act 5

皆、言葉もなく、ただ、ただ唖然とした。
そして、意識を取り戻すように、神楽はお手拭きを掴む。そして沖田の手に触れた。
割れたグラスを握っていた右手は、破片でズタズタになっており、見るだけで血の気が引いた。
神楽はゆっくりと沖田の手を開いていく。すると、沖田の掌から握っていた破片がパラパラとおち、テーブルの上で音を鳴らした。神楽は丁寧に破片を取り、ゆっくりと血を拭う。
銀時は、口をきゅっとかみ締める神楽を見て、ため息を付く。そして土方の方へと視線を流すと同じように、息を付いていた。

真っ赤に染まっていく、お手拭き。
「い、痛いアルカ…。」
無意識に出た言葉…。痛くねェ。沖田は完結に答えた。その表情がどんなモノだったかわ、結局俯いてる神楽には分からなかった。擦り傷だらけの沖田の手をそこそこに、神楽は割れた破片を片付ける。
あちら、こちら、強く握りつぶしたおかげで散らばっている。途中、義正が手伝おうとしたが、神楽はやんわりと断った。大きい破片、小さな破片。神楽の手から血が滲んだ。

破片で手を切ったらしい。それを気にとめる事無く、神楽は拾い続ける。破片に神楽の血が混じった。
その手を沖田が止めた。神楽の手は、拾おうとした手の形のまま止まった。

沖田は神楽の手に手拭きをそっと押し付けた。
「後は俺がやるから、座ってろィ。」
沖田の表情は、やっぱり恐くて見えない。それでも、声が…。声が…。
神楽は込み上げて来る、自分の中のモノを一生懸命堪えるように、唇を強く噛んだ。
チラリと銀時を見てみると、しょうがねェ奴…。そんな表情をしていた。
一度、鼻をスンと鳴らす。堪えようも出来なくなってきた自分の涙を、こんなバイトをしてしまった後悔を、
改めて感じ、神楽は席を外した…。

.....

残るのは、後悔だけ。怒るのは最もだと思うヨ。でも、総悟だって、ほんのちょっとダケ悪いデショ?
あたし傷ついたんだヨ。冗談でも置いていくなんて、して欲しくなかった。
総悟が、大切にしてくれてるなんて、十分分かってるヨ。
それでも不安になる。女の子から、いっぱい告白されてるトコだって、沢山見てきた。
手紙だって貰ってる。そんな総悟があたしとずっと居てくれる保障なんて、何処にも無い。
考えるだけで、涙が出てきた。銀ちゃんが、総悟はあたしの事を凄くスキだって言ってくれた。
違うヨ。銀ちゃん。あたしの方がスキすぎてたまらない。
だって、総悟、とってもとっても、分かりずらい…。本当に、あたしの事好き?ねェ、本当に?
ちゃんとそう聞ければいいんだけど、あたし素直じゃないから聞けなくて。

大切にしてくれてる?分かるよ。でも、あたしはもっと総悟にドキドキしてほしいノ。
何で手を出さないノ?ねぇ、何でキス止まりナノ?あたしもう18歳ネ。そりゃ、総悟はもっと大人で、総悟からしたらあたしなんてまだまだお子様かも知れない。でも、あたしは大切だけじゃなくて、もっともっと女として意識してほしかった。

でも、あたし、やり方分からなくて、子供っぽい事ばっかり。今回の発端だって、本当に本当は…。
そうだヨ。やきもち妬いてほしかった。そうすれば、もっと、もっとあたしの事スキって思える気がした。
でも、あの瞳、あの…。色を見た瞬間。自分は間違ってたって思い知らされた。

恐かった。やきもちどころの話しじゃない。きっと、きっと…。

そう考えながら、涙を拭ったあたし。手洗い場の鏡に映ったあたし、そうだね、いつもより綺麗。
着物だって、化粧だって。昼間のあたしとは大違い。
初めは嬉しかったヨ。色んな男(ひと)に綺麗だって言われた。
でも、気付いた。総悟に、言って欲しいって。総悟だけに言われたいって…。

あぁ、もう、あたし馬鹿…。

「御免ね、総悟…。」
俯いたら、ポトリ。涙が零れた。
「―――許してなんかやんねェよ。」
ひゅって息吸い込んだ。だって、目の前の自分の後ろ、鏡越しに、総悟が居た…。


……To Be Continued…

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