「神楽は?」
銀時は顔を荒い、新八が取り込んだ新聞を持ち、ソファへと深く沈む。台所の方から、まだ寝てますよとの新八の声に、銀時は、だろうな。そう口にした。
さながら夫の朝食を準備する妻の如く、新八は忙しなく動き、間も無くおぼんの上に白飯、昨日の残り物の味噌汁、安い時に大量に買い込んだアジの開き、納豆、熱いお茶をセットし、銀時の元へと運んできた。
主婦もあっぱれの手つきで、テーブルの上には、朝食がセッティングされていく。毎日の光景なので、どちらも特に気にとめない。銀時は当たり前の様に箸を持ち、まずどれに、やっぱ白飯か?いやいや、アジの開きか、やっぱまずは味噌汁で喉を潤して、いや、だったらあっついお茶だろ。と箸を置き、お茶で喉を潤わせた所で新八が口を開いた。

「銀さん、本当にいいんですか?」
「あぁ?何がだよ。」
新八の意図を気付いてはいたが、あえてその言葉を口にし、白飯を結局最初に口の中に入れて噛んだ。
「神楽ちゃんですよ。いくら18歳とは言え、お登勢さんのトコでバイトだなんて…。」
「別に客に付かせてねェんだから問題ねェだろ。」
「そうですけど…。あの、沖田さんにバレやしないかと…。」
銀時は思わず噛むのを停止した。その名前を出すな。不吉でしょうがねェと言う表情を新八に向けると、銀時は神楽の寝ている押入れを見ながら、大きくため息を付いたのだった…。

....

神楽が下のお登勢の所でバイトが決まったのは、ほんの10日程前の事だった。
お登勢が突然、二階に上がってき、少しの間、神楽を貸してくれないかと言い出したのだ。家賃の取立てと思った銀時と神楽は、隠れていた部屋から顔を出すと、話しを詳しく聞く事にした。近頃店が忙しく、とても一人ではまかないきれないと言うのだ。店の子を雇うのもいいが、上にいいのが居るじゃないかと話しを持ってきたと言うのだ。
勿論席には付かせない。運びの合間の少々の会話だけで十分だとお登勢は言う。そして、給料もきちんと払うと言うのだ。神楽は飛びついた。

銀時はすぐに待ったをかけた。そしてお登勢には、少し考えるからと一度帰ってもらい、もう一度神楽に話しを切り出したのだ。
「やめとけ。あいつに知られたらやっかいな事になるぞ。」
テーブルを挟み、ソファ越しに向かいあう。
「バレなきゃ大丈夫アル。」
「あいつの勘の鋭さは、古畑任三郎なみだぞ。いちいち危ない橋を渡って喧嘩にでもなったらどうする。おめーらの喧嘩の規模は街を破壊しちまう規模だぞ。俺の身にもなってみろ。」
「だって、だって、あいつ、この間、お団子やでちょっと私が食べ過ぎただけなのに、めっさ怒ってきたアルヨ!てめーと居たら財布の中身がスッカラカンになっちまわァって帰ったアル。それもコレも私にお金がないのがいけないネ。だからバイトして、私のお財布の中をほくほくにするアルヨ。そしたらあいつに奢って貰わなくても自分で買えるし、文句も言われなくていいアル!」


鼻息を荒くする神楽に、そりゃおめーに金が無い、有るの問題じゃなくて、単に少々食べる量を抑えればいいダケじゃねぇの?
銀時は思ったが、そこはあえて口にはしずに居た。神楽はやる気まんまんで、下のお登勢の元へと降りていく。
頭をガシガシと掻きながら、先の事を考えると、早くも逃げ出したくなってくる。沖田の神楽への執着は傍で見てるとよりよく分かる。それと同時に、どれだけ神楽の事を思っているかも分かる。だから半年前に付き合うと言った時も心よく、承諾したのだ。
ただ、やきもち、独占欲との類の言葉が、沖田には半端なく根付いているようで、外を歩いている時に、神楽に見とれた男を見かけるだけで、その殺意を全身に相手に叩きつける程だった。そんな事を神楽は知る由もない。
恐らく、団子屋での一件も、ただのいつもの痴話喧嘩のつもりだと銀時には分かった。

沖田の表情、仕草、何処を見ても神楽を強く思っているのは一目瞭然だったからだ。
面倒くせぇ…。銀時は強くそう思いながら、間も無く上がってくる、階段の音にへと耳を済ませたのだった…。




……To Be Continued…







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