act1

ガタンゴトン…普段は聞きなれてない音と振動に、あたしの中で音を鳴らす『心臓』ははち切れそう…。窓の外の景色を見れば、きっとその景色は綺麗…。綺麗なノ。
でもね、でも見れないノ。

見たらきっと私、息も出来なくなっちゃうヨ。
だってほんの10cm開けたその隣にね、あいつの肘がある。
スピードをあげて走っていくこの電車の振動で、時折それがピトってくっ付くの。

その瞬間、あたしのトクントクンって動いてるそれはあたしの体の全部の機能を
止めちゃえって指令を出す。機械みたく動かなくなるノ。指先も足も、血液も、瞳も、息も…。

そしたら全身が麻痺したみたいになって…。
これってあたしもぅ『ジュウショウ。』

口の中で噛んでは溶け、噛んでは溶けを繰り返してるス昆布。
あぁ、もうすぐで、なくなっちゃう…。

.......

「オメー、よくス昆布ばっかそんなに食べれんなァ?」
隣から、呆れた声が聞こえてきた。神楽は体を不自然にビクつかせ、その人物に視線を向けた。
「う、うるさい。べ、別にいいダロ。」
「いや、ス昆布臭がな、」

二人が言い合っていると、前からくすくすと笑い声が聞こえる。視線を向けると、真向かいに座っているミツバが笑っていた。
「大丈夫よ。ちっともス昆布の匂いなんかしないから、それに食べてる神楽ちゃんの顔なんだかちっちゃな動物みたいでとっても可愛いわ。」

そう言うと、ミツバは柔らかく笑った。神楽はその笑みにつられはにかんだ。
「いやいや、こいつのス昆布臭は核兵器並みでさァ、姉ちゃんも近寄んないほうがいいですぜ。」

「んなァ!そんな事ないアル!」
「あぁ〜うるせェ。お前ら静かにしろ…。」
沖田と神楽が、いや、神楽が声を張り上げたトコで、ミツバの隣で座っていた土方が口を挟んできた
「テメーはだまってマヨネーズでも啜ってろ。てか乗り間違えちまえば良かったのに。」
そう言うと沖田はあからさまに舌を鳴らした

「総悟っ!テメー!。」
「あぁあ!トッシーの方がうるさいアル!」
「うるっせェ!このバカヤロウにとりあえず一発―――。」


修学旅行――――。
学校の行事の一大イベントと言ってもいい。その修学旅行の真っ最中の電車の中…。
先週、ホームルームで電車の席を決めると言う小さなイベントが行われた。
神楽は、密かに乙女心を寄せる男、隣の席の沖田総悟の隣がイイナ…。なんて思いを寄せるが、そんな事を言えるはずもなく、大人しくミツバやまた子に話を持ち込んだ。

すると、ちょっと申し訳なさそうにミツバとまた子はそれぞれの彼氏に視線を寄せた。
唖然とした神楽。こう言う学級行事においてベタベタするのを嫌がりそうな二人が何故
隣に座る特権を許したのかと…。あの二人のかわいいおねだりにコロっと騙されたのかと…。

どちらにしろ散った希望を床から拾い集め、もう一度組み直し、お妙のところに持って行く。
するとお妙は快く承諾をした。神楽はすくわれた。やったァとお妙に抱き付く。
お妙も笑い。その日は来た。

さて電車に乗り込み、お妙と席は何処にしようかと話していると、一匹のゴリラ、いや近藤が既に席を二つとってじっと正座をして待ってるではないか。思わず嫌な汗を神楽は背中に掻く。
出来るだけ目を合わさない様にする。

しかし見てしまう。正座をし、ただただしとしとと泣く近藤の涙を…。

神楽はがっくりと項垂れた。お妙は、近藤の元に行き、付いたらいくらでも一緒に居られるからとなだめていた。
しかし近藤はぶるぶると首を振っている。

ますます神楽は嫌な予感がする。
「お妙さん!僕はうごきましぇん!貴方がすきだからァァ!!」
何回目のプロポーズ並みの台詞を吐き出し、お妙の腕を放さない。神楽はただただ顔を引きつかせお妙の背中を見る。

そして、その時はやってきた。お妙の背中がため息と共に撫で下ろされたのだ。お妙が何か近藤に言っているのが見える。すると近藤は、捨てられた子犬が拾われた時の様に満面の笑みを浮かべ尻尾を振っている。
神楽の中に絶望と言う文字が浮かび、そしてそれは現実となる。

お妙が申し訳なさそうに神楽の前に来る。神楽は、みなまで言うな…全て分かっていると首を振る。
思わず涙が込み上げてきそうな焦燥感を隠し、お妙に背中を向け席を探す。しかしその時には、電車はゆっくりと動き出しており、空いてる席など無かった。

銀八が見かねたように神楽に寄ってくる。
「一個だけ空いてるけど…。」
「もぅ何処だってイイネ。」
「どこでも?。」
神楽はふくれっつらのまま銀八の背中についていく。
直ぐにミツバの顔が見えてきて、神楽の顔は明るくなる。そして隠れていた座席が露になって、神楽は静止した。
「何でェ。テメーの座る席なんかねェよ。」


沖田は隣の空き席に自身の荷物を置き、さらに二席ぶん足を伸ばすように悠々と座っていた。
唖然としてる神楽に変わって銀八は、その荷物を退かせる。
「俺の意思は無視かよ。」
「いや、マジで席がねェんだよ。」
「そんなの俺がしったこっちゃねェ。」

あい変わらず動かない神楽の変わりに銀八と沖田の会話は続く
「普通にすわってりゃ邪魔にもなんねぇだろうよ。」
「邪魔うんぬんの話しじゃねェよ。寛いでる席を取んなって言ってんでィ。」
「あっそ。本当にねェんだよ?席が?それでも嫌か?」

銀八は挑発するような視線を向けた。その視線に沖田は合わさず無言をきめる。
「分かった。俺の膝にでも座らせらァ。女子高生の生太股を堪能するわ…。」
そう銀八が神楽の手を引いた。
その反対側の神楽の手を沖田は引く。それも無意識に。すぐに手を離したがその温度に神楽は正気に戻り、
沖田の方を目を大きくして見下ろした。

銀八はにやりと笑い、その場を後にする。程なく面倒くさそうに荷物を頭上に沖田は上げる。
神楽は空いたその席に付き、黙々と座っていたのだ。
先程までは…。




……To Be Continued…

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