act 21

殺伐とした空気。
土方は沖田の名を何度も呼んでいる。そしてその声に、銀時、近藤の声も混じっていた。その声は、まるで猛獣を宥めるように、優しく、優しく。悲鳴を上げて、刃物を突きつけられていた椿と百合は、其処から開放され、今はもう、土方側で大人しくしている。脇役である男二人は、唖然と沖田を見ている。新撰組一の剣の使い手、沖田総悟が、今まさに、その剣の切っ先を、自分の目の前の男の喉下につけている。
理性など、ぶっ飛んでいる、その瞳孔を開いて…。

「コ、コイツ、新撰組の沖田だ!」
空気を切り裂く様に、男の1人が叫んだ。その男の言葉に、周りの男もたった今気づいたと驚いた表情を見せた。テレビでいつも見る顔、頭の隅の記憶を引っ張りだしてきた様に、男達は顔を引きつらせた。
無茶振り、非道でしられる男。剣の天才。頭の中に次から次へと沸いてきた記憶に、顔面蒼白になった。しかしその雰囲気を、1人の男の言葉が壊した。

「だ、だったら、余計切れねェよ。俺たちゃ女を口説いてるだけでェ。何にも悪りィこたァしちゃいねェ。」
恐る恐るだした言葉が、しだい確信を持つようにどうどうと言い切った。その男の周りも、「確かにそうでェ。」や「女を口説かれてるだけで殺すなんざ、天下の新撰組も出来やしねェ。」などと、余裕を持ち始めた。沖田の剣は未だ、何も言えない男1人の首に突きつけられている。

「神楽、神楽っ!」
小さい声で銀時は神楽を呼ぶ、神楽はその声に気づくと、銀時の方を見ると、肘を動かし、ヤれと合図していた。その羽交い絞めの手を解き、その腹に一発お見舞いしてやれ。そう目が言っている。しかし神楽はそれを無視した。「オィィ!」銀時が叫んだ。
沖田が切れてる以上、下手に自分たちが動いた場合、男たちが逃げようとし、その向けられた背を、そのまま沖田が切ってしまう恐れがあった。それを何とか阻止したかった。ゆえに、神楽自身に動いてもらうのが、一番てっとりばやかった。自分で抜け出してもらい、自分で後始末を付けてもらう。そして神楽の声ならば、沖田もおとなしくなるかもしれない…と。しかし、神楽自身がそれを拒否したのだ。銀時の隣で土方も目を吊り上げており、その横で近藤は頼むからと泣いていた。

神楽は俯き、事の流れに身を任せている様だった。「何故だオイィィ!。」銀時は叫んだ。「まだ酔ってやがんのか?嬢ちゃんは?」土方が言った。

違った。酔ってもなかったし、もはやその感覚は素面に近かった。夜兎は傷の治りだけでなく、酔いの回復までも、早かったのだ。
ならば何故か?簡単だった。普通の女と扱ってくれた沖田に、普通の女として、このまま守られたかったのだった。

まわりの男の言葉に、神楽を羽交い絞めにしている男も調子に乗ってきた。喉元に、切っ先を突きつけられているにも関わらず口元をあげ、笑い出した。切れるわけねェと。

その顔をみた沖田は、スっと剣を引いた。土方側はほっと息を付いたが、神楽の顔は曇った。沖田は鞘に剣を収めた。男たちは、さも、勝ったと言う様に、あざ笑った。
刹那、勢いよく神楽の体が引かれた。

沖田が、神楽の襟首を強く引いたのだった。笑う事に夢中になっていた男の手から、安易に神楽は開放された。神楽はそのまま沖田の胸の中に収まった。沖田は神楽を左手で抱き、その右手、男の顔面にめり込ませた。

「てめェら何ざ、素手で十分でさァ。」
吐きすてた台詞。吹っ飛んだ男は、もはや立ち上がれない。その男を、唖然と見る、連れの男。沖田の胸の中、守る様に抱かれたその腕の中、離さないとでも言う様に回された腰の手に、幸せだと、神楽は瞳を閉じた…。

……To Be Continued…

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