act 5

空は当に暗闇に包まれているのに、ネオンの明かりで街はあかるい。絶対にバレないと繋がれたポケットの中にある、その手をほどこうとすれば、瞬く間に強く握られた。恨めしく睨んでみると、イタズラに口元をあげられ視線をそらされる。唇を噛んで、この何かを知らせる唄に耳を傾けようとしてみるが、やはり恥ずかしく、この音は偽者だと言い聞かせてみる。手から伝わる鼓動が早く、高くなっているが、それは決して、自分の分だけではないと思えた。

街の人ごみの中、自分と同じ学校の制服がちらほらと見えた。自分が見えてみるのだから、当然相手にも見えてるはずだ。そう考えると急に恥ずかしく、かと言って、もう何を言っても手を離してくれそうもないと確信しているので俯いてみた。

朝であっても、昼であっても、今見たく夕暮れから夜へと呼び名が変わろうとする時間であっても、この街が騒がしいのは変わらない。特に意識しなくても、人と言うものは案外自分以外興味はない、。そう何度も自分に言い聞かせてみる。しかし隣の男は違った。嫌でも視線を集めているのが分かった。この騒がしい中でも、女の甲高い声と言うのは、まるで周波数の様に耳へと流れてくる。

隼人のお手つきの女だ。すぐに雅には分かった。隣の女は誰?。聞きたくなくても耳に入る。繋がれている手を見られないだけでもまだよしと言えた。だが、しかし嫌なものは嫌なのだ。手を抜こうと試みる。

しかしどうだ、こちらが力を加えるとそれ以上の力で押さえ込まれてしまった。
ポケットの中の手が汗ばんだ。それを気にも止めないようにさらにきつく握られた。隼人の表情は、あいも変わらず飄々としている。雅は我慢できずに口を開いた。

「はなッっ、離してよ!やっぱり見られてる!」
「俺は全然気にしねェ。」

飄々と笑う隼人。さっきは大丈夫だと言ったじゃない…。雅は一時、唖然としてしまう。
「そ、そりゃ、隼人は気にしないかも知れないけどっ!あたしは嫌!」
「悪いけど俺も嫌。」
「だったら―――。」
「手を離したくねェつーこった。諦めんだな。」

この男は―――。思わず雅は言葉を失った。だから、近づきたくなかったんだ…。この男は、危険…。

大体何でこんな事をしているのか、自分に声をかけてくるのか、理解できなかった。女の子なら、それこそ手に余るほどいるじゃないかと。
この間にも、彼女達の視線は自分に絡みつく。この女の子の中から一人抜擢すればいいだけの事なのに。そうは思っては見るが、あの日以来、隼人だけではなく、蒼も女と絡んでいるのを見なくなった。

前までは、本当によくみかけた。いつもあの二人の周りには男友達か、女の子が集まっていた。腕を組むなんて日常茶飯事。体育館の倉庫でね、なんて噂話しを聞くたび、何で彼女でもない女の子と、そういう軽はずみな行動を取れるのかとぞわぞわとしたものだった。

進級し、席が近くなったあの日。話しかけてきた隼人の台詞にやはり嫌悪感を覚えた。カチンと来たのは言うまでもなかったが、何とか微笑みながら、嫌味をふくめつつ言葉を返せた時には思わずココロの中でガッツポーズを決めた。しかしそれを隼人は気に入ってしまったらしい。

ちょっかいをだす隼人を、初め、冷めた感情で見てみたが、ふと、何か変わって来た隼人を感じた。
周りにたかる女の子を一人も見なくなった。それと引き換えの様に自分と親友の寧々にちょっかいをかけてきたのが分かる。何だ、遊ばれてんの?そんな感情も芽生えた。しかしどうやら違うのかと思う節があまりにも多くですぎてきた。

