act 13

「オイ、万事屋。酒が足りねェ。オメーちょっくら買って来い。」
土方は空っぽになった酒ビンを逆さに揺らしながら、銀時を見た。銀時は目を吊り上げたまま唾を飛ばしながら土方に口を開いた。

「テメーが買ってこい!つーかお宅ら人ン家で何やってくれてんの?やれ宴会だっつーと必ず俺ン家に来るのやめてくんない?!すっげー腹立つんですけどぉぉ!!」
「まぁまぁ旦那。旦那がこうして家を構える事が出来たのも、俺らが仕事回してるからっつー事なんで、とりあえず勘弁してくンなせェ。」

銀時の真向かいの席でベスト姿の総悟が銀時に別の酒瓶でそのまま酌をした。
「全然割りにあってねーじゃねーか!何度死にかけたと思ってやがる!」
ますます目を吊り上げた銀時に近藤が口を開く。

「だからお前を毎度指名するんだろう。うちの隊士をむやみやたらに殺させる訳にはいかんのでね。それに正直言うほど大変な思いはしてないはずだろう?お前さん程の腕をもっているならな。」
近藤の言葉を、銀時はケっと横に流したが、総悟の注いだ酒を飲み干すと、素直に近藤からの酌を受け取った。

「万時屋。酒だっつってんだろうが。」
会話の横やりを入れるように、再び土方が銀時にちょっかいをだした所でミツバの声が入った。

「十四朗さん。もうすぐ買って帰ってくると思うから。」
一声にミツバの方を見ると、横でお妙が口を開いた。
「今、子供達に角を曲がった先にある酒屋で買ってきてもらう様に頼んだの。」
総悟はくるりと回りを見渡した。
「朱璃にか?」
「蒼と隼人も一緒アル。」
「それに――。」
あやめの言葉を遮るように、『只今〜!』との声が重なった。
ガチャリとリビングのドアを開け、足音がいくつか重なった所でまず一声隼人が口を開いた。

「つーか、仕事から帰ってきて宴会おっぱじめるってどうよ。」
「全くでェ。先月も結局銀ちゃん家に泊まったじゃねーか。」
蒼も口をだしたトコで、蒼と隼人の後ろから朱璃が顔を出し、買い物袋の一つを持って、総悟の横につき、柔らかく笑みをだしながら、ハイっと差し出した。つられる様に総悟は笑みを見せ受け取った。中を見ると、酒屋においてあったつまみの数々。当然だが酒ではない。総悟は朱璃に当然の質問を投げかけた。

「酒…は?」
こんなたわいもない言葉の中にも、娘を可愛がっているその温度が込められている。
そんな総悟の言葉に朱璃は指を指した。
「迅(じん)君と時哉(ときなり)君が持ってるよ。」

指された指の先、リビングから入って来た二つの影。
鬼嫁と書かれた酒瓶を取り合う二人の男の子。

片や、銀髪で、名を時哉と言い、父親の幼少時代を思い出させる面影。
背格好は朱璃と同じく歳相応であるが、父親譲りのそのえんじ色は、深く、しかし父親と違って澄んだ瞳をしている。

片や母親譲りの亜麻色の髪と、父親譲りの切れ長の藍色の瞳、顔のつくりはどちらも母親に似る事無く、どうみても父親ゆずり、おまけに性格、相性の悪さまで父親譲りと来ていた。

そんな二人が、今まさに、どちらが買って来た鬼嫁を渡すかと揉めている最中であった。
「俺が持って来たんだろ!俺が渡す!」
「お前が俺から取ったからだろ?いいから返せよ!」
「だれが返すか!お、れ、の、だ!」
まるで父親同士の子供っぽい喧嘩を彷彿させた。酒瓶の上と下を左右で引っ張り、中身の酒がちゃぷちゃぷとゆれている。混ざる心配は酒なので特にないが、どちらかが落とし、割ったともんならたまったものではない。

