act 7

視界は悪くない。大通り、人と、ネオンが光る。その中を走る、走る。一緒に居られるのを見られるのが、嫌。そんな言葉も今は何の意味もなかった。人と人のうねる波の中、其処をすり抜ける。その手はしっかりと繋がれたままに。蒼と寧々、隼人と雅、走る背中を追うように、その後を男が追いかける。

さっきより、人数が増えてない?!。後ろを振り返りながら雅は言った。走ることに集中しろとでも言う様に、隼人は雅の手をぐんと引いた。人数が増える何て事は、もうあの時点、携帯を触った時点で気付いていた。あんな状態に追いこまれた事など、喧嘩っぱやい蒼にとって、日常茶飯事だったからだ。
いつもなら、面倒なので、人数が増える前に、相手を行動不可能に陥らすが。が、結局の所、日を変え、人数をひきつれて来るので、結果は同じだと、いつも息を付いていた。

まぁ、その際、結果的に同じ様に、行動不可能な状態に陥る事になる。そうこうしてるしてる間に、あまり蒼に喧嘩をふっかける相手もいなくなった訳だったが、やっぱり馬鹿な相手はまだまだいるもんだ。隼人は思う。
蒼が喧嘩をふっかけ、もしくは喧嘩をふっかけられるおかげで、自分にとばっちりがまわってくる事が、あまりにも多過ぎる。何度蒼にあちらコチラで喧嘩をするのを止めろ。そう言ったか分からない。
しかし蒼は、ケロリと、いいじゃねェか。そう笑った。

その理由は、隼人も、喧嘩をしないだけで、その腕は又、蒼と同じ負け知らずの異名を持つにふさわしかったからだ。幼い頃から、母親が駄目だと言うにも関わらず、父親が何でもかんでも教え込んだ。その父親を見た周りの父親の友人達も自分達に教え込んだ。その度、母親は目を吊り上げた。まぁまぁと友人達が宥めた。

蒼、隼人、共に、父親と母親の血をうまい具合に受け継ぎ、体術、剣術。成長した頃には、立派な形として現れた。そんな中でも、蒼は主に、体術、言い方をかえると、様は素手の喧嘩。隼人は主に、剣術を得意とした。
素手での喧嘩は蒼には敵わない、剣での、様は握らせた喧嘩では隼人に敵わなかった。しかしどちらにせよ、その強さはずば抜けていたのは間違いなく、こんな風に逃げる事など、一度もなかったのだが、人生は分からないものだ。蒼と隼人は思う。

自分よりも遥かに遅い女の速度にあわせつつ、皆の前で手をしっかりとつなぎ、『悪人?』から逃げている。
だからこそ、人生は面白い…。そんな事を互いに考えつつ、二人は含み笑いを見せた。

すると、蒼の隣、寧々の息が上がってる事に、今更気付く。やばっ。蒼は横道にそれた。隼人はそれを横目にすり抜ける、が、雅がそれを許さなかった。ぐんと隼人の腕をひっぱり、寧々の元へ走った。
人に紛れた四人の姿は、『悪人』の視界から、とりあえず消える事に成功した。

心臓をきゅぅと握り締め、肩で大きく呼吸をするのは、寧々だ。その横では寧々程ではないが、雅が肩で息をしていた。家と家の間、ネオンの光も届かない、月明かりだけを頼りに、視界の悪い中、先ほど買ったハンバーガーの中にある、ドリンクを探す。キチンとふたがされているため、其処までハンバーガーにも痛手はなかった。そのドリンクに素早く蒼はストローをさし、寧々に渡した。寧々は少々、自分を落ち着かせ、そのジュースに口を付けた。ストローの中にオレンジ色が染まり、口へと吸い込まれていく、コクン、コクン。何度か喉をならし、ぷはっと息を吐いた。そして、改め、ふぅと息をついた。そのジュースをそのまま雅に差し出す。雅は寧々と同じようにコクンコクンと喉元を鳴らしている。

