act 11

一時間も経つと、それぞれの客にも酔いが回り始めたのが、分かってきた。
ほんのりと赤く染まる顔は、決して頭上の照明からではなく、自身の体の芯が火照り体温が上昇してきたためでだと神楽は思う。もう何日か、この様な表情のいい大人を見てきたが、何がそんなに美味しく、何がそんなに楽しいのだと、是非一度聞きたいものだと考えた。テンションは高く、外と、この一枚隔てたドアの向こうとコチラ側、まるで別世界だと思う。

お登勢を含め、百合、椿にしても、さすがだと神楽は感心した。
巧みに言葉の技を組み合わせ、会話を切らさず、相手に主導権を与えていると見せかけ、しかし実はこちら側が主導権を握っている。その事さえ気付かせていない。靡(なび)かない沖田達の方が稀だと思えた。

そして、その事に気付く神楽も立派なホステスの素質を実は持ち合わせて居る事に本人は気付いていなかった。

神楽はあちらこちら、立ち回りながら、時折カウンターの中で店内の様子を伺っていた。

三人組の客。初め椿が座っていたが、どうやら百合と交代しているらしかった。
その隣のボックス席には、お登勢の客が飲んでいる。カウンターの席には相変わらず近藤と、ほろ酔いの義正。

夜の店と言うのも中々大変アル…。そんな暢気な事を考えながら、再び店内に視線を巡らす。
すると一番端の席、三人組の中の一人の視線を感じられた。
実の所、たった今その視線は巡らされたのではなく、もうずいぶん前から、その視線は神楽に注がれていたのだが、この異様な世界感の所為もあり、神楽は気づくのが遅れたのだった。

ふと、その視線の方を手繰る。何故、目の前には美女である百合が居るにも関わらず自分を凝視しているのだろうと神楽は首を傾げた。

その男は、真っ直ぐに神楽を見る。思わず神楽も凝視した。その時、反対側の端、同じ様に自分を見つめる視線に気付く。神楽はハッとした様にその視線の元に視線をめぐらせた。
沖田、銀時、土方。三人ともが自分を見ていた。今のを見ていたのか?そう神楽はバツが悪そうに顔を伏せようとした。

その時、銀時が、ちょいちょいと神楽に手招きをしたのを視界の端で見てしまう。
視界の中に、改めて銀時を捉えた。と同時に沖田の表情もとらえてしまった。

うん。コレは相当機嫌が悪いアル。他人事の様に神楽は思いながら、一度ため息をつき、そのボックス席へと足をむけたのだった。



「お前さ、もう店上がれ。俺がババァに言ってやっから。」
エッ?思わず神楽は言う。銀時は相当面倒くさそうな面持ちで言葉を続ける。
「だってそうだろうが、何の為にお前やってんの?コレ以上、このサド星の王子の逆鱗に触れる前に帰りやがれ。」
「もう、遅せェけどな。」

隣で土方が、言った。銀時はそのまま土方に肘を落とす。余計な事をしゃべんじゃねェ!そう言った。
土方は悶絶する。そのまま銀時に殴りかかる。ナンだコラ?!やんのかオメー?。あぁ?!上等じゃねェか表出ろ!そう二人はお互いの首元をねじ上げながら、何とも笑える格好で外に出た。外からまもなく、叫び声と共に甲高い効果音と破壊音が漏れた。

そう、確実に酔っていたのだ。かといって、神楽に言った言葉は決して適当ではないのは、神楽も分かっていた。

神楽は、その音に耳を傾けつつ、沖田の前に座った。
「か、帰って欲しいアルか?」

沖田は無言だった。
「でも、でもお前さっき彼女は居ないって…。そりゃ、あたしだって悪かったアル。でも―――。」
「ハッ。勝手にすればいいじゃねェか。俺は気にしねェよ。彼氏でも何でもねェしな。」
神楽に視線を合わすことなく吐き出された。神楽は沖田を睨んだ。歯をギリギリと食いしばる。

「そ、そんな言い方っッ…。わ、分かったアル!」
神楽はそう立ち上がった。其処に土方と銀時がボロボロになって帰ってきた。どうやら一汗掻き、酔いが冷めた様だった。店内は客がカラオケを始めており、会話がどれもこれも聞き取りにくい。

ゆえに、先ほどの神楽と沖田の会話も音にかき消されていた。
しかし、お互いの耳には確かに届いていた。
自分も悪いが十分沖田も悪い。しかも素直に帰って欲しい。そう言ってくれたら、素直にそれに従うはずだったのだ。

なのに…。なのに…。
ムカつく。心の其処からムカつくアル。
あぁ、いいアルヨ!?お前がそう言う態度なら私も、もう知らないアル!


....


「なに?何で神楽あんなに怒ってんの?てかこっち、凄く睨んでんですけど…。」
「総悟。テメー何かいったんじゃ…。ってオメーコレまだ結構量があった…もしかして一人で飲み干し―――。」

酔っても、分かりずらい奴は居る。その分類に、この沖田総悟も入っていた。
酒が強い事で有名だったこの男だが、イラただしさから、かっぽかっぽと手酌で酒を注ぎ続け…。結果。
彼も酔っ払っていたのだった…。



……To Be Continued…

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