act 4

だからそれを妬きもちって言うんだよ…。その光景を今まで見ていた彼らは心の中で毒づいた。


向かい合わせになって居る席が続くその車両の一番隅の座席に座る教師の太股に触れる柔らかな温度を、そんなに太くもなく、かと言って細くもなく、しかし実は力強いその腕が意図も簡単に引き剥がした。

重く圧し掛かっていた温度があっと言う間に離れると教師は一瞬目を丸くしたがすぐにその状況を察知し、鼻でイタズラに笑った。

そして離されたその温度の持ち主である彼女は、教師よりも、その元々大きな瞳を大きく開き立ち尽くしていた。

今しがたまで自分がフルパワーをだしつつその温度を引き剥がすのに賢明になっていた、泣きぼくろがチャームポイントの猿飛あやめは、口をぽかんとあけながら、立ち尽くしている彼女同様、その男、沖田総悟を見つめた。

一瞬、銀八の方に鋭い視線を送った沖田だが、すぐにその視線を神楽に移すと有無を言わせずその手をもう一度引っ張り席へ戻ろうとした。しかしその神楽の手を今度は銀八が引っ張る事で阻止をした。車両の生徒の目は、嫌でも一番後ろの席にと集まりその好奇心の目を向けている。

沖田はさっさと連れていってしまおうと思っていたので、この状態は面白くもなく、そして何より最初は自分の席の隣に座らせてやれといった張本人が何故邪魔をしなければいけないのかと、銀八の考えている事が分からずイラっとした。

「なんですかィ?こいつをさっさと席に連れていく邪魔をせんでくだせェ。先生。」
嫌に冷静に沖田が口を開きながら、銀八が掴んでいる神楽の腕を見た。
一件穏やかな視線とも見えるは、しかし鋭くも見えた。神楽は今度は自身の意識がはっきりしている事もあり、交互に二人の表情を繰り返し見ている。

「いやいや、神楽が沖田君に追い出されたってこっちに来たもんでね?だったらこっちに居てもかまわないんじゃねと思っただけだよ、重たくはあるが、温もりの太股も堪能できるしな。つーことで神楽がこっちに居たくて、俺が良いっつってンだから別にいいわ。もう。」

無意識のうちに神楽が掴まれている沖田の手に力が入った。銀八の意図がつかめないのは神楽も一緒であって、又、痛い程に掴まれたこの伝わる沖田の温度が嬉しくもあり…。けれどこの雰囲気に口を出す気にはなれず不安げに双方を見つめた。
「そうかい、って帰っても別にいいが、これじゃ俺が馬鹿見てェなんでな。意地でもこいつは席に連れて帰る。」

「連れて帰るっつってもなァ。当の神楽が帰らねーっつってんだ。なァ神楽?」
急に振られ、心臓が跳ね上がったのは神楽だ。
「エッ?あ…う…。」
まともに言葉も出せない神楽を銀八は見ると、笑ってる様にみえる表情で口を開いた。
「ほらな。此処がいいってよ。」
「ンなこたァ一言も言ってませんぜ。」

「言った言った。確かに聞いたよ。銀さんの心にはビシ〜っと聞こえたモンネ!」
ギリっと歯を鳴らし、沖田は話にならねェともう一度神楽を引いた。神楽はと言えば、強く掴まれるたびに速く高くなっていく体の信号についていけないとでも言うように唇を噛み締め下を向いていた。猿飛あやめはと言えば既に結末が分かっているとでも言う様に既に自分の席に座り窓の外を退屈そうに眺めていた。
沖田が強く引いた体を銀八は奪い返すとでも言う様に神楽の肩を持ち、ヒョイと浮かせ、自身の膝へと座らせた。
「ッテメ―――!」

言うと同時その神楽の体を自分の方へと引き肩をぐっと引き寄せ閉じ込めた。一瞬のやりとりで神楽は勿論、こんな行動にでてしまった沖田本人も気付いた様に一瞬唖然としたが、横目で銀八を睨むとすぐに神楽の体を自身から離し、かと思えば逃げないようにとその柔らかい手をきゅっと握り締め、踵を返した。

満足げな銀八の顔を見ると、あやめは「性格悪いんだから…。」とため息をこぼした。
車両の陰から声は特に漏れない。そんな事をすれば後に残る自分の運命が目に見えているからだった。しかしその視線は痛い程真ん中を歩く二人と繋がれた手にしっかりと注がれていた。

顔どころか、全身から火が出そうな程に赤くなる彼女を見た友達はくすりと笑い、俯く彼女に良かったねと囁いた。席に付くと、パッと手を離し機嫌が悪そうに座席に勢いよく座り足を組み、窓の外を見だした沖田に土方は苦笑し、「姫の奪還は成功したみてーだな。」と探りをいれると、神楽は手をモジモジとさせた。ケっと息をだしたかと思えば、隣の神楽をチラリと見てまだ俯いているのを確認しつつ、最初の様に窓の外を見ながら口を開いた…。

「俺のプライドが許さなかっただけでさァ。」


……To Be Continued…

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