番外編 3

見晴らしの良い二階。透けたカーテンを手でスっと開けると、下には神楽とミツバが居た――――



新八の声に振り帰ったそれぞれの男達は、思わず息を呑んだ…。
玄関から出てきた二人…神楽とミツバは、先程の白無垢とはうって変わり、純白のウエディングドレスを纏っていた。

ミツバのドレスは肩も鎖骨も露にし、胸元の大きなリボンは、上品である中にも、可愛らしさを見せており、華奢な体を更に美しく見せるようにレースを何層にも重ね、腰からしたにふんわりとその形をかたどっていた。
くしゅくしゅとアップにされた髪は前髪を残し、無造作に遊ばせている。後ろから見れば、その遊ばせている髪がまるでリボンの様にクルクルと形を作り、そこから見える項(うなじ)は可愛らしさの中に色っぽさを加えていた


対する神楽のドレスは、すっきりとした胸元をアクセントに、クリーム色のスカートが段に流れるように形を作り其処にさらにレースを使いボリュームを出していた。
神楽のヘアスタイルは、上の方で髪をくしゅくしゅと遊ばせ、そこから流し綺麗な桜色をコテでくるくると巻き、肩から鎖骨の方へと流す。その髪は柔らかく、二人の頭の上にと乗せられているティアラが気品も上品さも、可愛らしさ、美しさ、全てを兼ね備えていた。

細く白い二人の肘から伸びる手には、真っ白のスパンコールで彩られたウエディンググローブがつけられていた。
そのひとアイテムが、より一層その姿を引き立てる

まるで本当にプリンセスだと思う。
白無垢とは違った魅力的さ。白無垢がユリならば、ウエディングドレスは、バラにも、カスミソウにも、チューリップにもひまわりにも見える。
その小悪魔の様な、神楽の笑い貌さえも魅力的に見えてしまう。

確実にその姿に魅了されていた沖田だが、神楽の言葉で現実に戻された

「誓いの言葉を言わない限り、結婚式は進行しないアル」
まだこんな事をいっているのかと沖田はイラっと来てしまう。
正直何でもいいから隣に来させたかったし、触れたかった。しかしそれを神楽は許さない
「ちゃんと言うまで、私は皆と楽しくお食事をするアル!もちろんミツバ姉も!!」
そう言うと、神楽はミツバの手を引き、隊士たちの居るテーブルへと足を向けた

ひらひらと風に舞うそのウエディングベールだけが総悟を笑っていた




.....


木で作られたデザインの椅子に腰をかけながら銀時は口を開く
「沖田くん、もう言っちゃいなよスパッと」
怜郎の遊び部屋にと作ってある二階の部屋の中に、土方、沖田、近藤、銀時は居た

「頭で分っていても言えないモンってもんがあるんでさァ旦那。」
ため息をつきながら総悟は言葉を話し、何とかやり過ごす方法が無いかと、同じ木の椅子の背もたれに深く体を預けた。

言う気がない総悟に対し、今度は銀時がため息をつく。
近藤と土方は窓の外を見ていた。すると土方が何かに気付いたように近藤に視線をやる、そして小声で口を開いた

「近藤さん…何故あいつを…」
近藤は土方の視線の先を確認し、困った様に口を開いた
「あいつだけ呼ばない訳にはいかないだろう?仮にも総悟の隊なんだ…」
「いや、しかしだな…」
そこまで話した所で、背後に総悟が立っている事に気づく。
総悟は近藤と土方の間をぬう様に窓辺に立ち、視線を巡らす。山崎と新八はウエディング姿であるミツバと神楽の手を煩わせないように四苦八苦と子守をしていた…。そして視線は神楽の元へと行き着き、そこに居る隊員の所で止まった。

「寺田じゃないですかィ…にしても…あいつら顔見知りなのか…?」

総悟の視線の先にいる二人、神楽と、この春から新撰組に入隊した寺田と言う青年だった。
年は偶然にも神楽と同じ20歳。黒い短髪の髪に大きな二重、形のイイ鼻。そして薄い唇。珍しく隊員にしては男前だと入隊の時にも囁かれた程の逸材であり、性格は負けん気が強く、多少強情。しかし何だかんだいっても総悟の事を崇拝し、言う事もちゃんと聞く。可愛がっていた隊士である。

