act 14

朝の天気予報では今日は曇りのち雨だったが、自宅の玄関を開けた時には、その空はカラっと晴れていた。

昨夜は、深夜近くになって、ようやく自分達だけ自宅に戻り、風呂に入って床に着くころには、午前1時を回っていた。
神楽を含めて、他の全員は、毎度の如く坂田宅でザコ寝をしており、朝早くに神楽から、起きてるかと一本電話がかかってきた。

その時には、とうに朝飯も済ませ、リビングでテレビをつけていた蒼と隼人が、親父はどうだと聞くと、朝早くにザキこと山崎の電話が近藤の携帯に入り既に家を出た後だと神楽は言った。

じゃあ銀ちゃんはまだ寝てるのかと聞くと、同じように朝早くに土方に起され、いつもの如く、新撰組とは別ルートで調べて欲しい事があると首根っこをひっつかまえられ、家を後にしたと返答が帰ってきた。

軽く隼人は笑うと、「じゃぁ、母さんは今日は家にちゃんと帰ってくるのか?」と聞いた。
しばらく言葉に詰まったのが、携帯越しに伝わったが、「当たり前アル。一家の華がないと、うちの男どもがしょぼくれてしまうネ!」と胸を張ったのが容易に分かる声色が帰ってきた。

隼人は含み笑いを見せ、一言、「なら安心だな。」と柔らかく言った。

しばらく神楽は黙っていたが、「ごめんね、心配かけて。」と言うと、隼人がいつもの事だから気にしてないと、鞄を持ち、家の鍵をいつもの指定場所から取り、手で行くぞと蒼に手をやりながら言った。

蒼がリビングの深いソファから腰をあげると、携帯の向こうからは、「帰ったら、い〜ぱいぎゅうをして上げるネ!」と意気込みも十分で神楽が言うと、声に出して隼人は笑い、「分かったから、ちゃんと朱璃を学校に行かせとけよ。」と言いながら、家の鍵を閉め歩き出した。まだまだ会話を続けそうな勢いの神楽に、ここで、「学校にいってる途中だから切るぜ。」と声をかけると、少々不満そうな神楽の声が聞こえた。

母親なので、勿論大人であって当たり前なのだが、どうしても子供っぽい部分が多々あると日頃からこの二人は思っており、だからこそ、母親と溺愛している妹には敵わないんだと毎度思い知らされていた。

まだ、ぶーたれている神楽もそこそこで、携帯の電源を切った後、帰ったら、今の続きを、そして切った事を延々とぶつくさと言うんだろうとふわりと笑みを二人で見せ学校へと足を進めた…。



教室に入ると、窓際で、風にふわりふわりと髪をなびかせている寧々と雅の姿があった。雅は後ろの席の寧々の方に体を向け、いつも寧々の読んでいる本を見て、空が綺麗…。と二人で談笑している風だった。

蒼と隼人が隣の席に付くと、たった今気付いた様で、二人同時に顔をあげ、そしてすぐに視線を逸らし、控えめに、『――おはよう。』と言った。

控えめに出てきたおはようの言葉の意味を少なからず蒼と隼人、どちらもが理解しているため、あえて其処に深くつっかまない様に、自身も、おはようと返し、座った。
座ったはいいが、こうも身構えられると、少々、いや、かなり話かけずらいものであって、見えないように、頬を掻いた。わざとらしく左でほうずえを付きなんとなくと言うどぶりで、ちらりと隼人は雅を見てみた。とっくに寧々の席から離れ、前へと体をむけて、手持ちぶたさに困っていたが、すぐに、ノートと教科書を取り出し、何かを書き始めた。そこで思わず声をかけてしまった。

「何してんだよ。ホームルームも始まってないのに、教科書なんか出して。」
隼人の言葉が自分にあてられていると雅が気付くと、動かしていたシャープペンのシンを、思わずポキっと折ってしまい、すばやく芯を出しながら、「よ、予習。」と言葉早く呟いた。

あまりにも意識し過ぎている雅が面白く、隼人は、「ふーん。」と言いながら、笑ってしまった口を、ほうずえを付いている左掌で覆い隠した。

若干ベランダの方に体を向け、お気に入りの本を読んでいる寧々の方を包み隠さず蒼は右手でほうずえを付き、ガン見していた。それに気付くやいなや、寧々は体を更にベランダの方に向けて本に夢中になるそぶりを見せた。口元をくっとあげながら、なにやら楽しそうに笑みを見せると、席から腰をあげて、その背中にぐっと近づいた。
「さっきから、そのページから進んでませんぜ?」
「ひゃっ――。」

思わず自分から出てきた悲鳴を咄嗟に口を覆い隠し、そのまま軽く後ろを振り向くと、自分の顔の横、肩の位置に蒼の顔があり、二重で驚いたようで、両手で必死に口を覆った。肩を上下させ、一生懸命深呼吸するそぶりをみせた後、「ぷはぁー。」と苦しくなったのか、息を大きく吐いた。