やっと出来た親友に危害を加えたらと噛み付いていたが、どうやらそんな事はないらしい。
それにしても、この目の前の男。一体何を考えて―――。
「百面相なんざして何考えてんだよ。決まったのか食いてェモン。」
眼鏡ごしに覗かれた瞳が、あまりにも綺麗で、それでいて近過ぎる顔に思わず雅はひゃっと声を漏らしたのだった…。




「あ、あの…。人が沢山見て、ます。手を離してくれませんか…。」
握られていた手、いつの間にか、重なるように、絡められるように、繋がれていた。
街を歩く女の子が、蒼を見るなり振り向く。その視線に耐え切れなくなった寧々は、ひたすら下を向き、コンクリートとにらめっこをしながら歩く。すると、蒼が手を離した。

一瞬、ほんの一瞬、手の中の温もりが冷え、寂しさに駆られた。と思ったのも束の間。次の瞬間には自分の肩に手を回され、ぐいっと蒼の方へと引き寄せられていた。寧々は両目をくわっと開いたまま固まった。

「っあっぶな。前みねェと危ないですぜ。」

どうやら、下にばかりキモチが行ってしまい、前を歩いてる人に当たりそうだった所、隣の蒼が気付き、引き寄せたと言う訳だった。抱き締められている肩が、何となく熱を持って居る事にもビクリとさせたが、手が離れた瞬間に沸いた一瞬の感情にも驚いていたのだった。
固まっている寧々を蒼は覗き込むと、寧々は意識を戻した。
「す、すいませんでした!」

寧々は、見てしまう。
その自分を見る瞳が、あまりに柔らかい瞳である事を…。
小さな喉をコクンとならした。蒼は何も言わず、ただただ笑った。

『噂』でしか知らなかった彼を、あの出会いから少しずつ知ってきた自分。その噂の彼と、自分の今、目の前に居る彼が、同一人物なのかと、思わず疑ってしまう。それほどまでに、目の前の蒼はやわらかい。
勿論、噂での蒼も確かに存在していた。それは確信できる、何故なら、何度も見た事があったからだ。第三者の目で、特に何も考えず。ただ、やはり、格好いいな…。そんな事を考えつつ。

それがあの、一見以来、よく自分にちょっかいをかけてくる様になった。寧々はイマイチ自分のこの状況が信じれなかったのを、ココロの隅にまだ覚えている。しかもそれは、現在進行中であり、その間に、どんどんと蒼は、やわらかくなる。寧々だって、女の子だ。感情を表にだすのが苦手なだけであって、そのココロの中にはいつだって様々な感情が行き来している。

嬉しくないわけがなかった。ドキドキしない訳がなかった。ただそれと同時に、いつも、何故そんなに自分にちょっかいを出してくるのかと思っていた。人だからこそ、女だからこそ、正直期待した。しかし、そんな自分を浅ましく思う自分も確かに存在したのだった。あるわけない。ただ、周りに自分の様なタイプが居なかっただけ。

実際そうだった。蒼の周り、隼人の周り、明るく、美人、積極的。クラスの中心に居るような人物。そう雅の様なタイプだった。だから、雅が、蒼にも隼人にも全く靡かず、むしろ毛嫌いしているのを見て、何か清々しさを感じるものがあった。ああいう風に、自分の気持ちを言えたらな。何度も思った。

自分は言えないから。そんな雅が友達になってくれた。あえて友達と言う言葉を使うことなく、いつの間にかノ『友達』。あれだけハッキリと物を言える雅が、ちゃんと、自分の意見を聞いてくれる。時には言葉を出すまでに時間がかかる時もある。それでも、嫌な顔をせずちゃんと自分の意見を聞き、尊重してくれる。そして、目の前のこの男も、そうだった…。


もう一度、ゆっくり差し出された手、自分の躊躇っている感情を、ゆっくりとその手は待ってくれている。
誰にも見せない様な、やわらかい顔で、待ってくれている。出そうとしている手を止める。握り締めた。それをまたゆっくりと開き、そっとその手を絡めなおした…。


……To Be Continued…

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