act 6

活気ある店内。カウンター越しに見せる、ドリンクはMで宜しいですか?と聞いてくる店員のスマイルは、価格0円にも関わらず客を満足させる笑顔であり、、思わずこちらまで笑顔になる程だった。

その店員の隣ではイヤホンマイクで、ご注文の確認をさせて頂きます。と復唱しつつ、その手元は既にポテトへと伸びていた。流れる様にドリンクへと工程は勧められ、相手に聞こえるのは声だけだというのに、マイク越しに表情まで届くかも知れないと思う程、その笑顔が可愛らしかった。

その奥の方では、次から次にと入ってくる注文にわたわたとしつつも、確実にそして綺麗に注文された品物をあげていた。

少々混んでいますので、ドリンクを先に如何でしょうか?との店員の柔らかい笑顔に、隼人は頷く。コーラのLサイズを手におさめ、そのストローに口を付けた。瞬く間に口の中で炭酸が踊った。ぱちぱちと口内を刺激する。一旦ストローから口を話し、蒼に居るかと差し、蒼はそれを受け取った。

店員が言った通り、店内は賑やかである。
カウンターには注文待ちの客が数組。席は全て埋まっており、ipotを聞きながら、雑誌に目を通し、自分の世界に入っている女性客。

自分達と同じ高校の制服もちらほらと見える。制服デートの真っ最中である男女の姿も3組ほど見られ、どの席も甘ったるい雰囲気に手の出しようが無い程だった。向かい合わせ見つめあい、ポテト一つ食べるその仕草にも恥じらいが見える。

男同士、大きな声で話し、時折笑う客。豪快に口を開け、4,5本のポテトを口に入れ、そして噛みながらも会話を続ける。ひとしきり話した後、息を付くようにジュースで喉を潤わせて、ふぅと一息を付いた。それを見た隼人と蒼は思わず同じく微笑んだ。

今まで、女と居るよりも、実の所、仲間友達とあぁやって一緒に居る方が楽しかったりした。何気ない話しに、何気ない会話。面倒くせェ。そう言いながらも笑う時間。何気に大切だと感じた。

座って悠々と談笑をする人を見ながら、散々歩きまわった挙句、まだ立ったまま待たなくてはならない自分達の状況に思わず息を付いたのは、二人どちらもだった…。
....

「嫌!あたし、あそこで待ってる。」
又出た。嫌々攻撃。隼人は目を細めた。中に居るのは、自分達の同級生も後輩の姿も見える。

散々連れまわした挙句、信号待ちでたまたま止まった視界の中に入ったハンバーガーショップを雅は見つけると、ハンバーガが食べたいと言い出した。
だったら、今まで何箇所もあっただろうがよ。

思わず隼人は毒付いた。しかしあえてそれを言葉に表す事はせずにハイハイと入り口に入ろうとした所、なんと後ろをふりむくと二人の姿が見当たらない。頭にクエッションマークを付けながら辺りを見渡すと、駐車場、光の当たらない場所で二人は居た。何してんの?との声に、見られると嫌だから此処で待ってると言い出した。

これにはさすがに蒼もふくめ、イラっと来たのは言うまでもない。
自慢こそされはしても、此処まで自分達の存在を否定される様な事は初めてだった。雅の言っている意味は分かっている。

それでもこんな扱いをされた事がない自分達には、やはり腹の立つ事だった。しかし雅は引き下がらない。真っ直ぐ隼人の顔を見ながら、二、三件先にある公園で待ってると寧々の手を引いた。
しかしその手を隼人が引く。

「俺か蒼が付いていくから。」
このクソ女…。そうは思うがやはり自分はこの女に弱いと言う事を嫌でも痛感させられてしまう。公園など、電灯ほどしか付いていない。

しかも辺りは真っ暗。冗談じゃねェ。心配する気持ちが先立った。しかし、雅は大丈夫と言う。
「あの、大丈夫ですから。ここからでも近いですし…。」
心配してくれてありがとうございます。寧々もそう微笑んだ。蒼は息を吐き、隼人を見る。
分かった。そう隼人が諦めた様に言った。二人は手を繋ぎ背中を見せる。今まで回りに居るタイプの女は自分が右と言えば右。自分が左と言えば、喜んで左を選んだ。しかしこの二人、雅は自分が右と思えば右とハッキリと主張した。寧々は言葉には中々出せないが、芯が通っており、その中にはちゃんと自分の考えを持つ子だと近頃はっきりと分かってきた。

今までの女の様に簡単じゃない。だからこそ惹かれてしまう。勿論惹かれている理由はそれだけではない、ただ挙げるとキリがない程小さいものから大きなものまでだったので、二人は考えるのをやめたのだった。



....


