act 23


部屋の中は高杉の愛用の香水の匂いで包まれており、また子は平気そうにしていたが、明らかに沖田や土方は顔を歪めた。しかしそれはお互い様である事も分かっては居たようで、表情には出してしまったが、口には出すことは無かった。
ほとんどが黒で統一されているモダン風な空間の真ん中にある透明のガラスのテーブルを挟む様に男と女は分かれて座った。

シンとなる空間の中、また子が気を利かせ何か飲み物を持ってくると腰をあげたが、それを高杉はやめさせ、とりあえず本題が先だと急かせた。近藤はわざとらしく咳ばらいをし、お妙を見ると、息を吐き口を開けようとしたが、その前に神楽が口を開いた。
「妊娠したアル…。」

そんな事は分かっているとでも言いたそうに沖田は神楽を凝視している。神楽は正座をしているその姿勢を保ちつつ、膝の上で手をもじもじとさせながら、再び口を開いた。
「ちょっと細工して…。」
「どんな。」
間髪いれずに沖田が切り返してきた。
「こ、コンドームに針で穴をあけたアル…。」
なんとなく今日の女の態度や経緯をみると予想はついていたが、やはり実際に口から出た言葉を自分の耳に入れるとなんとも言えない表情が出てしまった。

覚悟はしたつもりだったが、色んな意味でやはりショックだった。
無意識にため息をついたのは、沖田だけではない。土方は我慢出来なさそうに胸ポケットからタバコを出し、火をつけ、早々と煙を吐き出した。
その隣では、額を手で覆っている高杉の姿。そして神楽をまっすぐ見つめる沖田の姿。
「何でこんな事しやがった?」

逸らした視線のまま言葉だけを神楽に向けた。神楽はビー玉の様に綺麗なその瞳をキョロキョロと動かした。
「あ、赤ちゃんが欲しかったから…。」
まるで子供の言い訳の様に神楽はぼそりと言った。

覚悟して、決意して此処にきたものの、手にはヌルヌルになるほどの汗でまみれている上、まるで尋問の様に聞いてくる沖田への言葉に表せれない感情で神楽の頭の中はずっともやもやしていた。意を決して沖田の方に視線を上げると、長い息を吐きながら、まるでどうしてくれようかとでも言う様に頭を掻いていた。心臓に何かが鋭くささった気がした。

こんな反応が返ってくる事も予想範囲内の事だと自分では思っていたが、実際はやはり喜んでくれるだろうと期待をしていた自分があまりにも大きく存在している事に気付いた。

その期待している自分の気持ちの分、やはり傷ついている心があると言う事で、その心と、お腹の中のあかちゃんがあまりにも可愛そうで、全て分かっていたつもりだった自分に、本当につもりだけだったと唇を噛んだ。その次ら次へと溢れてくる感情を必死で堪え、前を向いたが勝手に目頭が熱くなった。熱くなった瞳を覚まそうと、瞬きをしてみたが、ちっともその熱は冷めず、瞬く間に目元がじわっと潤んだ。

あっ…。やばい、泣きそうアル…。

そう思った時には、時既に遅しと頬に伝っていた。
拭わなければと思うが、左右の手が凍ったみたく動かず、涙はそのまましとしとと神楽の頬を濡らした。

「何で泣くんだ…。」
沖田はため息を吐きながら神楽を見た。
ぶわっと鳥肌が神楽の全身にたった頃には、神楽の表情は崩れ、ぐしゃぐしゃになっており、やっと動いた右手と左手で全力で涙を拭った。
「っずッ…っ…だって…寂しかったんだも…。総悟の赤ちゃん欲しかったも…。」
鼻水のすする音と混じりあいながらぐちゃぐちゃにはきだされる神楽の言葉に触発された様に隣のまた子も鼻を鳴らした。

「お前が前にそうやって泣いた時以来、そんな思いをさせないようにって出来るだけやっていたつもりだが、足りてなかったって事なのか…?」
「ちが…うネ。ただこの子…あの夜の子だもん。」
もはや神楽の両手は涙まみれになってテラテラと光っている。そして沖田はといえば今の神楽の台詞に唖然としていた。そしてそれは横にいる、高杉、土方、近藤もだったらしく、呆れた様に女を見ていた。そしてしばらくして、またため息をついた。コレほどまでにため息の嵐なのも珍しいが、状況が状況なので、仕方がないとも取れた。

