act 26

「ね、神楽ちゃん。沖田さんと…喧嘩でもした?」

オープンカフェが並ぶ店の一件に入り、二人がけの椅子に向かい合わせに座るお妙と神楽。
昼間の太陽は、パラソルが上手い具合に遮断してくれており、視界だけその景色を楽しむ事が出来た。
ほうずえをつき、座るなり口を尖らせている神楽に、お妙の言葉がかかると、チラリとお妙の視線と重ねたが、すぐに側を歩く人の様子に視線をやった。

「―――別に、喧嘩なんてしてないアル。」
「でもいつもなら事務所に来るじゃない?近頃はつわりも治まってきたし。どうして顔ださなかったの?」
「別に…ただ――。」
せっかく上手く聞き出そうとしたのに、又神楽は口ごもったのでお妙は困った様にため息をついた。

そもそも何故こんな所に二人でいるか…。朝、いつの間にか習慣になった様に訪れている事務所に神楽の姿が現れなかった事から始まった。当然皆の視線は沖田総悟へと行った。
誰よりも早く、また子が沖田に詰め寄った。下から見上げるように、しかしその視線は鋭く迫力があった。すると沖田は自分が聞きたいと言葉を出したのだ…。

確かに神楽は社員ではないし、遅刻だなんだと問い詰めるつもりもない。
ただ毎日来ていた上、細々とした仕事も覚えつつあり、助かっていた面も多かったのは事実であり、そして何よりも、沖田に全く見覚えがないのであれば、それは大きな問題だった。心配したお妙が携帯に電話した所、以外にもすんなりと神楽は出た。しかし今日は行きたくないと沈んだテンションで言ったため、皆一致で神楽の様子を、お妙が代表して伺う事にしたのだった。


「昨日、仕事先に出てるあいつを見たアル。」
ぼそっと神楽が口を開いたので、急いでお妙は頷きながら耳をすませた。
「スーツ着てて、格好よかったアル。」
はァ?とお妙は体勢を崩しそうになった。しかし神楽の言葉に続きがあると分かり、すぐに姿勢を正した。
「その横に、スーツをビシっと着こなした女が居たアル…。」
何となく分かりかけたが、とりあえずお妙は相鎚を打つだけにした。
「アイツ、毎日あんな女と一緒にいるのかって思ったら、急に気持ちが沈んで来て、何か逢いたくなくなったアル。」
「うーん。確かに気持ちは分かるけど――。それで、神楽ちゃんはどうしたいって思ったの?その女見たく、自分もそうなりたいって思ったのか…。」
お妙の言いたい事もちゃんと神楽は分かっていて、けれど自分の中でもちゃんと感情が成り立っていないのに、口になんて上手く出せるわけもなく、黙った。

「十分沖田さん、変わったと思うわよ。神楽ちゃんの事、すっごく大事にしてると思うわ。それは分かる?」
お妙は柔らかい口調で言うと、神楽はゆっくり頷いた。

「喧嘩なんて…ただアイツは毎日こんな女の子に逢って――。」
「心変わりされちゃうと思った…てトコね。」
神楽の言葉を途中からお妙が引き継ぎ、その言葉に神楽はうんと答えた。
お妙は安心したように、ゆっくり息を吐き、微笑んだ後、口を開いた。

「分かりました。じゃぁ、こうしましょう。明日、土曜日でしょ。本当は皆仕事だっていってたんだけど、沖田さんを解放してあげる。二人で遊んでらっしゃいよ。」
神楽は息を吸って、本当に驚いたそぶりを見せた。
「もちろん、神楽ちゃんだけじゃないわよ。そうね…。高杉さんも解放してあげる事にすれば、そんなに罪悪感も沸かないでしょ?その代わり、日曜日は近藤さんと土方さんを解放して。ね。いい案だと思わない?」
「で、でもそんなの事、姉御とあたしだけで決めるなんて無理アル。」
神楽は期待半分、傷つきたくないので、諦め半分といった所でお妙を見た。
お妙は自身ありげに笑った。

「ふふ。大丈夫、こうゆう時の為だけじゃないけど、何かあった時に役立つと思って、近藤さんに、スケジュールの管理を任せてもらってるの。今週の土日は二人ずつ抜けるくらいなら全然大丈夫だと思うわ。それに、今じゃ私や神楽ちゃん、ミツバちゃんにまたちゃんも、出来る仕事が増えてきたじゃない?だからそのくらいへっちゃらよ!」

言うなりお妙は携帯を出し、そのボタンを押した。
携帯の向こう側、でたのはおそらく近藤だったのだろう。そっからまもなく沖田に代わったとみられた。
しばしの会話…。そんな事いわないの。そんなお妙を聞いてるうちに、神楽は腕を組み、そっぽを向き口を尖らせていた。そんな神楽の前に差し出された携帯電話。

「ほら、沖田さんが代わって欲しいですって。」
いきなりの事で神楽は頭がついてこない。アッ。う…え――。
そんな神楽そのままにお妙は神楽の耳元に携帯をつけた。

「お前馬鹿だろィ。」
低い、けなす様な声が耳を刺激した。
「なっ!」
だって…。言おうとしたが、言葉が出てこなかった。結局はただのやきもちなのだから。
「つーか、明日、食べ物巡りとかだけはやめてくだせェ。
俺の胃袋をオメーにあわしてっと破裂どころの騒ぎじゃおさまりそーにもないしな。とりあえず城巡りでも――。」
「誰が行くかヨ、馬鹿やろう。」
いつもの低い神楽の突っ込みが口から出た。携帯の向こう側、くっと笑う沖田の声に神楽は胸を躍らせた。
「どうしても行きたいって言うなら明日一日このあたしが付き合ってやるネ。ありがたく思うヨロシ。」
「どっちがだ。まぁ、どうしても、って事にしてやってもいいけどな。」
沖田の思わぬ返事に神楽は携帯を握り締めたまま頬を染めた。そんな様子をお妙は微笑みながら見ている。

「わ、わたしも楽しみにしてやっても…いいアル。」
「本当に素直じゃねーな、テメーは。」
「わわわたしはいつだって素直アル。」
あぁ、違うネ!思ったけれど言葉にだせず…。
そんな神楽の様子をどこかで見ているように沖田は携帯の向こう側で笑った。

「じゃぁ、楽しみにしてまさァ。」
「おぅ!楽しみに待ってろヨ!」

お妙と視線を合わせた後、込み上げて来る気持ちを必死で堪え、握り締めた携帯電話をたまらなそうに、胸に抱き締めた。

……To Be Continued…

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