蒼はくつくつと笑った。そんな蒼を横目で見ると、ちょっと恥ずかしそうに顔をくしゃりとさせ、また本を持ち、背を蒼の方にむけ、パラパラと今度は高速でページを捲った。が、いつまた蒼が自分の近くにくるやも知れないと、ちらり、ちらりとその視線を蒼へと送り、側に着てないかと確認している。それがまたおかしく、「ぶはっ。」っとこらえきれないように蒼は声にだし笑った…。




「そんなに怒るンなって。」
そう言いながら、机をくっつけ、弁当をひろげている寧々と雅の席に自分達の机をくっつけ、今しがた売店で買ってきたばかりのコロッケパンとやきそばパン、メロンパン、ホットドックに、バナナ人房そしてジュース。

最後に二人へと買ってきた売店一番人気のダブルシュークリームを二人の前に一個ずつ置いた。二人の視線は、一度、そのシュークリームにキラリと輝いた。濃厚なカスタードクリームに生クリームが合わさって、いつも売り切れており、一度は食べてみたいなぁ〜と寧々と雅が、言葉をこぼしていた一品だったのだ。

しかし、ジ〜と凝視するも、くっと目をつむり、雅は視線を逸らすと、寧々もきゅっと口を瞑り、魅惑のダブルシュークリームから視線を逸らした。
大体、二人は怒っているのではなかった。

ただ、困惑しているだけだった。この間、自分に怒ったそれぞれの出来事、自分の気持ちも、相手の気持ちもいまいちよく分からない状況で、それでもって恥ずかしくて…。怒っているとすれば、そんな自分たちの淡い乙女心をカナズチで粉砕していく様な、イツモドオリの双子の態度。
こんな誘惑に負けてたまるかと黙々と自分の弁当に再び箸をつけた所で声がかかった。

「な。これっていつも寧々が作ってんの?」
話かけられ、思わず蒼の方を向いた事を後悔しつつも、むいてしまったからには仕方がないと口を開いた。
「そう…です。」
この一言で十分だろうと、ふぅと息を付いていると、全く同じ質問を隼人が投げかけていた。

「その卵焼きくれねェ?」
「ハっ!?ななナンで?」
「いや、普通に上手そうだから…。」
「う、上手そう?だだだ駄目よ!」
あきらかに、同様率200%の雅の言葉を無視した様に、隼人の右手は無遠慮に雅の卵焼きを掴み、弁当箱の中から抜き取り、口の中に入れた。「あ〜!」と雅が叫ぶと、半分だけかじると、その半分を雅の口元に持っていった。
思わず赤面したのは当人である雅と、真正面に座っている雅もだった。そして、周囲の視線。

実の所、隼人と蒼が、二人して近頃寧々と雅の席にくっつけると噂になっており、そして、昨夜何人かにあの場面場面を目撃されていたと言うのもあり、集中的にその視線は教室の隅のくっつけられた四つの机へと向けられており、時折その視線を外すも、耳だけは、像の様に膨らませていた。

「も、もういいから隼人が食べてよ!」
これだけの言葉に肩をゼイゼイと上下させている雅を隼人は面白そうに笑い、「じゃ、遠慮なく。」と残りの半分も口にいれ、うまいと言葉をだした。
「んじゃ、俺も。」

そういいながら、今度は蒼が寧々のお弁当を物色しようとすると、寧々はお弁当を蒼から遠ざけた。
「そ、蒼くんは、パンが、あ、あるじゃないですか!そ、それを食べてください!あ、あたしのお弁当は、あたしが食べます…ので。」
息継ぎをしつつ、何度か噛みながらしゃべり、話し追えるころには、頭からシューシューと湯気がでていた。
「ふーん。」
イタズラな瞳をしつつ、蒼は口元をあげた。今や教室の中には、この四人の会話を、まるで映画の様に待っているクラスメイト。男子生徒は面白そうに、しかし水を差すと全ておじゃんになってしまうと必死で息を殺した。女子生徒はといえば、まるでハンカチをキツク噛み締める様な眼差しでその視線をちらちらとその隅に送っている。

そんな、ドラマの様なシーン…。
「じゃ、俺はコレで我慢するっつーか、正直、これが一番上手そうだっつーかってな。」
そういいながら、蒼は寧々の顎に手をかけた。これには、雅もぶったまげた様に固まった。それに負けじ劣らず寧々の双眼はくわっと開かれたまま静止している。
そして、そっと、蒼は顔を傾けた、教室から凄まじい悲鳴に近い声と、男の興奮の声。
ごきゅんと寧々の喉と雅の喉の音が重なった所で、蒼の唇は寧々の口元につけ、そこにくっついて居たサンドイッチの中身のゆで卵を、含んでいる口内から舌先をペロリと出し、舐め取った…。



……To Be Continued…

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