act 24

デスクワーク … … …。
いつもの様に彼らは事務所の一角、キーボードをカタカタと打ちながら、その瞳は真剣そのもの…。白のワイシャツにスラックスを、そして時折ネクタイを苦しいのか緩め…。

かれこれ既に30分は経過したであろうか。朝早くから来たかと思えばいつもは営業回りをする彼ら、もしくわのほほんとパンをかじりながら事務所の奥でテレビを見ているのに、今日は違った。

最初に入ってきたのは土方。同じように持っている事務所の鍵をあけ入ってくるなりPCをたちあげた。次に入ってきたのは沖田、それに続き、近藤と同じく高杉。言葉もぼちぼちで其処から今の今まで殆ど口はおろか、挨拶さえまともにしていない。時折、舌をならしたかと思えば、髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き、気分治しにコーヒーを入れてみるが、そのイライラの元は治まらないらしい…。

カチッと時計の時刻が9時を知らせた時、とうとう集中力が切れた様に背伸びをしながら口を開いたのは、沖田だった。

「わっかんねー。どうやったらあのつわりっつーもんは治まンでェ。」
「ナンだ総悟。お前もそれを調べていたのか?俺もお妙さんのつわりが少しでも軽くなる様にとだな。」
「何だ近藤さんもかよ。つー事ァ高杉もか?」
「あんな声で死にそうなんて言われちゃぁ調べるしかあるめェ。」
目的のモノが皆同じだと気付き、自然にため息がふぅと漏れた。

あのカミングアウトから一週間。彼らの自覚が芽生えないまま本格的なつわりにへと突入した彼女らの状態は凄まじかった。最初あんなにケロっとしていたまた子とお妙さえ顔面蒼白で食べれるものがないと言っていた。そして相変わらずの神楽とミツバは終始つわりに苦しめられていた。
自分達が考えていたより、遥かにつわりと言うモノが大変だと身をもって知った彼女達だがさすがに変わってくれとは言えず、そして確実にお腹の中にある命に触れた様にも思え、実際複雑な心境だった。

何もしてあげることが出来ない彼らは何とか軽くなる方法をネット上で探してはみるが、出てくるのは壮絶なつわり体験記ばかり、ゆっくり深呼吸をしてだの、穏やかな気持ちでいるだの、さっぱりしたものを食べて見ただの…。見れば見るほどその辛さ、大変さばかりが目立ってしまって余計に心配はつのるばかりだった。

中には悪阻といわれるものまであり、酷ければ栄養が取れず入院になるケースも少なくないと書かれており、似たりよったりのサイトをあけている彼らはもう一度、頭を掻いた。

「総悟、オメーんトコもすげーのかよ。」
「凄いっつーか、酷い時には起き上がれねー。」
土方は沖田の言葉を聞いたあと、タバコに火をつけようとしたまま絶句した。近藤はといえば、「お妙さんの身に何かあったら俺は生きていけない!」と涙まじりに奮闘したようで、更に画面に向って検索し続けた。

放置して居た時間も長かった自分達だが、正直、心配で仕事もおぼつかない状態だった。自分が知らない間になにかあってからでは遅い。しかし仕事は遊びではない。キャンセルは信用に関わる。ただ仕事を優先さし、芽生えた自分の分身に何かあれば後悔してもしきれない。

だからこそ彼らは悩んでいた。けれど正直そんなにつわりは甘いものではないらしく、そして妊婦なら殆どの女が通る道だと言えた。まさか妻がつわりだからと仕事を休む亭主が居るわけも無く、皆それなりにこなして、通っている道なのだ。
そう、ようは気持ちの問題。
しかしカミングアウトされたあの日はいきなり父親と言われても困ると、そして時間をくれと言ったものだが、どうだろう。この自分達の有様…。

そんな中、おもむろに口を開いたのは近藤だった。
「引っ越そうと…思うんだが。此処よりもっと広い事務所が実は一件売りに出されていてな。一階で立地条件もいい。事務所の中には仮眠が出来る様にと、一室広い部屋もあるそうだ。其処にだな―――。」
当分引っ越す予定はないと言っていた手前もあり、若干言いずらそうに話を切り出した近藤が最後まで言い終える間もなく、土方らは席を立ち、腰をあげた。思わず近藤は土方や沖田、そして高杉を見た。

「何やってんですかィ。早くいかねェとどっかの誰かが契約結ンじまわァ。」
そう言った後、すぐに背中を見せた沖田を、なんだか分からないが自然に零れた笑みと一緒に追いかけた…。

丁度店員の手が空いていると言うのもあり、早速その場所に足を運んでみると、確かに立地条件も外見も、今の事務所とは段違いに良かった。白い外装は客人が例え女性であっても好みそうだと近藤は言い、内装もまだ新しく、広さも今の事務所の三倍はあり、聞かされていた通り、確かに扉を隔てた向こう側にはフローリングが引いており、其処で十分社員が仮眠や、宿泊出来る様になっていた。

勿論其処には何も無いが、元々15人ほどで使っていた事務所だと言う事で、全員分のデスクを用意し、テレビ、ソファ、棚を置いたとしても、十分広さには余裕がありすぎるほどだった。そして運が良い事に、今までは二階だった事務所だったわけだが、此処は一軒と言う事で出入りの時に階段を使う手間も省けた。

思わず土方は頷いた。どうやら気に入ったらしい。勿論此処に近藤達を案内したくらいなので、誰も契約を取っていない。此処を使っていた会社がどうやら本社内に事務所を移すと言う事で手放したと言う事だった。
悩む時間は無かった。四人一致の即決だった。

近々事務所の前に新しく【Sauciness】と事務所の名前が入るように、その日のうちに段取りをつけ、早くもこの知らせをと皆一声に携帯を開いた…。






……To Be Continued…

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