act 6

ホールに出ると、早くも客が入っていた。遅ればせながら三人はそれぞれ散らばる。
神楽は高杉の方へと、また子は沖田の方へと行き、何か手伝う事はあるかと聞いた。
この選択は、神楽、お妙、また子の三人での苦肉の策だった。どうしても、どうしても神楽は沖田が相手だと緊張してしまう。一方のまた子も、高杉が相手だとどうしても緊張してしまう。それだけは直らなかった。それをお妙に相談した所今回の案をお妙が持ち出した。

神楽は率先して高杉の元に、対するまた子は沖田の元に。基本お妙はキッチンとホール。どちらのヘルプにも付くので、事実上ホールを動かすのは高杉、沖田、また子、神楽の4人と言えた。

お互い、自分の意中の人しか眼中にないため、この作戦は功を奏した。

客席は全部で15席。禁煙と喫煙席に分かれており、禁煙席の方が、このご時世と言う事もあり、多かった。
テーブル席が中央に6席。座敷は両側に5席と4席。一応仕切りがあり、煙対策も万全といった所だった。
まだ、満席とまではいかないが、早くもその席は埋まりつつある。
喫煙席にいるのは主に、大学生らしき男性グループとサラリーマンのグループ。双方とも既にジョッキ片手に小鉢の枝豆を口の中で味わっている。早くもテンションは上がっている様で、大学の課題、女の話し。片や上司の不満。仕事の愚痴を語っている。

禁煙席には、主にOL。それと常連の家族ずれがちらほら。家族ずれの方はメニューを片手にじっとしないわが子に手をやいている。そんな中でも生だけは先に頼んだ夫の方は満足そうに他の客同様、塩加減がたまらないと、枝豆をほうばっていた。
OL客といえば、注文を済ませた後、主に目当ての店員。すなわち沖田と高杉に早くも目を奪われていた。

「コレ、8番にお願いね。」
お妙の元気な声と共に料理が上がる。神楽、また子共に、手馴れた手つきでトレーで運ぶ。
二人は細かい所まで気が付く。家族ずれには、やはり男より女の笑顔が客には安心出来るらしい。その証拠に常連の客の子供などは、かぐちゃん、またちゃんと言う愛称で呼んでいた。そんな子供の声にも笑顔で二人は返す。そして、子供ならではのほんの些細な事にも気が付いていた。

ピーマンが嫌いといえば、小さく切って出来るだけ見えないようにする。人参嫌いといえば、暇な時に摩り下ろしていたモノを混ぜ込んでもらう。など。親からしても、その心使いは嬉しかった。忙しい時でもその笑顔は絶やす事なく、まだ小さい子供が水や料理を、ほんの少しの拍子に溢したとしても、同じ様に笑顔で、更には一番最初に子供を気遣ってくれる。そんな優しさ溢れる二人は人気だった。

細かい所まで気が付く二人は高杉と沖田にとっても十分な戦力になった。忙しくなれば、高杉、沖田と組むのが恥ずかしい。そんな事も言えれなくなる。そんな時はしっかりとした仕事ぶりを見せれるようにはなっていた。自分が思った事の先を汲み取る様にフォローをしてくれる。まさにかゆいところに手が届く。そんな存在だった。唯一、女性客の席に行くのを、若干二人はためらった。なぜなら露骨に嫌な顔をされるためだった。

あんた何かお呼びじゃないのよ。客の声が駄々漏れだったからだ。それ以外はスムーズに運ばれていた。
ピーク時になっても、キッチンからお妙、もしくは土方が出てこなくても十分四人で回すことができた。
9時にもなると、店内は疎(まば)らになって行く。神楽とまた子はやっと今日もピークが過ぎたぁ。と羽を休める。

店内に暖房を効かせているいる為、二人の額にはじっとりと汗が滲んだ。少しでも体に篭った汗を逃がそうと息を吐いた。が、気休め程度にもならず、手でひらひらと扇いだ。すると、頬にピタリと冷たい感触が触れた。ぅひゃっと小さな悲鳴をあげると、沖田と高杉が頬にキンキンに冷えたオレンジジュースを付けた所だった。


……To Be Continued…

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