分の男の寝起きが悪いのは、ずいぶん前から知っている事であって、せっかく神楽と自分にと与えられた男の休みに喧嘩は避けたかったので、しばらくはリビングに戻り雑誌をパラパラと捲った。その後テレビをつけてみたが面白い番組もなかったので、テレビラックを拝見していると、自分が見たいと思っていたDVDを発見し、暇つぶしに見てみた。以外にも面白く、有意義な時間を過ごせたと時計を見てみてもまだ二時間しか経っていない。

布団に入って一緒に寝てみようかとも考えたが、前に一度試してみて、そのまま流された事があったので、それは裂けたかった。別に嫌な訳じゃないが、そうなると、彼は中々ベットの中から離してくれなく、体的にも痛い目を見たことがある体験談ゆえの考えだった。

ふーむ、とまた子は悩んだ。
そして台所に立つと冷蔵庫に手をかけた。漫画、アニメの様に、朝食の用意をしていると、おはよう…。なんて起きてくるシチュエーションに憧れた訳ではなかった。実際付き合ってきて朝食の準備をした事はなんどもある。が、そんな物音では高杉と言う男は起きないのだ。
かと言って仕事を遅刻すると言うわけではなかった。休みの日限定でこうなるのだ。体内時計でもついているのかと思ったのは、一度や二度ではない。

そうこうしてる間にも準備が出来てしまい、再び時間を持て余すようになった。

仕方なく、また子は再び寝室に言った。布団を頭からかぶり、スースーと寝息を立てている。
Tシャツとジャージから出ている足の先がほんの少し布団から出ていたので、思わずくすぐりたくなったが、其処はあえて我慢した。また子はゆっくりベットに腰かけた。少しめくると顔が出た。
「もう朝ッス。そろそろ起きてもいい時間ッスよ。」
高杉の眉間に皺がよった。
「そんなに早く起きなくてもいいだろうよ…。」
目はまだ開いてない。不機嫌な表情と声だけだ。
「でももう9時まわってるッス。このままじゃ昼になっちゃうッス。」
「別に何の予定もねェだろう。」
唖然とまた子はした。確かに予定はない。無いのだ。ただ自分は昨夜お妙に明日はお休みにしとくから二人で何処か遊びにいってらっしゃいよと言われただけだった。その事を高杉に確認するまでもないと思ってはいたし、寝起きが悪いのも知っていたのである程度は我慢が出来た。

しかし今の台詞はなんだ。
確かに高杉に何も言わずに家に来たが、休みとなれば自分が来る事は想像できただろうし、日ごろ休みが取れてないぶん、一緒にいたいと思ってくれてもいいではないだろうか、と。
高杉が寝てる間に神楽と交わしたメール。【日帰り温泉の旅に出るアル!】うらやましかった。

けれど、高杉がそんな所に連れて行ってくれるようなタイプではない。だから街をブラブラするだけでも良かったのだ。なのに…。

「大事な大事な睡眠を邪魔して悪かったッス!あたしは帰りますんで!」
情けなくて泣きそうになった。だから声が震えた。それにやっと気付いた様に高杉が目を覚まし、また子を、見た。その時には顔がくしゃりとなる所だった。ベットから立ち上がると部屋を勢いよく出て、カバンを持った。カバンの上に、ポトリと落ちたものが涙だと分かったけれど無視してリビングを出た。玄関のドアノブに手をかけ、引こうとした所で自分の手に高杉の手が重なった。

鼻をスンと鳴らしながらドアノブに力を入れた。けれどピクリとも動かない。泣いた顔を見せたくなくて左手で涙を拭いながら、ガッ、ガッとドアノブに力を入れてみたが、やっぱり動かない。鼻を鳴らし堪えるたびに体がしゃくった。
「――手を、離して欲しいッス…。帰るッス…。」
涙交じりのかすれた鼻声で言ったが、その手は緩まない。
「…ふっ…〜〜〜帰るッス〜。」
起きて欲しいと思っていた高杉が今自分の後ろにいて、その手を緩ませないと言う事は、帰って欲しくないと思ってると言う事で…。けれど、些細な事かもしれないことで泣いた自分が恥ずかしいと思う気持ちと、正直許せないと思う自分が居て、ようはとりあえず此処からひとまず逃げて冷静になりたかった。

そんなまた子の体に、体温が密着した。考えずともそれは高杉のものである事は分かっている。ぎゅっと抱きしめられた。耳元に唇が触れた感触がした。
「悪かった。」
分かったと許せるような気分ではなかった。
「とりあえず飯食ったら動く。それで許しちゃくれねーか。」
この男の囁く囁く様な言葉に自分はめっぽう弱い。揺れる…。
「また子…。」
なんでこの男の声はこんなに甘く脳を揺さぶるのだと思う。しかしこの男が甘く囁くのは地球上でただ一人、自分だと言う事が、正直嬉しくもあり…。
「ずるいッス。いつもそんなんばっかりッス。」
高杉がクッと笑うのが分かった。
「なァ。オメー何時から来てやがる。」
「七時過ぎッス。」
「一緒にベットに入りゃァ良かったのになぁ。」
「そ、それは無理ッス。」
「そりゃ何でだ?」
「は、離してくれなくなるからッス。」
自分の頬が熱を持ってきたのに、とっくに気付いてる。握ったドアノブが汗でベタつきだした。
「今、俺がそんな気分だっつたら、オメーどうする?」
思わず高杉の方を振り返った。見えるは憎たらしいいつもの顔。
「だ、駄目―――。」
「駄目じゃねーよ。…火をつけたのはオメーだ。」
いつ、何処で?また子は言いたかったが、口を塞がれたまま抱かれた。目を瞑る瞬間に見えたのは少し跳ねた高杉の寝癖。ふいに愛しくなったその体をぎゅっと掴んだ。抱かれるままに身を任せたその体に、射抜かれる様な片目と、甘くやさしく言葉が浸透した。

「優しくしてやる。泣くほどな…。」

……To Be Continued…

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