土方は、この事をミツバは言おうとしていたのかと頭を悩まさした。確かにミツバは自分に言おうとしていた。しかしこの確信的な行動に一枚噛んでいたのは確かであって…。

ただ、あの夜の儚く折れそうなミツバをどうしようもなく欲したのも自分であった。高杉はといえば、此処もまた、なんとも言えない表情をさせていた。あの晩、思わぬ所でまた子の触れられなかった部分に触れ、どうしようもなく愛しく、心底この女が欲しいと車での行為に及んだのは自分だった。一枚だけまた子が持っていたあのゴムに、もはやこんなありえない秘密が隠されていたとは夢にもおもわなかったが…。そして近藤に至っては、この状況に頭を悩ませていた。

自分とお妙の場合は全て同意の元での行為だったゆえ、まったく問題がなかったのだが、この修羅場ともいえるシチュエーションに、お妙の方をすがる様な目で見てみたが、神楽を慰めているお妙はそれどころじゃないらしい…。

カミングアウトにしては少々荷が重いこの状況の中、口を開いたのは神楽だった。と言うか、口を開くではなく、腰をあげた、だった。その神楽の腕を沖田はテーブルを乗り出し掴んだ。

「何処にいくんでェ。」
神楽は掴まれていない方の手で、左右の目を拭い、必死に口を開いた。
「総悟の事は好きアル。だからこの子は絶対おろさせないアル。だからサヨナラ。」
手を勢いよく離そうとした神楽を、慌てて沖田は掴み直した。この状態を隣のまた子もミツバも、お妙も目を見開き注目した。
「だれもそんな事言っちゃいねェだろィ。」
「でも喜んでもないネ。」

「こんなにいきなりで、何をどう喜べって言うつもりだ。」
「総悟の子アル!」
「ンなこたァ、分かってらァ!」
「だったら喜んでヨ…。やり方はずれちゃったけど、あたしのお腹の中には総悟の、また子のお腹の中には高杉の、ミツバ姉の中にはトッシーの、姉御の中には、確かにゴリの赤ちゃんが生きてるアル!」

シンと空気が張り詰めた。神楽の瞳は揺れながらもまっすぐに沖田の方を見ている。そしてそれは他の女の瞳も一緒だった。
「かと言って今すぐに父親の自覚を持てっつーのはあまりにも無謀だと思わねーか?」
土方が割って入って来た。
「お前らは腹に入ってるって言われて実感が沸いたかもしんねーが俺らは何にもねーんだ。理解してくれっつー方が無理だろ。」
高杉の言葉も加わった。
「じゃ―――。」

震えたまた子の声を遮るように、沖田の声がはいった。
「だから、せめて産まれるまで時間をくれねーか。それまでには父親つーもんはなんたるもんかってもんを俺らも探すように努力はするつもりでさァ。」
神楽の唇がわなわなと震えた。
「それっ…て――。つまり…。」

「つまりも何も産んでくれっつー事だろうが。ばか女。」
真顔で言い放った沖田に神楽はそのままガラスのテーブルに足をかけ上にのぼった。オイっと沖田の言葉を掻き消し、そのまま沖田の胸へと落ちた。目を見開きはしたが、神楽の華奢な体を簡単に抱きとめ、早くも体を心配し、目を吊り上げた。近藤はでてくる笑みをそのままお妙に向けると、それに答える様にお妙は微笑み返した。

土方は照れ隠しに、ミツバから視線を逸らしてみるが、ミツバはそのシャツをぎゅっと掴んだ。すると頭を掻きながらもそのシャツを握り締めている手を握り返した。

怒ってないかと高杉にまた子は聞くと、高杉は怒ってない様に見えたらある意味スゲー奴だと返され、口を尖らすと、頬をぎゅっと高杉はつねった。ひたい〜と言葉を出すと、くっと高杉は笑い頬から手を離した。その顔にまた子は安心した様にふわりと笑みを作った…。





……To Be Continued…

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