act 12

もう、知らない。知らないアルヨ!

ぷりぷりと内心では怒っていた神楽だが、表情にはそれを見事出さなかった。
自分の中のこのイライラとしている気持ちをかき消そうと仕事に没頭する。時間にして只今10時。

酔いが回った大人と言うモノは、どうしてこうテンションが高いのだろうか。そんな事を考えていると、先ほど目があった男の視線が、再び神楽の視界に入った。
神楽は、カウンターの中で目を瞑り、どうしたものかと考えた。無視するか。いや、でも仕事の事で呼んでいるのかもしれない。

神楽は視線を合わす。男はほおずえを付いたまま神楽を見ていた。髪は黒く、短髪。黒眼が大きく、猫の様なトラの様な。獲物を見るような視線。土方の様な切れ長の一重。何かを考えてるような口元。
こいつ遊び人アル。神楽が思った時、男は百合の肩をトントンと叩いた。二人して何かを話している。男が神楽を指差して何かを言っている。百合は神楽を見る。柔らかく手を招いた。

本当なら行きたくはなかったが、そうも行かない。神楽はカウンターを出て百合の元へと足を向けた。

「神楽ちゃんて、言うのよ。神楽ちゃん、こちら浅野様。」
百合の紹介と共に浅野と言う男は、頭を軽く下げた。それにつられる様に神楽は頭を下げる。
「浅野様がね、どうしても神楽ちゃんと話してみたいっておっしゃって。少しなら、いいでしょ?」
柔らかく百合は微笑んだ。神楽は困った様に立ち尽くした。

いいわけないダロ。そうココロの中で思いつつ。
「あたしは接客を言われてるだけで、席につくのは禁止されてる身ですから。」
わざと、言葉を変えた。にっこりと、当たり障りのないように…。

百合は、残念そうに、そう…。と言った。しかしこの浅野と言う男は諦めなかった。神楽の手を引く。
体制を崩した。そのまま其処にあった椅子にと神楽は手を付く。

カチンと来たのは言うまでもない。
「痛いアル。手を離すヨロシ。」
その男を静かに睨んだ。男はおくびれもせず、笑った。
「俺、気が強い女って、大好きなんでね。」

神楽は男の手を勢いよく振り払った。いけすかない野郎アル…。神楽は思ったが、隣の席に座っている百合が困っていたので、顔の表情をやわらげ男に言った。
「座る事は出来ないアル。」
その後、百合にすいませんと誤り、男に背を向け、カウンターの中に入る。
何か用事がない限り、絶対この中から出ないアル。そんな事を思っていると今度は義正が声をかけていた。

かけるといっても、隣には近藤も居た上、先ほどの男より、ずっと義正の方が好感が持てる。
神楽は安心して顔をやわらげた。

「どうして大人は酒を飲むアルか?何が楽しいのか分からないアル。」
神楽の質問に近藤はふむ。と考える姿勢を見せた。

「その場限りでも何でも、気持ちが軽くなったり、まぁ言えばストレスの発散みたいなもんだな。」
「何でお酒を飲むとストレスの発散になるネ。銀ちゃん何かよく、トイレとお友達になってるネ。」
「皆が皆そうなるわけじゃないぞ。ちゃんと適度に飲めば、楽しいもんになる。それが酒ってもんだ。」

「そ。そして隣にいい女が居れば更に酒の上手さも増すってもんでな。」
はっ!?
近藤、義正、神楽、共に声を揃えた。義正の隣。先ほど神楽が、いけすかない奴。そう思った男が居た。

当然の様に水割りグラスを持ち、其処に座った。
そして神楽ににっこりと笑みを見せた。

カウンターの中には神楽一人、カウンターの席には向って、右から近藤、真ん中に義正、左に浅野。
頭が痛くなってきたアル…。やっぱ帰れば良かったネ…。
神楽は切実に、そう切実に思ったのだった…。



……To Be Continued…

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