act 1

※ この小説は、『年月』の幼かった隼人、蒼の物語です。
詳しくは、こちらにどうぞ→ぽちっ


『今年の春は、きっと間違えて神様が、季節と奇跡を一緒に、空から落っことしちゃったんだって思うの…。』

そう彼女達は――――隣で微笑んだ。


........

桜、舞う、春。
教室から見える大きな桜の木からは、新入生の入学を祝福するように一階の教室へと、その花びらを揺らした。

ほんのちょっと、その幸せを分けてあげる…。花びらは唄う様に、舞う。
その木から離れた桃色の花びらは、ふわり、ふわり、舞い上がり三階へと舞う。
その下からの風に煽られ、舞い上がった花びらは、左からの風により教室へと舞い込む。
ふわり、ふわり、二枚の花びらは舞い、探していた色を見つけたように、その場に落ちていった…。

 『花びら、くっついてンぜ…。』

ベランダ側、一番後ろの席と、後ろから二番目の席。
葡萄(ぶどう)色と珊瑚(さんご)色にくっ付いた花びらを取ろうと、隣の席の、同じ声色が重なった。

珊瑚色の女は気づく。自分の頭を体をぽふぽふと触るが、どこにあるのか分からない。
男は笑い、その手を伸ばす。ふわり、ふわりと風に舞うその髪から、一枚の花びらを取って、珊瑚色の女に見せた。

「ありがとう、沖田隼人。」
可愛らしく、彼女は笑った。男は、フルネームで呼ばれた事に思わず吹きそうになった。
この女…面白れェ。そうまじまじと彼女を見ながら、口を開いた。
「アンタ、名前は?」
彼女はきょとんとする。すぐに、もう一度笑顔を作った。
「みやび。三年間も同じ学校に居て、初めて一緒のクラスなったね。あたし、あなたの事よく知ってるよ。」
微笑む彼女の顔は、相変わらず可愛らしい。

隼人が、その瞳をそのままにしていると、もう一度、雅は口を開いた。
「いっぱい彼女居るもんね。よくあんなに大勢の女の子の名前を間違えずに居られるなァとか、よくあんなに大勢の
女の子のココロを捕まえられるなァとか、感心してたの。」
隼人は、冷めた瑠璃色で雅をみながら、その言葉を鼻で笑った。

「アンタも、その一人になりましたってやつ?」
又、雅はその大きなクリクリの瞳を、きょとんとさせた後、口を開いた。

「ううん、全然。あたし、外見だけの空っぽな人、興味湧かないの。」
意図も簡単に言い切り、花びら、ありがとうと笑顔を落とし、席を立った雅の言葉に、その笑顔に、思わず隼人は唖然とした。
説明しとくと、この沖田隼人。ちょっとや、そっとの事では、まず動じない。
いつも親譲りのポーカーファイスを纏(まとい)、何をたくらんでいる?。そういわれる事がたびたびある程だ。

成績優秀、だから教師も文句を言えない。綺麗な面構えに、双子の弟と区別しやすい様とダテ眼鏡をいつもかけている。
一見、秀才君にも見えるが、その実は、自他共に認めるドS気質。コレは父親譲りだと思って構わない。
自分の興味が向いた時にだけ、女を呼び出す。気分が乗らなければ、近寄っただけで、瑠璃色が翳(かげ)った。

その沖田隼人。
この、ズバズバと言葉を吐き出す、目の前の女に、後、翻弄されるとは、まだ、今は知らない。
この、笑顔を振りまく目の前の女に、どうしようもなく惚れる自分が存在する事など、まだ、今は知らない…。

......

茜色の瞳を覗かせる男は、今、先ほどの台詞を三度口にした所で、眉間に皺を寄せ、葡萄の様な綺麗なストレートの髪に手を伸ばし、その花びらを取った。そして、それを彼女が読んでいる
【空の向こう側―――。】
と言う本のページに栞(しおり)の様にのせた。男の言葉をことごとく無視している女の、ページを捲る手が止まった。その白く細い手は花びらを取る。しかし言葉を発しない彼女に痺れを切らし、男は話しかけた。
「アンタ、名前は何って言うんでィ。」

彼女は言葉を発しない。指先に花びらを掴んだまま動かない。男は目を細める。
「俺の事、知ってますかィ。」
すると、ゆっくり彼女は頷いた。隣の席から見えるその、葡萄色が、うつむくことで顔の表情を隠していたが…。
男はその表情を隠す様に流れている横髪を、手ですくう。そして耳にかけた。

見えてきたのは、真っ赤にそまった彼女の顔。彼女は、自分の顔を晒された事に更に頬をそめ、一瞬潤んだ瞳で男を見る。
そして耳から髪を流し、また横顔を隠してしまった。その花びらを指先に、また集中したいと本に目を落とす。
男はココロを一瞬、揺さぶられた。あの顔に…。泣きそうで、恥ずかしそうなあの顔に…。

固まった聴覚に、儚く、儚く、消えそうな声が刺激を与えてきた。

「ねね…。寧々と…言います。沖田、蒼…くん。」
相変わらず、その表情は見えないが、その震える声が、彼女の緊張をアリアリと伝えた。

付き合ってと言われれば、出す言葉は必ずYESが出てくる事は、もはや、学校だけではなく、外でも有名だった。
しかし、この男が自分だけの物になる事は、絶対にありえない事も、絶対的な話しで有名だった。
自分のモノにならなくても、誰かのモノにもならない。何処かで聞いた事のある様な都合のいい台詞を思い出させたが、実際そうだった。
それでもいいと女は言う。

その法則を、この隣の席の女が、覆す事を、まだ、誰も知らない。
この男のココロを捕らえて、この男の視線も感触も温度も、すべて独り占めする女が現れたと言う事を、本人含め、まだ誰も知らない…。



……To Be Continued…

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