近藤と土方も若かりし総悟の青年時代を彷彿させる思いがあり、色々と目にかけていた。
しかしトラブルも多く、総悟をはじめ、土方の所へと周り、ひいては近藤まで巻き込み騒動を起す問題児だと言えた。
そうは言っても、やはり一番は総悟の問題行動が目立ち、単独捜査は勿論のこと、あいも変わらず危険を省みず踏み込む所は変わってなく、少なからず寺田の目には、それが格好イイものだと思えたと言えた。

隊士などから総悟の話を聞くにつれ、18歳の頃から既に一番隊をまとめて、今と変わらずの度胸を持ち合わせてる所。寺田の憧れの対象でもあった。

そんな二人を自分は合わせた記憶は無い。しかし見る限り二人は始めて処か、親しみさえ感じれるようにも見える
神楽は、皿の上の果物や寿司、デザートをぺろりと食べてしまう。すると寺田は皿を神楽から取り、どれを食べたい?などと言っている様で、それに答えるように神楽はう〜んと悩みながら指を指し、笑顔で名前を言っていく。
皿一杯になった食べ物を神楽に渡す。その時一瞬触れた指先に寺田の顔が変化したのを総悟は見逃さなかった

そして総悟の貌が変化したのを、土方は見逃さなかった…………



静かに口を開いたのは…近藤だった。
「寺田は…チャイナさんに一目惚れだったんだよ…」
正面、神楽と寺田を見ていた朱の瞳を、近藤の元へと振り返った
「何処で…俺ァ一度もあいつらを…」

寺田が神楽に惚れてしまったのは全くの偶然だった。
新撰組に入隊して一時、あこがれて居る人の下で働くことに信念を持ち自分が誇らしかった。
しかし、張り切り過ぎたため、一度だけ、寺田の不注意で攘夷志士を追い詰めていたものの逃がしてしまったのだ。周りは入隊したてと言う事もあり、仕方ないといっていたが、思ったより自分の傷は深く、居たたまれなくなり、ある日の夕方、川辺で寝転んで居た所に、たまたま子供を銀時に預け久し振りに一人で散歩をしていた神楽と会ったのだった。
神楽はその隊服で、すぐに新撰組の者だと分かる。
なにやらそのオーラが気になり、隣に腰をかける。寺田はナンダと横を見て、一目で落ちた。
しどろもどろになる自分に神楽はどうしたと聞いてくれ、話しをすると、誰にでも通る道だと笑った。
年はと聞けば、どうやら自分と同じ年…。あれほど暗かった自分の心がほんの10分ほどの空間の中で嘘みたいに消えてしまし、その残り香の変わりに恋心を植えつけていった。

しかし、数日もしないうちに、自分の崇拝している隊長の妻と言う事を知り、子供まで居る事を知る。
さっさと忘れよう…寺田はそう思うが、神楽が植えつけて言った恋心と言う花の根っこは思ったより、ずっとずっと深いことを始めて知る。
根を何度抜こうと試みるが、途中でぶちっと切れてしまう。そして一番下の根はドンドンと自分の奥深くへと根ずく。苦しくて、苦しくて、忘れようとしても忘れられず、どうにかなりそうだった。
自分が悩んでることを、よもや沖田に相談なんぞ出来るわけも無く…そんな時異変に気付いた土方が寺田を呼びつけ、その話を聞く。
近藤も含め、どうにか忘れられないモノかと聞くが、その恋心は、既に大きな花を咲かせ、体内に咲き誇っていた。近藤は、隊を抜けてもいいし、一番隊を抜けて別の隊に行くように手配してもかまわないと優しく答える。
人の気持ちほど頑固で難しいものはないと言う事くらい、長く生きてる分分かるからと…。
しかし寺田は総悟の事を崇拝する気持ちも消えておらず、悩みに悩んだ結果、すこしずつでも忘れて、仕事に生きますと、一番隊に残りますと決意し、近藤に話す。

