act 3

「何でテメーが居やがる。」
「それは俺の台詞でさァ。土方さんこそ何してるんですかィ。」
「ぁあ?俺は近藤さんに―――。」

夕刻、日も落ちた。夏より、日が落ちるのも速く、辺りは真っ暗になっていた。
総悟は近藤に頼まれた通り、仕事を終え屯所の門の前に行くと、既に其処には土方が立っており、土方は沖田より先に、不機嫌さをむき出しにした。
二人が敵意むき出しに話していると、其処に近藤が駆けつけた。

「いや、すまんすまん。俺が頼んだにも関わらず待たせちしまって。」
「近藤さん、どう言う事でさァ。もしかして土方さんも行くんですかィ?」
「冗談じゃねェ、俺ァこいつが居るなら帰ェるぞ。」
沖田が不機嫌さを表に出し、土方は帰ろうと足を向ける。そのどちらにも仲裁するように近藤は待ったをかけた。
「頼む。お前ら二人しか居ねェんだ。この通りだ。」

近藤は二人に向って頭を下げる。この人に頭を下げられて無視を出来る二人じゃないのは、新鮮組ならば誰でも知ってる事実だ。沖田と土方は互いに大きな息を漏らした…。

......

3日程前の事だ。近藤が可愛がっている男が近藤にある相談を持ちかけてきたのだ。
男の名は、古田義正(よしまさ)と言った。義正は、新撰組には属しては居ない。近藤がその人柄に惚れ込み、個人的に付き合ってる人物だった。
義正の年は21.総悟より一つ年下の、まだ青年だった。土方の様に負けん気が強いわけでも、沖田の様に剣の才がある訳でもない。
顔だって、二人に比べれば平凡な顔だちだった。しかし近藤は義正の、その性格に強く惹かれた。他人を思う優しさが内側から滲み出ているその性格に。
そこに一つの芯も垣間見れ、たまに飲みに連れて行っては、男の近状報告をただただ、楽しそうに近藤は聞いていた。

そんな時、義正が口を開いた内容は、こうだった。
最近、ふらりと慣れないスナックと言う場所へ入ったという。そこで見たのはとても可愛らしい自分より年下の女の子だったと言う。
義正は、そこの子に一目惚れをしてしまった。その日から義正は頻繁に訪れる。聞けばその子はずっと此処にいるわけではないと言う。
いつ辞めてしまうかも分からない。ただ、義正は優しい、裏を返せば、少々臆病な所もあり、逢いに行き、
酒を運ぶ際、手拭きを持ってくる際、会話を交わすだけしか出来なかった。
くるくる店内を動くその女の子目当てに来てるのは、どうやら自分だけでは無いと知る。長い髪、柔らかい微笑み、誰隔てなく接してくれる性格の良さ。

寒い道中、コンビニで肉まんを買って、もって行けば喜んで食べてくれる。義正の人柄に惹かれていたのは近藤だけでは無い。
ママも今時珍しい好青年だと気に入っており、食べる時は座って食べなとその時間だけ義正の席に付くことを許してくれた。
他の男からの視線が甘く疼く。その息を呑む容姿、立ち姿、雰囲気、何もかもに目を奪われてるのは自分だけでは無い。
自分も勇気を出さなければ、前に進むことは出来ない。辞めてしまう前に自分の気持ちを伝えたい…。義正はそう思う。だからとは言え、一人では心細い。そこで、近藤についてきてくれと義正は言った。
近藤は悩む。近藤が足を向けるのはお妙のキャバクラだけだったからだ。
そこで近藤は考えた。沖田と土方ならば、無理を言えばついてきてくれるだろうと。

初め、沖田は首を横に振った。当然だった。そしてそれは土方も一緒だった。が、しかしやはり近藤の頼みを断れなかったのも事実で…。近藤が義正の人柄の良さに惹かれ、話しを断れなかった様に、沖田や土方も、近藤の頼みには弱く、断れなかったのだ…。


.....
近藤、土方、沖田が通りを、並び歩いていると、手提げ袋を持った義正が、程なく現れた。
辺りは暗いが、街のネオンや明かりで、眠らない街、歌舞伎町だと確かに思わせる。近藤は手をあげる。義正は近づき、沖田と土方の姿を確認すると、ぺこりと頭を下げた。近藤は順にそれぞれを紹介する。土方と沖田は、無愛想までは行かないが、表情が乏しく、軽く頭をどうもと下げるだけだった。
それとは反対に義正は、そんな二人に笑顔を向け、深々と、ありがとうございますと先に礼を言う。
さすがの土方も、無愛想な表情を崩し、男の物腰の低さに、少々自分の態度を改め、頬を照れた様に掻いた。

そんな雰囲気を、沖田の一言が裂く。
「義正さんとやら、そんなにその女は別嬪なんですかィ?」
特に笑いもせず、殆ど無表情。本当に聞くほど興味があるのかと聞きたくなる面持ちで沖田は義正に質問を投げかけた。
義正は、一瞬、沖田から話しかけられた事に驚いていたが、直ぐに気を取り直し、はにかんだように頷き、口を開いた。

