最終話


ふふっと笑う神楽は、とても美しかった。
髪はボサボサで、汗が引いた体にくっ付き、病院服だってよれてぐちゃぐちゃ…
メイクだって汗で落ちて、スッピンで、でもだからこそ、白く透明感のある肌と、淡く色づく唇が映えて…。

総悟は何も言わず、ゆっくりと頬に手をやった。そしてその顔を傾けると同時に神楽の瞼も閉じられた…
そっと重ねられた唇から、甘い体温が体中に巡った

名残惜しむように離れ、二人同時にゆっくりと瞳をあけ、おでこをコツンとした
「ねェ…名前、どうするアルか?」

神楽が聞くと、総悟がおもむろに口を開いた
「色々と俺も考えては居たんだが…あの子を見た瞬間に浮かんだ名前があった。」
「教えてヨ!」
空色をキラキラとさせながら、神楽は期待する

「みお…。美しい桜と書いて、桜色の髪にもちなんで…美桜――――ってェのは…」
「いいアル!すっごくすっごくいい名前アル!」
神楽は満面の笑みを見せた。その笑みを見た総悟も、とても幸せそうに笑った。



....

「じゃあ、見に行きますかィ」
「何をアルカ?」
「今日は出産する人が多いとかで、新生児室のカーテンが開いてんだ。皆もそこで今頃見てるはずですぜィ。美桜を。」

いくいく〜〜!!と神楽は喜んだ。車椅子を使うかの総悟の声に、自分で歩いて行くと神楽は言う。

別に歩いていけないと言う事は無いらしいが、総悟は少々、いや大分不安な顔をした。が、神楽は大丈夫と笑った

総悟の手を掴み、体重をかけながら、一歩一歩歩いてく、途中やっぱりと総悟が言いかけたが、自分の足で見に行きたいと神楽は力強く言った。
強情な性格を熟知しているので、総悟は何も言うまいと決めた

.....

「神楽ちゃん!」
お妙の一言に、丁度全員で窓ガラス越しに美桜を見ていた全員が振り返った
わらわらと周りを囲み、一声に心配する声を上げた。その声に、私は夜兔ヨ!と神楽は笑った。
支えられるように、窓ガラスを覗き込む。
もう夜中近いが、本当に特別に皆の面会を許可してくれたのは、あの先生だ。
その代わり、静かにね。と言う声を残しながら…

「可愛いアル…」
目を細めつぶやくと、静かに皆で笑った

「神楽ちゃんに本当にそっくりでとっても可愛いわ」
ミツバが言う
「総悟の遺伝子がよほど弱いっつー事だな」
土方が言うと
「その台詞、姉上が産んだ後、3倍返しにして返してやりまさぁ」
と、口元をあげ、総悟が言う。
互いににらみ合いを始めた二人を置いといて、新八が口を開いた
「神楽ちゃん、名前は何にしたの?」

その言葉に、あぁ!と皆が賛同し、神楽を見つめる。はにかみながら神楽は口を開いた
「みお…美しい桜と書いて、美桜アル!」
「可愛らしい名前じゃない!」
「本当!ピッタリだわ」
お妙とミツバは共に喜ぶ

どっちが考えたんだ?との近藤の言葉に神楽は、総悟。と答える。すると山崎が心底驚いた様に総悟を見た。
すると総悟は山崎の元につかつかと行き、
「何かィ?俺が考えちゃ何か問題でもアンのかねィ」
とサド顔で笑う
「ヒィィィィ!!ち、違いますよ、沖田隊長がよくこんな可愛らしい名前を考えれたなって…いや、褒めてるんですってェェ!!」
「何が褒めてるだ?どう見てもけなしてんじゃねェか」
ますます詰め寄る総悟を見て、皆は笑う

「神楽」
銀時が、優しく神楽を見る
「銀ちゃん…」

「よく頑張ったな。すげーよお前。銀さん見直したわ、いや、マジで」
「銀ちゃん!!!」
神楽は銀時に抱きつき、その手をぎゅ〜〜と力を込める。
その体をよしよしと撫でる銀時だったが、すぐ、後ろの黒いオーラに身の危険を感じ神楽に必死で降りやがれと
説得する。が、神楽はその力を緩めない。

