act 23

赤いクルクルと回るパトカーが万時屋の前で止まった。中からは山崎が出てきた。沖田の側にやってくると、「また派手にやっちゃいましたね、沖田隊長。」そう苦笑した。
「御託はいいから、さっさと、こいつらを連れて行け。」
沖田は、掌をぶんぶんと振ると、やれやれと肩をまわした。

男に一発食らわした直後、初めは驚いていたが、酒が入っていると言う事もあり、「外に出やがれ!」男達はそう言った。近藤や、土方の存在には気づいて居なかった所為もあるが、新撰組の一番隊隊長だと分かった上で喧嘩をふってくるなんざ、そうそう見れるモンじゃない。たかだが数人、沖田1人で大丈夫だろうと近藤はほっておいた。
 神楽には、中に居ろと、沖田は言った。神楽は離れたくないと、沖田の着物の裾を握った。汐らしい神楽に沖田は一度驚いたが、目を柔らかく、微笑んだ後でその手を離した。まもなく、外で男の罵声が飛んだ。その直後、切羽詰ったうめき声が聞こえた。神楽はほんのちょっとドアを開けてみた。しかしその頃には既に終えた沖田が居た。最初の宣言通り、素手だけで、片を付けていた。剣の腕前は十分知っていたが、喧嘩も強いのかと目を丸くした。
「神楽。」
覗いていたのが丸見えだと、沖田は神楽に声をかけた。沖田と目があった神楽はすごすごと出て来る。沖田は携帯を取り出し、ちょうど勤務中である山崎を呼び出したのだった…。

神楽が出てきた直後、眠っていた仲間を起こし、出てきた浅野と丁度鉢合わせになった。
「帰るアルか?」
神楽は駆け寄り、ふら付く友人に手をかけた。「あぁ、もう汐時なんでね。」そう浅野は沖田の方を見た。沖田は冷ややかな視線を送り、そのまま早く帰れとでも言う様にフイっとそっぽを向いた。
「しかし、勿体ねェな。彼氏と喧嘩とかしねェのか?」
浅野の言葉に、神楽は一瞬言葉に詰まった。
「しょっちゅう…。でもないかな?結構優しいアル。」
そう、照れた様に笑った。その神楽に、沖田と浅野、同時にココロを揺さぶられた。
「俺がコイツより、もっと優しくしてやる…つったら?」
「あのなっ――。」
「う〜ん。そうアルナ。でも、何か、そうじゃないアルヨ。色んな事全部含めた上でのって感じアル。うまく言えないけれど、コイツがいいアル。」
浅野にそのまま掴みかかりそうだった沖田だが、頬を染め、照れ隠しに顔を背けた。神楽は、「でも、ありがとうアル。」そう笑った。
「マジでいい女だな、アンタ。もっと早くに出会いたかったぜ。」
「お前、モテるだろ?」
「こんな色男、女がほっとく訳ねェだろ?」
神楽はくすくすと笑った。呼んでいたタクシーが前で止まった。眠っている友人を車内に居れ、神楽と浅野は向かいあう。神楽の隣で浅野に殺意を叩きつけている沖田の頭を後ろから神楽はしばいた。
「何すんでィ!」
沖田の言葉を無視した神楽は、「それじゃぁネ。」そう微笑んだ。
「あっ。あのネ。もし好きな娘が出来たら、次はもっと真面目に言ってみるアル。お前の態度じゃ、もし、本当に好きでも、きっと軽く見られて終わりネ。告白はココロでするものヨ。」
タクシーに乗り込んだ浅野に神楽は言う。キョトンと神楽を見た後、初めてふわりと微笑んだ。それにつられ神楽も笑みを見せた。
「そうだな。今度昼間アンタを見かけたら、真っ向から誘ってみるのもアリだな。」
「誰がさせるかそんな事。」
神楽の隣から浅野の襟首に手を伸ばそうとした沖田だったが、神楽にその腕を掴まれた。
「あたしは、この馬鹿にもう予約済みされてるアル。」
苦笑した神楽を見て、一度、切なそうに笑うと、浅野は車の窓を上げた。ゆっくりと発進させていく車を、神楽は見送った。
「おめェって本当…。」
神楽を見ながら沖田はつぶやいた。神楽は沖田を見ると、首をかしげた。周りに居るものを、自然と巻き込むように夢中にさせる。神楽はそんな危うさを持っている。其処に、ずいぶん前から沖田は気づいていた。いつも気がきじゃないのは沖田の方。何度言っても、気づかないうちに夢中にさせる。理屈じゃなかった。やり方も、しぐさも、その時その時でバラバラ。制御する事が不可能。仕事で合えない日が続くとヤキモキしてしまうのは、沖田の方が強かった。手を出さなかったんじゃない。出せなかったのだ。たがが外れ、後戻り出来なくなる程、のめり込みそうになるのが分かっていたからこそ、手が出せなかった。ただ今回の一件で考え方が変わってきたのは確かだった。神楽が沖田にやきもちを妬かそうと始めたこのバイトだったが、神楽的にも、沖田的にも、きっかけになった。それは確かだった。沖田は神楽の腰を自分に引いた。驚いている神楽の口にそのまま噛み付いた。間髪居れず舌を隙間に滑りこませた。中で絡めた。神楽の股の間に足を入れた。間もなく力が抜けていく神楽は沖田の足に体重を預けた。店前と言う事もあって、神楽はやんわりと沖田の体を離した。離したあと、そのまま沖田の胸に体を預ける。その神楽の耳に沖田は口をつけた。
「このまま抜けていいか?」
沸騰しそうになった体を、高い音を打ちつける心臓をそのままに、神楽は頬を染め、そのまま頷いた…。


……To Be Continued…

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