「はい、その容姿もさる事ながら、彼女自身も可愛い性格(ひと)なんです。と言っても、彼女に行為を寄せて居るのは僕だけじゃないんですが。」
「女なんぞ、化粧で幾らでも化けやすぜ。」
「そうですね、ただ、何となく彼女は、化粧のその下も、きっと綺麗な素顔なんだと思います。綺麗な中に、可愛らしさがあって、でも、全くその事を鼻にかけてなく、誰にでも親しみやすく、笑顔を絶やさず、そんな中でも、気付く所は気付いて…。」
「大層な惚れ込みようで。」
沖田は、淡々と話し続けた。それを後ろから土方が、小気味よくしばいた。
沖田は顔をしかめ、土方を振り向く。
「テメーには表情と人間の情ってモンがねェのか、オイ。」
土方は、対して興味もないのにそんな風に失礼な態度を取るんじゃねェと、目を吊り上げた。
沖田は、一瞬。確かに、と考えた。
そんな二人の会話を、今度は義正が裂く。
「でも、お二人程の方が来られて、正直焦っています。」
はっ?っと土方と沖田は義正の方に向く。義正は再び口を開く
「こんな、僕から見ても格好いいお二人の方に彼女が目を奪われてしまわないかと。」
すると、今度は、近藤が口を開いた。
「いやいや、大丈夫だよ。そんなにイイ女なら、外見なんかに魅せされる事も無いだろう?ちゃんと中身も見てくれるさ。それにな、この二人はとっくに心に決めた女が居座っているからな。心配はしなくていい。」
「近藤さん、それじゃ俺らは心を見た時点でアウトって事ですかィ。ドス黒いってェ事ですかィ。そいつァ、土方さんだけでさァ。」
「何ドサクサに紛れて言ってんだァ?ナンなら今から道場に帰ってその腐った性格を鍛えてやろうか?」
土方は、沖田の胸倉を掴む。沖田はそんな土方を冷めた目で飄々と見上げた。そこに近藤が入り、いつもの様に仲裁に入る。そんな一連の行動を、義正は口を開け唖然と見ていた。二人の首根っこ捕まえれ近藤は空笑いをした。この人選はやはり間違いだったかと、少々、いや、かなり悩んでいる面持ちだった。

それでも、義正に気を利かせ、近藤は言葉を出した。
「こ、こいつらはまだまだ、未熟者で、この通りまだまだガキだがな、お前さんは年も若いがその心構え、その芯の強さには、俺は脱帽している。なぁに、男は妻を娶ってから更に大きくなることが出来る。お前さんなら必ず彼女をオトせるさ。そしてさっさと契りでもなんでも交わして、一緒になっちまえばいいんだよ。お前さんの良さはこの俺が保障するさ。」
近藤がそう言葉を放つと、義正は照れた。

そんなながらも、足を向わせて着いた先。
「なんでィ。ここは老婆の姿をした妖怪が一人で経営してると…。」
「総悟、止めとけ。噂じゃ万事屋の奴でも敵わないとされてるお人だぞ、きっと、殺される。」
近藤は、沖田の肩に手を置く。そして項垂れた。そんな近藤を見た後、沖田は上、つまりは二階を見つめた。
其処に土方の声がかかる。
「後にしろ。」
沖田は後方に視線を流す。勘のきく、この男の事だ。恐らく自分がイライラと最近していた元凶を知っているのだろうと考えた。もしかすれば、姉のミツバからの線で知ったか。どちらにしてもやっかいな奴だと舌を鳴らし、一瞬息をつき、諦め、既に中に入っていく背中の後に続く。程なく、老婆の姿の妖怪から、いらっしゃい。声が聞こえた。義正はこんばんわと言う。そして彼女の姿をすぐに探し始める。何だかんだ言っても、其処まで惚れ込んでいる女の面には、近藤、沖田、土方も少なからず興味が沸いている様で、義正と同じように首を左右へ振り、探した。

中に完全に入った所で、お登勢から、珍しい人間が来たモンだよ。そう言われた。其処に座んなとの言葉に近藤は軽く頷き、端の広めの席につく。義正が首をふり、探していると、それに気付いたお登勢が、笑みを漏らしながら口を開いた。
「今、裏のビールケースを運ぶ様に頼んだとこさ。すぐ来るよ。」
全て見透かした様にお登勢は笑う。義正は恥ずかしそうに首をすぼめた。

近藤を角に、向って、左に土方、沖田と座る。義正は、恐らく近藤の向かい側に座るのであろう、椅子を空にしたまま、店の奥に繋がるそのカウンターで女を待っているらしかった。
土方と、沖田は、面倒くさいこの上ない面持ちで背を椅子につけていた。すると、お登勢の声がそれぞれの聴覚を刺激した。
「ほら、今日も来てくれてるよ。まったく毎晩ご執心なこったね。」
義正は、照れた表情をお登勢に一瞬むける。そして姿を現した女に、手提げ袋の中から、肉まんを三つ渡す。女は喜び、微笑んだ。お登勢は気を利かす。
「ほら、席に付かせてもらって食べて来な。今日は顔見知りも居るようだからね、それも3人さ。お手拭きも忘れんじゃ無いよ。」
義正は、嬉しさを込み上げるこの時間をと、静かに席に付く。土方、沖田、近藤は、奥を確認する様に乗り出す。もし、出てくるのが、実は、この義正と言う男が、稀に見るB線で、込み上げる笑いを止めるのが必死な面の女が、出てきたらどうしようかと、本気で考えていた。そんな三人にを義正は、すぐに来ますよ。そう笑った。
程なく、奥から人影が動く、一度死角に入り姿を消した。そして、女は姿を現した…。


……To Be Continued…

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