act 10

女なんざいらねェ。同じクラスの神楽に惚れている沖田を見るたびに高杉は思っていた。試行錯誤を繰り返し、奮闘する沖田。
周りからみれば神楽の方も、その気があるのは十分分かるのに、とうの本人達だけが、気づいてない。かといって、言うのも気が引ける。
毎度面倒な事に巻き込まれる自分。沖田と神楽だけになれば、すぐに喧嘩のゴングがなってしまう。だから大抵、土方か高杉がまずは神楽に声をかけていた。神楽の方も、沖田でなければ優しい一面を見せる。これを沖田の前でだしゃぁいいものを…。誰しもが思っていた。
高杉にとって、神楽はただ、沖田が、友達が惚れた女。何か特別な感情など、抱く事もなかった。

そんな高杉が、いつも神楽の隣にいる、また子を、最初は変な女。そう感じだしたのは、いつからだろう。いつも語尾にスをつける、マジでウケる女。
いつもテンションが異様に高く、ミツバ、お妙、そして神楽と笑うと、陽に照らされた金髪がふわりと揺れる、その姿を目で追いだしたのは、いつからだろう。沖田の為に、神楽に話しかける。それを理由に、また子の側へ行った。
それも無意識の内に。まもなく沖田は神楽と付き合いはじめた。良かったなと笑ったのも束の間。また子が他校の男に呼び出されたのを知る。

もやもやが自分の中にたまっているのは分かっているにも関わらず、変なプライドが邪魔をした。また子に彼氏が出来たと、自分とおそろいだと、神楽が笑っているのを見てしまう。それでもまだ動けなかった。あの時までは…。
 
「また子。」
 見た事のない男が呼んだ。何度も、何度も、俺のモンとでも言う様に。我慢が出来なかった。あの薄暗い教室。たまたま彼氏の電話を待つまた子と鉢合わせになった、誰も居ない、たった二人だけの教室。夕日がまた子の金髪にあたって、輝いてた、あの時、全てが自分の中で壊れた。

自分に背を向け、携帯の着信音に気づき、ボタンを押すその指を止めた。そのまま無理やり重ねた。暴れても、嫌がっても、声を出しても、意地でも止めず、ただただ絡めた。自分の頬に付いた涙で正気になった。流した涙は自分の所為だとわかっていても、後悔など出来なかった。ずっとこうしたかったのだから…。涙を拭う代わりに、優しく腰を抱いた。謝る代わりにもう一度優しく重ねた。
 「好きだ。」
まつげがくっついた、あの瞬間。瞬きさえも忘れて見開いた、孔雀(くじゃく)色の瞳。まもなく、くしゃくしゃの顔して、しがみ付いてきたその細い手を、もう絶対離さねェと思った。

付き合い始めた自分達。そっと聞かされたまた子の本音。
「ずっと高杉の事が好きだったアル。大切にしてあげてネ。」

嬉しかったのは、言うまでもない。ずっと大切にしてきた。ただ、昔からあった少しの癖。神楽とふざけていると、ほんの一瞬、泣きそうになる癖。気にも留めてなかった。

学生の時みたく、金がないのは嫌だった。
誕生日には、あいつの喜ぶものを買ってやりてェ。柄にもない事を思いだした。事業を立ち上げると、これがうまく行った。会える時間はハンパなく減ったが、今がんばっときゃぁ、旅行だろうが、なんだろうが、連れて行ってやれる。我慢させているのは知っていたが、見ないふりをした。浮気疑惑が立ったあの瞬間、目の前が真っ黒に染まった。自分自身が一番驚いてる程あせった。そして、聞いた神楽の本音、女の本音。胸に突き刺さった。窓の外を見るまた子の横顔をちらりと高杉は見た。久しぶりに見た横顔、長いまつげが瞬きをした。窓越しに笑った彼女を見た高杉は、どうしようもなく揺さぶられた。次の瞬間だった。自分でも気づいてないまま、また子は涙を頬に流していた。

重ねた唇から、本音が伝わらないまま、彼女は泣き続ける。こんなに我慢させていたのかと後悔をしてみるが、どうやら違うらしい。自分だけの特権、また子と呼んでみると、ぐしゃぐしゃの顔で、苦しい、助けてと叫ぶように、絞りだされた言葉。何かが切れた。制御している自分が、バラバラに散らばった気がしたまま、また子の体を縫いつけた。どんな勘違い女だコイツ。ばかじゃねェの?思った心とはうらはらに、自分の体は、以外に優しく動いた。
慰める様に絡めた舌の跡、不安でどうしようもない表情の女が自分の下、見上げていた。口元は自然に緩んだ。

「俺は、最初から、おめェに惚れてる。一度だってあいつを好きになった事なんかねェよ、この馬鹿女。」
また子は、くにゃりと表情を崩した。
「う、嘘だぁ。だって、いつも神楽ちゃ…。」
「ありゃ、沖田の為に、仕方なく話してただけだ。そりゃ話をしてりゃぁ、仲良くもなるだろうよ。ダチなんだから。」
「嘘。嘘!信じれないっス。」
「何で信じれねェのか、俺は信じれねェよ。」
「――伸介、自分がどれだけモテてるかしらないっス。いつも、あたしばっか、やきもち妬いて…。神楽ちゃんだって、あたしの何倍も可愛くて、大体なんであたしが彼女なのか、今だってわからっ…ぅひゃぁ!」
また子の首筋をペロリと舐めた。首元に伝った涙が水滴のまま残って、それがしょっぱく感じられた。首筋に舌を這わしたまま、噛み付いた。また子はビクンとさせた。
「言っただろうが、俺はお前に惚れてる。疑うな。」
「う、疑うなって言ったって、そんな理屈じゃ…。」
「――理屈じゃねェ。確かにな。」

高杉は助手席のシートを完全に倒した。
「ぅえっ!伸介、何っ?」
「理屈じゃねェんだってお前が言ったんだろ?無理だぜ?我慢できねェよ。」
「こ、此処、車っス!見られちゃうっス。」
「そしたら見た奴、ぶっ殺す。」
「そんな問題じゃ――。っ…ちょ、待っ――。」
「待たねェ。俺が唯一、欲情する女が目の前にいンだから、盛ンのは当然だろうが…。」
「ちょっ――。」

......

人通りの無い車内。曇りガラスの向こうがわ、涙目、見上げてくる、また子の瞳。
「ほんとの、ほんとに?あたしだけっスか…?」
「疑りぶけェ女。そう言ってんだろ。」
「だっ、大体そんな風にいつもキツイ言い方しか晋介はしないから…。しないから…。」
「また子。」
「――――。」
「あんまりムクれたままだと、来島って呼ぶぞ。」
「ぁあ〜!嫌っス〜。本当に意地悪っスよ。最低っス。」
「ナンだ?喧嘩のやり直しするか?次は俺は折れねェぜ?」
「―――したくないっス…。」
「よく分かってんじゃねェか。さすが、この俺が一目惚れした女だ。」
「――!」

狭い助手席、高杉の上に、高杉の服を着せて貰ったまた子が顔をあげた。
クツクツと笑いながらも、その目は優しく、もう一度、また子の体を柔らかく抱き締めた…。


……To Be Continued…

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