act 7


雨がしぐれている中、傘をさし、駅のホームに入るとこまでは、まだ良かった。
が、アナウンスと共にけたたましい音を発しホームに入ってきた電車を見ると、神楽の様子が、一気に青ざめた…。

昨日、結局ほとんど口も聞くことなく送ってくれた沖田…。
じゃぁな…。そう振り返る背中を本当は引き止めたかった。声だって喉まで出た。けどやっぱり出なかった。

泣きそうになる自分の顔に、振り向いて欲しいと思う気持ちと、気付かないでと思う気持ちがぐちゃぐちゃになって頭がガンガンした。助けてほしい、そう思う気持ちが後から後から溢れてくるのに、恋愛という感情が邪魔をした。好きと言う気持ちがブレーキをかけた。

携帯をみると、どうしてもあのサイトが頭に浮かんでしまうので、帰ってからずっと、ずっとベットにある枕の下に隠していた。寝る前に目覚ましをしようと、そっと携帯を取り出してみると、お妙や、ミツバ、また子からのそれぞれの着信…。そして四件目に銀八、最後の五件目には沖田からの着信があった。

初め、心配させたと皆にそれぞれ連絡をしようと思った。けれど何を話していいか分からない。連絡をせずに帰った上手い理由も浮かばなかった。神楽は携帯をじっと見つめたかと思えば、枕元にそっと置いた。

眠りにつく寸前に頭の中によぎったのは、どうして沖田からの着信があったのか…だった。

わざわざ一度駅を降りて神楽の家まで送ってくれたのに、ありがとうの一言さえ言えなかった自分が嫌だった。明日、ちゃんと言わなきゃ、そう思う反面、今日の朝の恐怖がフラッシュバックした。

布団の中でブルっと体が震えた。
逃げれるものなら、一刻も早く逃げ出したい。けれど逃げればアドレスをばら撒かれる。もしかしたら、もっと酷い状態になるかもしれない…。相手は自分の顔を知ってるのだから…。

寝ようとしても、寝れなくなった。目を瞑るとあの場面が浮かんだ。睡魔に駆られ寝息をたててみるが、数時間もすれば悪夢にうなされた。繰り返しながら夜を過ごしている内に陽の光が自分を照らしているのに気付き、意識が朦朧としてる中、駅のホームに立っていたのだった…。




プシューと言う音と共に足を踏み入れた満員電車の中、気が狂いそうだった。何処で手が伸びてくるかもしれないと思えば自然に足がすくんだ。電車の中の人の会話さえ吐き気を催す材料となっている。ヒタヒタと傘から流れる雨の雫が足にあたる。

人に揉まれながら、耐えていると腕を掴まれた感触があり、神楽は心臓を凍りつかせた。
嫌な予感が当たったと…。しかしその腕の感触は満員電車の中自分を引っ張る。人に揉まれながら体を通らせていくと、待ってたのは、自分の考えを180度覆すものだった。

「やっと見つけやした。背がちっちぇんで頭の色で探すのも苦労したぜ。」
「な、なん…。」
神楽の体を完全にひっぱり人の中から出させた上で沖田は自分の座っていた席を立った。そしておもむろに神楽の手を引いた。
「座ってろィ。」

引かれた腕が熱い…。とりあえずどうしてこの男が…。
混乱する神楽の前の沖田は、つり革に手を、恥ずかしそうに神楽から視線をそらした…。
ココロに色んな思いがきゅんと響いた。神楽は電車の騒音の中、ゆっくりと口を開いた。

「ありがとう…アル。」
言った後、すぐに俯いた。本当は色んな思いがあったけれど、その言葉を出すので精一杯だった。

その言葉はすぐに電車の音に掻き消された。ただでさえ煩い車内。聴こえるはずがなかった。それは声を出した神楽が一番分かっている。それでも良かった。あのサイトで書かれていた文章が頭をよぎったけれど、沖田のキモチは嬉し過ぎたのだった。

そして、そんな聴こえない言葉だったはずにも関わらず、一瞬神楽の方を見た沖田は穏やかに笑みを作ったのだった…。

……To Be Continued…

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