act 23

「神楽ちゃん!」
夜の街、そこら辺の客の足も、大分遠のいてきた。そんな中、義正の声が響いた。其処にいると思っていた神楽が、其処にはおらず、きょろきょろと探している。その義正の声を、其処にいるはずだった神楽が、路地裏で聞いていた。
「駄目だ、行かせねェ。」
思わず、義正の所へ行こうとする神楽の手を沖田は掴んだ。神楽は沖田の方を振り返ったが、再び自分の名を呼ばれ、義正の方へと視線を移した。
「だって、呼んでるアル。」
「駄目だ。」

「すぐに戻ってくるアル。」
あいつは、オメェに惚れてンでィ。喉から言葉がでかかった。しかしそれを他人の口から言うのは、反則だと言う事だけは分かっていたので、何とか飲み込んだ。しかし自分の惚れてる女を、みすみす男の元に行かせる様な寛大な心は持っていなかった。沖田は舌をならした。
「俺か、あいつか、どっちか選びやがれ。」
「何で、選ばなきゃいけないネ。ただ呼んでるから言ってくるだけヨ。」

「俺が嫌だっつってんでィ。」
神楽は、面倒くさそうに、ため息をついた。「すぐに、戻ってくるアル。」行こうとする神楽の手を掴んだ。
「あいつを選ぶのか?」
「だからそんなんじゃなくて…。」
「もう、いいでさァ。勝手にしやがれ。」
「ちょっ――。」
神楽の名は、呼び続けられている。沖田は、踵をかえし、神楽を置いていってしまった。「何でそんな怒るのヨ。」呼ばれている自分と、置いていかれた自分。あ〜もう!唇を噛み、義正の方へと、とりあえず足先を向けた。神楽の姿を確認すると、ほっと胸を撫で下ろした義正に、神楽はとりあえず微笑んだ。
「どこかへ行ってしまったんではないかと心配しました。」
何処かにいってしまおうとしたアル…。内心で思う神楽をやんわりと義正は微笑んだ。その次の瞬間、義正は勇気を振り絞った様に真面目な顔になった。

「神楽、さんは、沖田さんと、お付き合いしてるんですか。」
辺りは暗く、はっきりとはお互いの表情が見えない。神楽が、ちょっと困った様にわらったのが、義正に見えた。
「お付き合い、してるアル。」
「そう、ですか…。」
しばらく、二人の間に沈黙が走った。その沈黙を裂いたのは、義正自身だった。
「僕は、神楽ちゃんの事が、好きでした。」
酔っていた自分の記憶が、所どころ飛んでいる部分もあるが、義正が自分に好意があると言っていたのは、うっすらと覚えていたので、あえて驚きはしなかった。

「うん。ありがとう。」
「僕だって、本当は、諦めたくありません。沖田さんみたいに、神楽ちゃんがピンチの時に助けたり、喧嘩も強くないけど、好きって言う気持ちは負けてません。」
「うん。」
また沈黙。神楽は、見守るように、優しく微笑んでいる。
「でも、神楽ちゃんは、幸せ、なんですよね?」
「――うん。幸せなノ。」
義正の顔が、切なそうに、一瞬泣きそうに歪んだ顔が、月の光がイタズラに照らし、神楽へと届けた。
「ごめんね。でも、すっごく嬉しいアル。」
驚くほど、優しく、優しく。言葉は出た。義正は、ゆっくりと神楽の方を見た。ちらり、ちらり、義正の視線は神楽と重なる。
「僕は、押しも弱いです。勇気もありません。でも、でも、一度だけ。たった一度だけ、抱きしめても、構いませんか…?」
空色の瞳が、月で濁り、一瞬迷った様に揺れた。独占欲の強い沖田の気持ち、義正の優しい気持ち、神楽の沈黙は続いた。

「すいやせん。それは勘弁してもらえやせんか。」
神楽の手を後ろ手に引いた。そして神楽の前に立ったのは、神楽を置いていったはずの、沖田だった。思わず言葉に詰まった神楽が見たのは、冷静に見せているが、暗闇の中、上下する肩と、分からないように隠す、あがった息だった。沖田は義正に頭を下げた。
「最初に、ちゃんと言わなくて、すいやせんでした。こいつは、俺の、俺の唯一、誰にも渡したくねェ女なんでさァ。喧嘩も馬鹿らしい程したりするが、それでもやっぱり、俺には、こいつが必要なんでェ。俺だけのものであって欲しいんでさァ。だから、勘弁してくれやせんか。」

「お、沖田さん。頭を上げてください。」
義正は口をわっと開けた。あの、沖田総悟が、自分に頭を下げている。たしか、自分の記憶ではプライドが高く、人の言う事は聞かない、問題児。唯一、自分が下になり、言う事を聞くのは、局長である、近藤だけだと聞いた事がある。そんな男が、自分に頭を下げているのを信じられない気持ちで義正は見た。それほどに、神楽が大切なんだと言う事。神楽を、大切にしていると言う事。
「神楽ちゃんの、大事な人が、沖田さんで、良かったです。心から、そう思いました。」
義正は、そう柔らかく微笑んだ…。


……To Be Continued…

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