自分達も、乾いた喉に水分をあげれば良かったが、蒼、隼人、どちらも、寧々と雅の状態をとりあえず見守っていた。
「大丈夫か?」
蒼が言うと寧々はゆっくりと頷いた。
「悪かったな。考えてやれなくて。」
隼人が言う。寧々は優しく微笑んだ。その気持ちで十分です、そういいながら。寧々の笑みにつられる様に、月の下、双子は柔らかい笑みを見せた。
「ね、バック!大丈夫?!」
雅が声を張った。隼人はバックを持ち上げた。無傷。良かったぁ、雅は表情をゆるめる。
雅も安心そうな表情を見せた。そんな二人を見ながら、さて、どうするか…。そう双子は切り出した。
「とりあえず…コレ食おうぜ。」
蒼の言葉に、皆唖然とした。
「何言ってんの?馬鹿じゃない?」
雅のキツイ一言が飛んだ。
「バレやしねェて、今頃やみくもに探してるだけだろ?!俺は腹が減った。もう勘弁ならねェよ。」
そういいながら、その狭い間に腰を下ろした。そして袋の中にあるポテトを探り、口に入れた。そんな蒼を口をぽかんとあけ、雅は見る。ま、いいか。そう言うと、隼人も腰を下ろす。間にして一メートルの空間。寧々はどうしていいか分からず立っていたが、その小さなお腹からきゅぅと腹の虫が聞こえると、月明かりの中、とても恥ずかしそうに顔をくしゃりとさせた。一時、顔を唖然とさせていた三人だが、こらえきれず吹いた。

蒼は、たまらなそうに笑い転げる。寧々は恥ずかしさのあまり、みるみるうちに泣きっつらへと変化していった。その変化にいち早く気付いた、雅。同じように笑っていた自分だか、さも笑ってませんとの態度で、二人をつっついた。寧々の表情を見た蒼は焦った。隼人は思わず声を呑んだ。

涙はうるうると瞳に溜まる、溜まる。ポロっ。零れた。感情が溢れるくらい、そのくらい恥ずかしかったのだ。
目を瞑って、スンと泣く女の子から流れる涙は、月に侵食され、月色へと染まる。頬から落ちた涙には、涙の大きさの分、小さな月が出来た、何個もなんこも…。

蒼は慌てて立ち上がり、両手で寧々の頬の涙を拭った。俯こうとする寧々の顔を正面に向かせた。
「――ごめん。」
瞑っていた目を開ければ,其処に飛び込んできたのは、柔らかい顔をした男の顔。思わずココロが鳴った。
溜められた最後の涙を蒼は親指でそっと拭う。そして優しく手を引き、座らせた。つられる様に雅も座る。
蒼はポテトを差し出した。ゆっくりと雅は受け取った。冷めちまったけど…。申し訳なさそうに蒼は言う。ううん、ありがとう。雅は微か微笑んだ。

隼人は雅にハンバーガを渡す。少し型崩れはしていたが、ジュースの被害もない。
寧々にも手渡した。しかし、女の子はハンバーガーを目の前に固まった。今更、しまった。そう考えていたのだ。そんな二人を、既に自分達は口を大きくあけ、ほうばりながら、不思議そうに見る。
女の子だけの視線の会話を繰り広げた。どうする?口を大きくあけなきゃ…。そんなのハズカシすぎます!。だよね…。でもお腹減ったもん…。そうですねよね…どうしよう。
二人は互いを見つつ、はぁとため息を出した。
食わねェの!?蒼と隼人が声を揃えた。雅と寧々は、まだ考えてる途中の様で…。
「あ、あの、向こうで食べてきます。」
寧々の言葉に雅もコクンと頷いた。は!?蒼と隼人は思わず声をたてた。既にその手は逃がさねェとでも言う様にしっかりと腕を掴んでいる。
「だ、だって、恥ずかしいでしょ!?」
耐え切れず雅は声にだした。その後、しまったとでも言う様に、頬を赤く染めた。

最初唖然と女の子を見ていたが、その女の頬が、この月明かりの下、とても可愛らしく染まっているのを見てしまい、思わず喉をならした双子だった。


……To Be Continued…

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