近藤と土方はそうかと肩を叩く。
そうやって自分に線を引いていた時間が、たった何十分かの間でガラガラと壊れて行くまさにその時を総悟は見たのだ。



「神楽は…その事を…」
水分が無く、からからになった喉から搾り出すように口を開いた

「いんや、嬢ちゃんは何も知らねェよ」
胸元から取り出したタバコに火をつけ土方は言った。

「神楽がお前を裏切らないって事くらい、テメーにだってわかってんだろ?」
鼻から息を出しながら銀時も口を開いた

空虚な心で、総悟は二人を見ていた…


.....

「寺田、ホッペタに花びらが付いてるネ…」
そういうと神楽は頬にそっと手をやり、桜の花びらを取った。そしてホラっと神楽は笑う。
一生懸命枯らしていた花が、再び咲き誇っていくのが寺田には分かった。

ゆっくりと寺田は口を開く

「もし、沖田隊長が…誓いの言葉を言ってくれなかったら…?」
寺田は言った後、激しく後悔したが言わずには居られなかった
「そん時は…う〜ん…そうアル!大事な所で決められない男なんてこの神楽様がぶっ飛ばして離婚届を叩きつけてやるネ!」
神楽はイタズラに笑うが、その目の前に居る寺田の目はなにやら笑っていない…。
思わず神楽が真顔になる。
まっすぐに自分をみつめる神楽の空色の瞳を見ながら、ゆっくりと寺田は口を開く
開く前、自分の中で激しい感情の渦がぐちゃぐちゃに混ざっていたが、この際、それを切り捨てる

「俺…俺なら…」
そう言いながら、寺田の手は神楽の頬へと伸びる。びくっと神楽は体を動かす。
まるで時がとまった様に思えた。
寺田が神楽の事で悩んでいたことは、殆どの隊士達は知っていた。
しかしこの結婚式の途中で、まさか二階に花婿が居るにも関わらず、しかもその相手が総悟だと分かってるのかと視線は一気に寺田に注がれる。

そして神楽の頬へとその手は触れた………
.....

春の風はイタズラに強さで遊ぶ。
桜の花びらをわっと散らせ、ウエディングドレスに桜の模様を彩った。

先程自分のほっぺたに触れた…そう思った手が、どうやら違ったらしいと、私は暢気に考えた
なぜなら、触ろうとした私のほっぺにその手より早く、私にいつも触れる、憎らしく、愛しい、豆だらけの無骨な手が触れたからだ。まるで触らせないとでも言う様に。

遠慮なしに私のほっぺを掴むので少々痛かった。
しかしそれは長年の経験で分る。ヤキモチなのだと、やっと飛んできたかバカヤロウ…なんて考えていた…。

だが、私を囲う二人の瞳は、何故だろう…。とても真剣そうに見えたんだ――――。






「誓う。誓ってやらァ…。神だろうが、仏だろうが、キリストだろうが…。寺田…お前だろうが…」
神楽は、ぽかんと総悟を見る。

其処って私を見ながら言う台詞じゃないノカ?
何で、何で寺田の方を見ながら言うネ…。

寺田は、やっと今我に返った様な面持ちをした。それと同時に二階から見ていたのかと理解した。
視線を総悟を交したが、自分がしようとした事、口にしようとした事を考え、感情がぐちゃぐちゃに塗りつぶされ、耐えられず視線を外す。
そんな寺田を、総悟は真剣に見ていた。隊士を含め、全員でその場を釘付けになるような形で見入る。
これはどう見ても修羅場だ。完全に理性を吹っ飛ばしていた寺田…。

この神聖な結婚式の場で悲惨な末路になるかと…心配で心配で…。
少なくとも寺田の神楽への思いは、間違いなく真剣だっと言うのは皆理解していた。が、世の中には、男女の関係に置いて、必ずどうにもならないモノがあるわけで、それを乗り越えるからこそ一歩自分が成長するのだが、あまりにも酷だと同情していた。