実際一度や二度は既にやっていた。
一度目は、お妙宅で、二度目は此処坂田宅で…。お妙が般若と顔を変化させ、あやめが阿修羅の如く火を吹いた。

その女の姿に、旦那は勿論、周囲の者まで顔を引きつらかせた。
二度ある事は三度あると言うが、冗談じゃないと止めに入っのは、父親である――。
「こらこら。どっちだっていいから貸せ。つーか又割る気ですかコノヤロー。」
「迅ほら貸せ。もうどっちだってかまわねーよ。」

大きな父親たちの手が酒をとりあげようとするが、二人とも離す気はないらしい。
こうなってくると、ムキになるのは大概いつも父親である二人であって、一本の酒瓶を四人の手がしっかりと掴み、大人も子供も関係なく、とりあいに発展して行った。

「あーあ。また銀ちゃんとトッシーやり始めた、ったく迅と時哉もまじって何してんですかねェ。」
蒼は頭の後ろで手を組み、目を細め、その光景を魅入った。其処に、神楽が、笑いながら、「ほっとけば自然におさまるアルヨ。」と出前で取った寿司のネタに手を伸ばした。
隣の朱璃にもいくつか取ってやり、美味しいね。と微笑むと、ウン!とその瞳が輝いた。

ミツバといえば、あやめと一緒になって、台所で、新しくジュースの口を開けている。そして、自分の旦那と、その子供の様子を見るたび、二人して、ため息を付き、思わずクスっと笑った。

珍しい組み合わせであり、初めは接点も性格も違った二人だが、似たり寄ったりの夫を持つ身である事を通じ、自然と仲も良くなっていった。お妙はと言うと、この部屋は煩いからと和室で既に寝てしまった。今年10歳になる娘の楓の様子を見に行っている所だった。

そのお妙の背中を追い、神楽は和室に入って来た。
其処には、近藤の遺伝子を何一つ引き継いでないような長いまつげに端整な顔、子供らしいやわらかい体、栗色の柔らかい、ほんのちょっぴりウエーブがかかった髪の楓が寝ていた。子供の寝顔は天使だとよく言ったものだが、この楓も、まさにその言葉がピッタリだった。

妙のミニチュアと呼ばれるこの娘は、気性が荒いというが、単に気が強いと言うか…。
男勝りと言うか。とにかく容姿には似合わないような性格だった。学校で、男の子を泣かしたと言う言葉を聞き、いつも妙は頭を悩ませ、近藤は子供らしいと笑っていた。

「寝てる時は天使アル。」
神楽はそっと楓の側に座っているお妙の横に腰を下ろした。長いまつげにそっと手をやると、ちょっとくすぐったそうに動いた。お妙はコラ。っと笑いながら神楽に言うと、神楽はふわりと、あの頃の笑顔で笑った。

「あの時からは、何もかも夢みたいで、なんだかまだ夢の続きを見てるみたいアル。」
ふわりと楓の柔らかい髪をそっと撫でると、くすっとお妙が笑った。
「そうねェ。確かに今だ信じられないわ。あの頃の皆がこうして今も変わらず生きて居るんだもの…。」
「姉御がゴリの子供を妊娠したって聞いた時と、さっちゃんが銀ちゃんの子供を妊娠したって聞いた時は、びっくりして腰を抜かしたの覚えてるアル。」
「あら、私は、初めて沖田さんと離婚するって神楽ちゃんが泣きついて来た時の方が、よっぽど驚いたわよ。」

見つめあって、思わず吹いた。楓が起きてしまうと、くすくすと笑いながら、どちらともなく口に人差し指を立て、シーとやった。
和室の襖の向こう側からは、蒼と隼人が止めに入った様な声が聞こえてきた。それに加え、ミツバとあやめも…。
そしてまもなく、総悟が神楽の名を呼ぶ声と、近藤がお妙を呼ぶ声が聞こえた所で、二人はゆっくりとその腰をあげた…。





……To Be Continued…

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