act 27

別に特別な格好をする訳でもなく、至ってふつ〜なTシャツにGパンと言う組み合わせの沖田を見つけた神楽は、思わず駅前の噴水から腰をあげ手をあげそうになったが、これじゃぁ楽しみにしてるのがバレバレだと気持ちを落ち着かせ、改めて座り、こともあろうに沖田の方に背を向け、いかにも気付いてませんとの姿勢を見せた。

「悪かったな。少しばかり送れちまって。」
待ち合わせの時間、20分遅刻での沖田の到着。しかし不安こそすれど、特別怒りなどの感情は神楽にはなかった。
むしろ姿が見えたことに舞い上がってしまい、不安などの感情さえも、今の今まで忘れていたのに、照れ隠しが前に出てしまい、ツンと口をきかなかった。

本当言えば、こんな所でヘソを曲げてる場合ではない。
久し振りにゆっくりとれる、二人の時間なのだ。行きたい所は山ほどある。一緒にショッピングにだって行きたければ、見逃していた映画を見るチャンスでもあって、もっといえば、ほんの少しくらいベビー用品なんかも一緒にみたりして、途中ではつわりもなくなりつつあるこの胃袋に、たんまりと食事を奢らせたい…。

背中越しにうじうじと考えている神楽だが、何よりも一番に、側によりたかった。
素直になれない自分が恨めしくて仕方がなくて、馬鹿らしくて…。

そんな神楽の前に沖田がしゃがみこんだ。

「機嫌なおしちゃくれねーか。朝、本当は打ち合わせに来てくれないかっつー電話が入ったんでさァ。俺が持ってる件なんで他に回すことも出来ねー。それでも今日はお前との約束を大事にしたかったんで電話で大まかな事を決めて、来週の頭まで伸ばしてもらった。だから遅くなった。これでも許す理由にはならねーか?」

分かってる。こんなトコで意地を張っている場合ではない。
しかし自分はとことん素直じゃないのも確かで…。口を尖らせていたが、その後噛んだ。
何て許せばいいのか分からないのだ。分かった。許してあげるの一言を、一度拗ねたフリをしたので出すタイミングが分からない。けれどこんな茶番じみた事など早く終わらしたいと思う気持ちもあって。

結果、確かに口は出なかったが、手をおずおずと沖田の方に伸ばし、その沖田の手をぎゅうと力いっぱい握った。
それだけで沖田には伝わったのだろう。だてに、神楽と付きあっていないと言う事だ。
堪える様に笑いを漏らし、ゆっくりと立ち上がり、神楽の手を引いた。
神楽も沖田に続き、ゆっくりと腰をあげた。

「さてねェ。何処に行きやすか、お嬢さん。」
「とりあえず何か食わすアル。」
そっぽを向いたまま神楽は言った。お約束かよと沖田は呆れつつ笑った。

「腹じゃなくて、もっと別のモノをいっぱいにしてやろうか?」
「別って何アル。確かにデザートの胃袋は別だけど。」
訳のわからない事を真顔でぶつぶつと言っている神楽に二枚の券が差し出された。


「何コレ。」
言ってからマジマジと読み直した。
日帰り用の温泉チケットだった。驚きのあまり神楽は拗ねていた自分を演じるのも忘れ沖田の方を勢いよく振り向いた。勝ち誇った様に沖田は笑っていた。

「本当にたまたまなんだが、客から前に流れてきてたのを思いだしてな。机の引き出しの奥にしまっておいたの思い出したんで持って来たんでさァ。どうする?行きますかィ?」
先ほどの拗ねていた自分を演じる事などを、考える事さえ忘れたように、神楽は満面の笑みを見せた。

「行く!行くアル!絶対いくアル!今すぐ行くネ!」
ぴょんぴょんと跳ねると、沖田が体に差し支えるとそれを止めた。

沖田の腕を散々引っ張り、揺らした後、その腕にぎゅうっとしがみ付くように体を寄せた。
このチケットで神楽の機嫌が直るのかは、正直半分半分だった。なんせ筋金入りの天邪鬼が相手ときている。
だが、なんとかなったと、胸を撫で下ろした。
そして、今日の日を待ちわびていたのは神楽だけではない。あのお妙の電話で舞い上がっていたのは、自分も同じだった。だからこそ今日取引相手からかかってきた電話を、初めて取りたくないとさえ感じてしまった。

電話の相手に、少々必死で話す沖田を神楽が見ていたのだらば、きっとどんなに送れて来ていたとしても許せるに違いないだろうと思わせた。
だからこそ、悪ガキの様な瞳を見せる沖田の視線に、いつも以上に柔らかい笑みが混ざっていたのだった。


「じゃぁ、行くか。」
大きく頷いた神楽の頭をくしゃりとした後、体を気遣うようにその足を進めたのだった…。

……To Be Continued…

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