act 7

言葉に出来ない。自分は何でこんなに可愛くないんだ…。気持ちばかり溢れてたまらなかった。
抱き締めた沖田の服越しに、いつものあの温度が伝わってきた。嬉しくて、たまらなくて、服をぎゅうと掴む。
その神楽の頭に、ぽんぽんと沖田の掌がのる。神楽の背中をさする。泣き止め。そう言ってくれてる様な気がした。
でも、逆効果。神楽はふえっと声を出して、余計涙が溢れた。最後の理性で擦るのだけは止めといた。
神楽の頬に淡く光に照らされた涙がいくつも伝った。
神楽は息を吸い込む。言葉をだそうとした。でも駄目だった。
一度言えないと頭で認識すると、それがどんな容易い言葉であっても呪縛にかかった様に言えなくなる。
もう一度、神楽は息を吸い込んだ。
「本当は…。」
先の言葉がでてこない。嗚咽と一緒に神楽は息を荒くした。
沖田は何も言わない。何も言わず、ただ背中をさすった。神楽はもう一度息を吸い込んだ。唇を噛んだ。口を開く。

「もっと、もっと、もっと、もっと…スキになって欲しかったアル。」
沖田は、唖然とした。言葉の意味が、いまいちつかめない。今回の騒動と一体どう関係があるのか…。
神楽は言葉を続けた。
「もっと、妬いて欲しかった。やきもち妬いたら、もっと、もっと…あたしに、その気に…。」
神楽は、コレ以上ない程に、沖田の着物をぐしゃと握り締めた。着物はしわしわになった。
思わず口を覆い、絶句してるのは沖田だ。
一度、たった一度、堪らなく欲しくてたまらない神楽に、自分が制御できなくなり、その先に進もうとした事があった。その時、神楽が微か震えたのを見て、それ以来、ずっと堪えていただけだった。神楽のためだと思ってやめた事だったが。もしかして、神楽の方は震えながらも、その先に進む事を望んでいたのかと。
それを口にせず、ずっと悩んでいたのかと…。
今回の、このぶっ飛んだ行動も、全部、全部、自分の気を引くため?
信じられない、やり方だったが、それだけ神楽の思いは強く、悩んでいたのかと沖田にやっと伝わった。

沖田は背中をさする手をとめた。
やんわりと神楽の両肩に手を置いた。神楽の体は震えている。
その肩を剥がす。いつもの顔と違った神楽。女は化粧で幾らでも化ける。
自分が言った言葉。確かにそうかもしれない。ほんのりと化粧をしてるだけで、別人見たく綺麗だ。
ただ、化けた。この言葉は正しくない。だからといって他に例える言葉が見つからないが、―――引き立てている。
元々繊細で整った神楽の顔を、引き立てて、女として見せていた。ドクン。今更ながら沖田の心臓は上下した。

手洗い場の照明は、店の照明よりあかるい。女の泣き顔はこんなにもそそられるものなのか?それとも惚れている神楽だからこそか…。沖田はそんな事を思い神楽をただ見つめた。
神楽はしとしと涙と流す。瞳はゆれに、揺れた。頬が泣いた所為で紅潮している。

全部、全部、俺の…。

沖田はたまらず、何も言わず顔を傾けた。
見上げる神楽に近づく。神楽はそっと目を閉じた。微か、触れた、唇。
離れた。神楽の唇から漏れた言葉。
「すき…すき…沖田すッ―――。」
下から神楽の唇をすくうように重ねた。神楽は沖田の首に手を絡める。沖田は神楽の華奢なからだを引き寄せた。
唇と唇の合間から舌先を忍ばせた。まだまだたどたどしいが、神楽は自分の舌を絡めた。
音が漏れた。神楽のお腹らへんがきゅんと疼いた。酸素を吸う一瞬だけ、互いに離れた、しかし、まだ足りないとでも言うように二人は重ねた。漏れる音がどんどんと大きくなる。
神楽の感情は高ぶった。しかし、いきなりその温度は離れた。

「マジ無理、コレ以上やっちまったら、引き返せなくなりそうでィ。」
沖田はついてしまった神楽のグロスを手で拭った。
引き返せなくなってもイイアル。神楽はそう思った。嬉しかった。唇から触れた温度が。漏れる音がそのまま好きだといわれてるみたいで。嬉しかった。だが、そんな事をやはり言えるはずもなく、沖田を見上げた。
この威力は十分だった。上目使いで、もっと…そうねだる瞳。
じぶんがアレほどまでにキレて居た事も、何もかも流された様な感覚。近藤の頼みで来ている事を今更ながら思い出した。沖田は、まだ抱きついてくる神楽の体をやんわりと剥がした。

しかし、神楽は離れたくないと沖田に抱きついた。
すき、すき…総悟がスキ…。呪文の様に繰り返される言葉に沖田は自分が侵されそうでくらくらとした。
それでも、あと一本、一ミリの理性を保った。

神楽の体の震えははいつの間にか止んでいた。
沖田は、もうこのまま何処かに連れ込みたいと言う感情を、必死に必死に箱の中に詰めた。そして蓋をした。
もしかすれば、既に、フォローの達人である土方と、優しい近藤があの義正と言う男に上手く言ってるかもしれない。そんな事を考えながら、沖田が神楽を自分から離した。
神楽は頬を少々膨らませた。

頬を膨らませることは神楽の得意な行動だったが、やはり今日の神楽は何故かそそる。
沖田は神楽の首筋、着物を捲り、噛み付く。ひゃぁぁ。神楽は身をよじる。それでも沖田ははなれない。
神楽の腰が砕けようとふらついたその時、沖田が離れた。
「―――おめーは俺のモンでィ。」
神楽の耳元でそう沖田は囁き、先に手洗い場から出て行く。今しがた触れていた首元を神楽は抑える。
しかしすぐに意識をはっとさせる。どちらにしても店からでなければならない。神楽は自分の顔が泣き崩れてないかと鏡を見た。たしかに擦ってないので、崩れてはいない。良かった。神楽は思う。
しかし、先ほど沖田が触れていた首筋にあるモノを見つける。初めて見る。
(これって、キスマーク、アルカ…。)
右の首筋、くっきりと浮かび上がる、その跡。
不意に沖田の言葉を思い出した。嬉しくて顔がにやけた…。本当ににやけた。

早くでなきゃ、いいかげん出なきゃ。皆に変に思われちゃうヨ…。
握り締められたドアノブ。
このにやけた顔を、どうやって元に戻そうか…。そんな事を考えながら神楽は、それを引いた…。


……To Be Continued…

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