act 11

暗い電灯が夜の街を、ほんのりと照らす。
其処を、一人分の足音がなった。くたくたに疲れた足音。しかしその足音は何処か楽しげにも聞こえた。

歩いて行くと、灯るべきところに灯りがない事に気付いた。その影は首をかしげた。
足の速度をあげた。『あっ…。』まるで鏡の様に映った瞳の奥の自分。

「雅は…?」
「送った。寧々もか?」
「あぁ。てか、ナンだコレ?またかよ。」

入り口の所に大きく貼り付けられた紙には、もう離婚してやるとの殴り書き。
蒼と隼人は大きくため息を吐いた。その紙を乱暴に剥がす。そして躊躇もなく踵を返した。

蒼と二人、並んで歩く。最初は面倒くさそうに、頭をガシガシと掻き、あの馬鹿女と吐き捨てた。
少し、歩幅が広がった。イライラが表に出てきているようだった。
どちらともなく速度が上がった。どんどん歩く…走るっ!

鞄とプレゼントを庭に置き、二人並んで全力疾走。隼人が蒼を抜く。蒼が隼人を抜いた。隼人、蒼…。
その足は凄いスピードで周りの景色を溶かしていく。

「――っ息があがってンじゃねーのか?」
「あ?ふざけんじゃねェ。っそれはテメーだろうが。」

何処に向かっているのかわ、お互い分かっている。が、本来の目的をあわや忘れかけている程にその勢いは止まらない。どんどんと目的の場所は近づく。其処には、ちゃんと温かい光が中を灯している。

先に塀に手をついた方が先。昔よくそう遊んでいた。グンと隼人が前に出た。

「負けるかよッ!」
蒼が隼人を抜いた。まだまだァと隼人が抜く。後数メートル、―――!

「俺の勝ちィ!」
言ったのは蒼の方だった。横を向くと、肩で息をする隼人が舌をこれ見よがしに鳴らした。額の汗を手で拭うと満足そうに蒼がにやりと笑った。

「眼鏡かけてなきゃ勝てたんだっつーの!チクショー。」
「はン。そう言うの何て言うかしってっか?負け犬の遠吠えっつーんでさァ。」
言いながら、玄関のドアノブに手をかけ引いた。後ろ手に悪態をついていると、ドアを引いた瞬間、自分の首元になにかがぶら下がった。

「グエっッ!ちょ、く、苦しい――。」
「蒼兄ちゃん!」
ぶら下がったのは、今日プレゼントを渡すはずの人物だった。
「ちょっ…。朱璃重てェ…。」

いいながら、蒼はふわりと朱璃を抱き上げた。朱璃は蒼の首にぎゅうっと抱きつく。まもなく後ろに隼人の姿を確認すると「隼人兄ちゃん!」と隼人に手を伸ばした。柔らかい笑みを見せた隼人は蒼に抱かれている朱璃においでと手を出す。

もう12歳にもなる女の子であって、決して小さいとは言いがたい。でも若干母親に似たのか、クラスの中でも身長は低いほうだと朱璃が言っていたのを二人は聞いていた。

朱璃は蒼の手から離れ、隼人にふわりと抱きついた。足をぶらぶらと、隼人に抱かれる姿は、アノ、産まれた日々から何も変わってない様に思えた。

「――で?朱璃。あの馬鹿女はどこだ?」
隼人が聞くと、朱璃は人差し指で扉で仕切られてある、リビングの部屋を指した。
「銀ちゃんは?」

ため息まじりで蒼が言った。
「居るヨ。さっちゃんママの代わりにママの相手をしてる。」
やれやれと言う面持ちでその扉を引いた。
目に入って来たのは、ぐしぐしと泣きっ面で銀時にしがみ付き離れない、自分達の母親だ。
しかしこの二人はこの位の事では動じなかった。なぜならば、昔からずっとこんな感じだったからだ。

喧嘩をしては万事屋に乗り込んでいっては帰らない事など日常茶飯事、父親とその場で大喧嘩する事もしょっちゅうだった。しかしこの二人は、これが愛情表現なんだと、幼い時から、銀時、そして父親の姉であるミツバの夫の土方に言われ続けていたからだ。

そんな母親にめっぽう自分達は弱い。確かに昔から弱いのだ。父親と喧嘩しては、よく部屋に入ってき、愚痴をこぼして荒れた日。

父親が公務で忙しい日が続いたり、出張が重なり家に帰らない日々が続くと、どちらかの部屋に入り、結局どちらともその部屋に呼ばれ、一緒に寝てヨと駄々をこねた。

男はみんなお子様アル。それが母親の口癖だったが、オメーが一番子供じゃねーか。父親を含め、三人は毎度思っていた。そんな母親が又もや家出。もう一度や二度じゃない。

慣れっこと言えば慣れっこだが…。そして、理由についても粗方予想が付いていた。今日は出張に行っていた父が帰ってくる日だった。しかし此処で荒れていると言う事は…。どうせ帰れなくなったのだろう。そしてそれに腹を立て、最後に泣きに入ったと…。

こうなると、はっきり言って、自分達では中々手が負えない部分があって。正直な所、銀時を呼んだ事もしょっちゅうある。そんな中、先にため息を付き神楽に手を差し伸べたのは、割りと冷静の隼人だった…。



……To Be Continued…

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