ますます青筋を立てる総悟の後ろから声がした

「ねぇねぇ、赤ちゃんは何処にいるの?」
不意に聞こえた声に思わず神楽も銀時から離れ、振り向くと、神楽の様に今しがた産まれたであろう自分の妹を
父親と、おばあちゃんと、おじいちゃんと見に来た小さな男の子が居た
子供は父親に抱っこされ、保育器の赤ちゃんの中から自分の妹を探す

「あっ!居たよ!ぼくの奈々ちゃんが居たよ!」
そう父親を振り返る子供。父親は穏やかに笑い、その視線を祖父母に向け更に微笑んだ。

その光景を同じように穏やかに微笑む。
保育器の中の美桜も、奈々ちゃんと呼ばれる赤ちゃんも、そして其処に静かに眠る赤ちゃん達は、幸せそうに寝ている。白い布団に包まれ、とても小さく、愛しい…。
すると、その子供が不意に口を開いた

「アレ?あの赤ちゃん髪の色が皆と違うよ!ほら、見てパパ!」
一瞬、ほんの一瞬神楽は視線を伏せたが、一度目をゆっくり瞑り、そしてゆっくりと開いた
そしてピンと背筋を伸ばし、保育器の中の美桜を見つめた
その肩をゆっくりと総悟は抱いた。

「あっ!ねェねェ!あの赤ちゃんが目を開けた!アレ?目の色も違うよ。髪はピンクなのに、目は青色だ!…」
凛と立つ神楽にその言葉は続く
「でも…綺麗だね!可愛いね!ねェパパも、おじいちゃんも、おばあちゃんもそう思うでしょ?」

無邪気に聞く子供の声に、父親と祖父母が口を開く

「あぁ…そうだね。とっても綺麗だね」
「とっても可愛らしいわ」
「綺麗で澄んだ目をしておる…きっと奈々に負けないくらい…美人になるな」

そう言う顔は、神楽や、総悟の方に向けられ、とっても優しい瞳をしていた





窓ガラスについていた両手をその場で握り締め、コツンとガラスに頭をつけた
その俯く顔はくしゃりと崩れる…

「…〜〜〜っ…っふ… …」

その瞳からは涙があふれ、頬の曲線を伝い顎で止まり、ぽたりと落ちる。
何滴も・・・何滴も…
その綺麗な雫の中に、どんな感情が入っているかわ、神楽にも分からない。


心無い事を言う人間も沢山いるけど、たった一言で全部洗い流してくれる様な言葉を言ってくれる人間も居る。
その言葉はまるで魔法の様に、神楽の中を綺麗にしてくれて、優しい、嬉しい、ありがとうの気持ちで溢れかえらせた。

嬉しかった。ただ、ただ…嬉しかった。

総悟は神楽の頭をよしよしと撫でてやるが、その行動は更に涙を増す原因を作った

そんな神楽の様子をおだやかに見る中、先程の家族が、総悟に頭をさげ其処を後にする…



神楽の周りを自然に囲む。涙は止まる事をしらず、しかしそれ程神楽に言葉が響いたのだ。
両手で顔を多い、泣きじゃくり、涙を掌で拭うが、意思とわ関係なく後から後から流れてくる
いや、意思と関係があるから、後から、後から流れてくるのだ
心があるから、感情が生きてるから。
自分の中のハートが、嬉しいって、ドクンドクンって言ってくれるから…


神楽は涙交じりの貌を上げ、一生懸命涙を拭って皆に微笑む


ねぇ、姉御 ――――
姉御の強くて優しい所にいつもあたし、救われるのヨ
いつか姉御みたく、芯の通った美しさを身につけたい。
間違った方向に行こうとすると、ダメヨってちゃんと叱ってくれて、お姉ちゃんの様な、マミーの様な
そんな大切な人

ねぇ、ミツバ姉 ――――
ミツバ姉の、優しくて可愛らしいトコ、とっても大好きヨ
総悟と喧嘩して仲裁してくれるのは、いつもミツバ姉。
素直じゃないあたしの奥底の気持ちをいつも分かってくれて、導いてくれる。
とってもとっても大好きな人

ねぇ、トッシー ――――
いっつも見てないようで、いつの間にか絶妙のタイミングでフォローしてくれてる
頼もしい存在。喧嘩したあたしと総悟を、面倒くさがりながらも、ミツバ姉と一緒に
支えてくれる。ちょっとウザイ時もあるけど、
とっても頼れる、大切な人