少なくとも、忘れようとしている寺田に、意味もなく総悟は神楽の名を出す。
それも仕方なく、当たり前の事なのだが、そんな時ほんの一瞬表情がピクリと動く様に隊士達は気付いていた。
そんな思いを知っているからこそ、責められない。が、とうとう総悟にその気持ちがバレてしまったらしい。
同時に総悟の神楽への思いも深いと言う事も、独占力が強いと言う事も知っている。

隊士達は表情を歪めた…。

総悟は、怒るでもなく真剣に寺田を見つめ口を開いた。

「悪りィが…こいつだけは譲れねェ…」
神楽は、何を言ってるんだと言う顔で総悟を見つめた。

「分って…ます。」
苦く表情を曇らせながら、寺田は口を開いた

「俺は…コイツ以外には誰もいらねェ。一旦コイツを捨てた俺が言うのもなんだが、俺は今も、コレから先の未来も、たとえコイツが離婚届を叩きつけたとしても、俺は連れ戻す。」

もはや寺田は何を言う事も出来なく、ただただ聞いている

「ただ、人の気持ちと言うのは複雑で、全く持って言う事をききゃあしねェてェのは、俺にも分かっているつもりだ。だからお前の事も責めたりなんかしねェ。それなりの葛藤がお前の中にも確かにあったはずだからだ。だが、それでも、コイツだけは、神楽だけはお前にも、他の奴にもやる事はできねェ。たとえコイツの運命の相手がお前だったとしても、俺はそれを無理やり捻じ曲げてコイツを奪いに来る。もしもこいつに会ったのがお前の方が先だったとしてもだ。俺は全部捨てる覚悟でコイツを取る。全部だ。全て断ち切ってでも、俺はコイツを取る。」

神楽はいよいよ驚いた様に総悟を見上げる
誓いの言葉を言うより、何倍も恥ずかしい台詞を言ってるのが分っていないのかと…。
しかしどうしようもなく嬉しい自分がいるのも確かで。

総悟は、意味のあるトドメをさす様に言葉を続ける
「俺がコイツを幸せにしてやる。お前の分まで俺が幸せにする。笑わせてやる。大切にしてやる。………。テメーに誓ってやる。」

そう言い切った。
ゆっくりと寺田は顔をあげる。その瞳はまだ閉じたままだったが、ゆっくりと開け、総悟を見た。
そして吹っ切れては居ないが、諦めた様に笑った。

「ありがとうございます。隊長…。まだ、まだ整理はつかないですが、まだ…一杯一杯ですが自分の力で克服して見せます。立ち直って見せます。なので…今後も宜しくお願いします!!」
寺田はきちっと頭を下げた

「ったりめーだろィ。てめーにゃまだまだ教える事が山ほどあるんでさァ。テメーは俺に似てる、可愛くねェ訳ねェだろうが。」
そういうと、本当に嬉しそうに顔をほころばした。

「では、最後に一つだけ…」
そういうと、寺田は総悟の得意なサド笑いに似た表情を浮かべた。そして自身の腕を伸ばし、神楽の手を引っ張りあげた。グンと引かれた神楽の体は引き寄せられるように、吸い付くように、寺田の唇のおうとつにと重なった。
総悟はまったく動くことが出来ず、ただ唖然としていた。
そのほんの一時の間に、寺田は一生忘れないようにと、神楽の甘い舌を自身の舌へと絡めた。
皆が唖然としてる中、その唇は離れ、繋がっていた思いを断ち切るように、全てを終わらすかのように、一本の銀色の糸は伸び、そしてプツリと切れた。

総悟はわなわなと震える
「チャイナさん、俺キス上手かっただろ?」
イタズラに笑う寺田にただただ顔を赤くする神楽…

そして、総悟に悪びれもなく口を開いた。
「隊長、俺の幸せを貰うために、特別に花嫁のブーゲをもらいましたぜ」

明日は打ち込みでも何でも付き合いますんで!と笑いながら去っていく寺田。上から駆けつけた近藤たちが何とか総悟を沈めようと試みる。すると総悟は邪悪な笑みを浮かべ
「明日覚えてやがれ…クソガキが…」
と体を震えさせていた。


……To Be Continued…

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