「手って、温かい…ものなんだね。」
公園のベンチ。雅は思わず出てきた言葉に、はっとし、今のはナシ!と慌てふためいた。

笑われるかと思っていた寧々の反応は以外であった。寧々も又、自信の手を見て、ゆっくりと頷き、そうですね。そう微笑んだ。何となく雅の口元から零れた笑みは、寧々の笑みと混ざりふふっと音を重ねた。
二人はなんだか少々恥ずかしく、唇を噛んだり、視線をそらしたり、頬に手をあてたり。その仕草はとても可愛らしかった。
「な、何か、暑いね。」

「そ、そうですね、あたしもちょっと思ってました。」
言葉を口にした後、恥ずかしさはピークを超え、雅は手をひらひらと顔を仰いだ。
二人がたわいもなく、意味のなさそうでありそうな会話をしていると、暗闇の中、足音が聞こえた。なんだか照れてしまうこの状況から逃げれると雅は立ち上がる。火照った顔を覚ますように振った後、目をこらして見ると、待っていた相手では無い事に気付く。

雅は寧々の前に立った。
『誰。』
相手の男は三人。いかにもな、遊び人のタイプ顔。その三人を挟み、後ろと前で声が重なった。

思わず雅は顔をしかめ、その男の後ろに目を凝らした。あっ。思わず声が出た。

「何?俺の連れに何か用でもあんの?」
男の真後ろ。肩に手をかけている男の姿。表情はうまく見えないが、確実に隼人と蒼だと分かった。寧々も思わずベンチから立ち上がる。何が恐いのか分からないが寧々は雅の腕をぎゅっと握った。そんな寧々を見た雅は寧々の方を見ると、ゆっくり微笑みながら、大丈夫だよ。そう、そっと手を離した、そしてスタスタとその男の元へと行った。
「何か用でもある!?」

隼人と蒼を見ていた男達は雅に目を向けた。その隼人と蒼までもが雅を見た。
「み、雅ちゃ―――。」
儚い寧々の声が聞こえた様な気がした。雅はまったく臆する事なく、男にむかって口を開いた。

「あたしの大事な友達が恐がってるじゃない!あっち行って!」

その場の男全員が度肝を抜かれた。顔は可愛らしいのに、何て強い言葉だと。右手人差し指を公園入り口に伸ばす。しかし、男もここで引き下がる訳にはいかない。雅の方を向き、口を開こうとする、しかし肩に置かれた手が自分の体に食い込んだ、凄い力だ。思わず三人は後ろを見る、暗闇、茜色、瑠璃色が深く、暗く光る様を見る。
その瞳を見たのは何も男だけではない。雅、そして雅に置いてきぼりにされた寧々も見ている。雅は言葉より先に手が出た。男達を突き飛ばしたのだ。よろけた男は尻餅をつく。唖然と雅を見る。雅はそんな事を気にも留めず、蒼と隼人の前にたった。

「二人にも言ってるの!寧々が恐がるような事しないでよ。」
お願い…。そう雅は二人の右腕と左腕を掴んだ。蒼と隼人は寧々を見る。電灯に照らされた瞳は酷く怯えていた。

二人は顔を見合わせた。ふぅ。息を付き、雅の頭をくしゃくしゃと撫でた。へいへい。そう笑った。
雅は安心したように微笑んだ。その顔のまま雅は寧々を振り返る。
寧々の場所からだと、少々雅や隼人、蒼の表情は暗く、分かりづらい。それでも雅の口元が微笑んでいるのは分かり、寧々もほっとした様に微笑んだ。

尻餅をついている男達を他所に、三人は寧々に近づく。男達は呆然としている。雅は寧々の腕をぎゅっと抱き締めた。寧々も笑った。蒼も、隼人も笑みを見せた。これで万々歳だ…。と言う訳には行かなかった。

雅に突き飛ばされた男たちはたち上がる。頭から真っ赤な湯気が出ている、これは相当頭にきていると見て取れた。男の一人が雅の方へとつかつかと近づく、他の男は携帯を取り出した。その手は高速で動く。

だろうな。隼人はため息を付いた。何がどうして、これで終われるかと。蒼と視線を合わす。とりあえず雅を下げた。蒼は舌を鳴らす。ねェ。喧嘩なの?喧嘩になるの?!雅が思わず聞いた。

さて、どうするか。蒼は考えた。どちらかが残って相手を、どちらかが残って連れて逃げる。これしかないだろうと思う。一瞬の隼人と蒼の視線のやり取り、双子ゆえの感情の行き来。隼人は雅と寧々の腕を掴んだ。

「け、喧嘩はだめです!」
寧々の声が静かな公園の中響いた。蒼ははぁ…とため息を付いた。何か考えている様だ。頭をくしゃくしゃと掻いた。ったく…。そう言った後、蒼は寧々の腕を掴み地面を蹴った。同じく隣では隼人が寧々の手を掴み足を駆けた。それを男達が許すはずも無い。

この女…まじでやべェ。隼人と蒼は同時に思った。
勝てない相手でも、人数でもない。喧嘩負け知らず。そう異名を持つ二人が人生初、背中を向けた。

手に込められた温もりが再び、自分達を侵食する。がちゃがちゃと音を鳴った。
崩れているであろうハンバーガーセットを手に、夜の鬼ごっこが今、スタートを切ったのであった…。


……To Be Continued…

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