act 24

ガランとした其処に、二人の影。先程零れた酒などは、とうに片付けられている。恐がっていた椿と百合は、土方がもう一台タクシーを呼んでやり、既に帰してやっていた――。

「オイ。大串君。」
「俺は、大串くんじゃねェ。つか誰だ大串くんって。勝手に人の名前を変えんじゃねェよ。」
「あいつら帰ってこねェよ。」
「人の話を聞いてねェな。テメェ。つーか、そんな事俺に振られてもしょうがねェだろう。」
「いや、あの義正ってー男と一緒に、お宅の大将も出てったきり帰ってこねェし。俺ら、もう必要なくね?」
「知るか。」
「つーか、おめェン所の坊ちゃんは親の承諾なしに、うちの娘を如何わしい所に連れてってんだ。後でキッチリ落とし前つけらして貰うぜ?」
「つーか、そんな事俺に言われても仕方ねェっつってんだろ。あいつもガキじゃねェんだ。大体ホイホイついて行ったのは、どうせお前ン所のガキだろうが。」
「つーか、何?新撰組の副長とあるお方が責任逃れですか?やばくネ?信じられなくネ?」
「――つーか、マジで連れてったのかよ…。」
「――つーか、マジでついてったのかよ…。」


.....

見た事もない様な浴室は、いつも自分が入っている万時屋の浴槽とは、天と地ほどかけ離れたものだった。見てるだけで、うっとりする様な浴室。広さ。バスタブ一杯に溢れる泡風呂は、ココロまで溶かしてしまいそうな気がした。
その泡をすくってみる。シュワシュワと音と一緒に泡が弾けた。細い腕に泡をのっけてみた。頭にものっけてみた。全身から、シュワシュワと弾ける音がした。
ぷるぷると頭を振ってみると、鼻のてっぺんに泡がついた。それを手で拭って、ふっと息をかけると、宙に舞い、空気に溶けた。神楽は笑った。泡をシャワーで泡を消していく。大き目のバスタオルに自分を包むと、鏡越しに、既に火照った自分の頬がある。
ふわりと自分から香る優しい匂いは、きっと入浴剤の匂いだなと笑みを見せた。

桃色の髪からは、ポタリと雫が落ちた。其処まで来て、一気に自覚が沸いた。先にシャワーを浴びた沖田は、どんな気持ちで待っているんだろう。
この扉を隔てた向こう、沖田が居る。思わず神楽はドアノブを見つめた。この場所が、どんな場所か、分かってついてきた。
でも、沖田となら、いい。そう思った。部屋に入るなり首筋に噛み付いてきた沖田を、やっとの事で落ち着かせ、お風呂に入りたいと駄々をこねた。駄目だと言い張る沖田だったが、此処で神楽に機嫌を損ねられるとマズイと承諾した。
其処から、数十分。神楽はバスタイムに思わず没頭してしまった。今更だが、怒ってるかもしれないと頭によぎった。思ってしまうと、中々開けられないもので…。脱衣場でクルクルと回った。
「ヨシ。女は度胸アル!」
握ったドアノブを勢いよく引いた。引いた瞬間、腕を引っ張られ、重ねられた。吸ったままの息を吐き出せないと神楽はもがき、どんどんと胸板と押した。しかしピタリとくっついて離れない。そのままベットに押された。カツっと足にベットが当たった。体が後ろ向きに倒れた。跳ねた。それを押し付けるように唇を塞がれた。

「この馬鹿女。一体ェどれだけ待たせてやがんだ。」
首筋に顔を埋めながら、拗ねた様に言い捨てた。
ゾクリと体が跳ねた。キツク巻かれたバスタオルを乱暴に外された。
「ちょぅ、まっ、待つアル!」
「い〜や。もう待てねェ。一秒だって待てねェ。」
目を見開いた神楽をそのままに、無遠慮な沖田の手は神楽のそのふくらみを強く掴んだ。神楽は顔をゆがめた。痛い!言ってはみるが、全く沖田の耳には入っていない。神楽の気持ちは全くと言ってイイほど無視され、ふくらみの頂上の突起を噛んだ。痛い!また神楽は言ってみるが、これも無視。神楽は沖田の頭を離そうとする。それに反発する様に沖田は其処を吸った。神楽は下唇を噛んだ。もっと強く頭から離そうとした。沖田は両手で華奢な神楽の腰に手を回した。
「嫌!痛い!嫌アル!。」
神楽の叫び声に顔を上げた沖田の頬を神楽は引っ叩いた。
「痛っ…。何しやがる!」
頬を押さえ、神楽を睨んだ。神楽はシーツを掴んで、体に巻いた。起き上がり、ベットから足を下ろした。その腕を沖田が掴んだ。
「何処に行くンでェ。」
「帰るのヨ!」
「はァ?誰が帰すかよ。」
「離せ!今のお前とヤリたくないアル!ガツガツしてて嫌ヨ!」
「ガツガツもすらァ!惚れた女が前にいんでィ。当然だろ!」
「だったら、もうちょっと優しくするアル!あたしの事なんて、何も考えてないネ!」
神楽の息が上がっていた。その目の前で沖田の息も上がっていた。神楽は手を離せとぶんぶんと振った。沖田は離すかよと手に力をはめた。

「とにかく、あたしはしたくないアル。」
強気な神楽の瞳が沖田を捕らえた。沖田の瞳も神楽に負け時と光った。こんな所まで来て…。何処からかそんな声が聞こえてきそうになった。
沖田は舌をならした。その音が神楽の勘にさわった。ギリっと歯をならし、勢いよく手を振り上げ離そうとした。その手ごと沖田は抱きこんだ。神楽は体勢を崩し沖田の胸へとすっぽり入ってしまった。唸り声をだしそうな神楽からシーツをさらりと取り上げた。あまりの唐突さに神楽は声も出ず身を隠そうと沖田に抱きついた。沖田は神楽の滑らかな肩へ舌を滑らすと、カチっと噛み付いた。神楽の顔が歪むと同時、もう一度今度はそこをペロリと舐めた。
「仕方ねェだろうが。コレでも焦ってんでィ。」
恥ずかしいので体はピタリとくっつけたまま、しかし顔はキョトンと沖田を見上げた。
「何でお前が焦るアルカ?」
「そりゃアレだ。アレ…。」
「アレって何アルカ。」
「おめェがフラフラしてやがるからだな…。」
「あたしがいつ、フラフラしたアル。それはお前アル。誰かさんとキスしそうになるし。」
「それはだな…つーかおめェもあの時俺が止めなかったら、そのままあの男に体を許してただろうが。」
「変な言い方をしないで欲しいアル。てかゆるして…ないし。」
「絶対ェだな?俺が止めなくても、お前は断ってたんだな?」
「―――。」
「ほらみやがれ。」
「だって、仕方ないアル。別にキスしようとしてた訳じゃないネ。大体お前は自分を棚にあげて…てか、まるでやきもちみたいアル。」
「――悪りィかよ。妬いちまって…。」
運ばれる会話の中からスルリと出てきてしまった言葉に神楽は思わず唖然と沖田をみあげたまま固まった。
口が滑ったと沖田は口を覆っていた。沖田はちらりと神楽を見る。
そして、まだ唖然と見続ける神楽の顔を引っ張るように、唇を優しく重ねたのだった…。


……To Be Continued…

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