ねェ、ゴリ ――――
誰の言う事も全然聞かないときだって、ゴリの言う事は総悟も聞くんだヨ
仕事で行き過ぎた事しちゃった時、いつも迷惑かけてゴメンネ
ちゃんとコレからは、あたしが鎖つけて管理しとくからネ
でも、いつも総悟の事ちゃんと見守ってくれる、大切な人

ねぇ、ザキ ――――
いっつも、いっつも損な役回りばっかり、いっつもいっつも後始末ばっかり。
悲鳴とか叫び声がすんごい聞くけど、それってそれだけ総悟が馬鹿な事やってるからで
それでもちゃんと着いて来てくれてるの。
あたしちゃんと分かってるヨ。
コレからも宜しくアル。勿論お前も大切な人

ねェ、新八 ――――
お前には、感謝してもしきれないアル。落ち込んでた時や
喧嘩した時、泣いてる時、いつも励ましてくれた。
マミーみたいな存在で、とっても温かくて、優しくて
地味だけど其処に居なくちゃ絶対駄目で…
地味なくせに存在感があるんだヨ
地味だけど、あたしの大切な人

ねぇ、銀ちゃん ――――
なんだろう、もぅ考えてたら涙出てきちゃうヨ。あなたは間違いなくあたしの初恋だったヨ
これは総悟にも、もちろん銀ちゃんにも内緒
淡い淡い、初恋。ちっちゃくて、子供っぽい恋愛だったけど
あたしは確かに銀ちゃんが大好きだった。
それが、愛情かどうかは今も分からないままだけど、その思いはしっかりと胸に死ぬまで持って行く!
大事で、大好きで、大切で、出会えたことに、神様に感謝したい
だって私は其処から始まったノ。銀ちゃんに会えた事から始まった
それはとってもキセキな事。
何よりにも変えられない…とってもとっても私の大事な宝物
大好きで、大好きでたまらないくらい大切な人

ねェ、総悟 ――――
お前はスルーアル。
なんて。
はっきり言ってお前は一生銀ちゃんにはある意味適わないアルヨ。
ある意味、一生二番。あっ、三番アル。

でもね、でもお前はあたしアル。あたしはお前アルヨ。
苦しいことも、悲しいことも、楽しいことも、ぜんぶ一緒に分かち合いたいノ
どんな困難も二人で乗り越えて生きたいノヨ。

何番でもない。お前はあたしの半分だから…
分かってる?半分…お前が居なくなるとあたしは生きて行けないノヨ。
だから、だから、ちゃんと一生側にいてヨ。
危ない事もそこそこに、待ってる人が居るって事、ちゃんと学習シロヨ!

この神楽様をいっつも泣かせて、とっても憎らしい奴
心底憎らしくて、サド野郎で、ムカついて、腹が立って…
でも、ちょっとだけ?もうちょっとダケ?
いっぱい?沢山?

大切かどうかなんて・・・今更…分かってるデショ?
こんなにもお前を、心底お前を、愛してるって事!

ねェ、美桜 ――――
産まれて来てくれて、ありがとう…
あたし、お前のためならどんな困難だって立ち向かえるって思うネ
ねェ、美桜。色んな人に美桜は愛されてる。

恐い姉御も、ミツバ姉も、眼鏡も、ニコチン中毒も、ゴリラも、
ミントン野郎も、甘党馬鹿も、サドパピーも…。

皆、美桜の事愛してる。
これから皆にいっぱいキスされて、抱き締められて、とっても幸せになるヨ。
コレは絶対!

お前が泣いたら、抱き締めて、一緒に泣いてあげる
お前が笑ったら、抱き締めて、一緒に笑ってあげる
行き詰ったら、一緒に道を探してあげる

皆がきっと一緒にそうしてくれる。
沢山頼もしい味方がいるのヨ。本当に頼もしいんだヨ。

そんな人に囲まれたお前の人生、きっと輝いてる
いつも笑っていられる様に、皆で貴方を支えてあげるからネ…
この世で一番の宝物…。




ガラスの中、ビー玉みたいな空色覗かせて、ぱちぱちと瞬きをする
意味不明に動かすその小さな手はまるで、これからの幸せを掴んでいる様…

そんな美桜を見ながら、神楽は微笑んだ。
「コレからも、宜しくアル、新撰組 一番隊 隊長 沖田総悟!」
ぶっと噴出す皆を見つめ、神楽も笑う。

きっと、ずっと、コレからも続いていく
それが私の未来。総悟との未来…美桜との未来…
皆と歩いて行く、輝いた未来…



「分かってらァ!――――」


FIN

……To Be Continued…

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