act 8

「別に、俺ら気にしねェけど…。」
隼人の声は、雅と寧々の背にかけられた。
蒼は、口いっぱいにハンバーガーを入れ、無言でその小さな背中を見つめる。蒼と隼人に背を向け、無言でハンバーガーを食べる。
蒼や隼人に、又、感じた事のない感情が沸く。彼女が居なかった訳じゃない。一時期は適当に付き合っていた女も居た。
しかし束縛が酷く、どの女も長続きしなかった。そんな女も、確かに目の前の二人の様に恥じらいを見せていた。ハンバーガーは食べたくない。スパゲティも食べたくない。そんな時、自分達はどんな感情を持っていたか…。
面倒くせェ女。それだけだった。

しかし、この目の前の女はどうだろう。可愛くて仕方ない。
その恥らいを見せる背の向こう側に回りこみ、その顔を見てみたい。その小さな恥じらいを見せる背中にイタズラに触れてみたい。
次から次へと溢れてくる感情に、男は突き動かされた。

隼人は雅の背を、人差し指でツーとなぞった。瞬く間に雅の背は反る。
滑らかで柔らかい体の線、途中おうとつをみせたソレは、小さな小ぶりの胸を支えているあれだろうと意味もなく興奮する。
雅は振り向きたそうにしたが、口の中にまだモグモグと入っていたので、そっちを必死になってまずは食べていた。蒼と隼人が自分達をむかそうとしているのが分かったのか、意地でも向いてやるもんかと、二人は頑張った。

これは…。そう隼人と蒼は、視線を合わせた。寧々は頬を膨らませて食べる事に集中している。
その首筋、髪の毛をふわりともちあげ、パラパラと落とす。葡萄色の柔らかい髪はふわり、ふわり、月の色に照らされた。
髪を持ち上げた一瞬の合間、寧々のうなじが恥ずかしそうによじれた。たったコレだけの事で掻き乱される。蒼はまた喉をならした。
抱き締めたい衝動にどうしようもなく駆られた。初めての感覚、感情。
突き動かされる様に蒼と隼人の腕は女へと伸びる。が、しかし、寸での所で、雅と寧々、両方がコチラ側を向いた。
その頬は大きく膨らんでいる。雅はともかく、寧々がするのは初めてではないだろうか。蒼はこんな状況でも、可愛い。などと考えていた。
「エッチ。変態。最低!…ほら、寧々もなんか言ってやんなよ!」

雅は二人の前に仁王立ちになり、腕を組み、頬を膨らませ、睨んだ。寧々は、雅に言われ、何か言いたそうにした。が、まだまだ頬を膨らますのが精一杯の彼女なりの表現だったらしく、言葉をはっする事は出来なかった。

そんな彼女達がどうしようもなく可愛く見えてしまい、ますます雅と寧々の頬が膨れるのを分かった上で、二人は笑ってしまった。
あのねェ!。雅が再び口を開いた所で近く、薄暗い中、男の声が聞こえた。
瞬間、全員でそちらを見る。蒼は舌をあからさまに鳴らした後、寧々の手を引いた。同時に雅の手を引いた隼人。後ろからは、見つけたぞ!そんな声が聞こえると共に、男が集まってくるのを背に感じた。

しつけェなァ!ったく。蒼はあからさまに言う。その直後、女の声が響く。

「カバン!!」
言った時には、蒼の手から寧々はすり抜けて居た。踵を返し、元のあの場所へ走る。はっ?!一瞬手をみる。
確かに隼人の手にも、蒼の手にも、カバンの入った紙袋はない。
それよりも、あの、気が弱く、すぐに泣いてしまう寧々が単身でカバンを取りに行くという行動にあまりにも驚き、行動が遅れた。
そしてその寧々の後を追いかけ、同じように雅が走る背中が視界に入る。隼人も、蒼と同じ様に行動が遅れていた。

喧嘩をさけろと言ったのは女の方。だからこそ、こうやって逃げていたのだ。それを自分からみすみす行く行動が信じられないのは当然だった。
先頭に寧々が、その後を雅、その後に遅れながら蒼と隼人。しかし当然、カバンを取る前に寧々は男に阻まれる。寧々はひゅっと息を吸い込む。通り抜けられないのを分かって、それでも男の間をすり抜けようとした。

鞄など、追ってくる男が興味を示す物でもない。後で取りに行っても別にかまやしなかった。それで十分だった。しかし、女の子はやはり違う。蒼と隼人が、大切にしている妹にあげるものだから。だからこそ戻った。自分がどうとか、追ってくる男の事など考えもせずに…。
危なっかしく、とても優しい気持ちを抱えながら。

「は、離してください!」
寧々が声を張った。その声は震えている。男は寧々の手首を掴み離さない。痛い…。寧々は顔を歪ませた。しかし諦めないとでもゆうように男の腕の中、もがく。
その男の手、一瞬にして、捻られた。寧々の手が離される。正面に男、離された自分の手、そして後ろ、微か、香る。ゆっくり振り向いた。

「コイツに触れやがった事、死ぬほど後悔させてやるよ…。」

茜色が月色に反発するように、深く、深く、光っていた…。


……To Be Continued…

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