act 15

世界の人々は、時間を刻んで行ってるが、まるでその場だけ、時間が凍りついた。
そして、それを一番最初にパリンと割ったのは、総悟だった。生暖かい空気が自身を包み、溶けて行く氷。
それはまるでスローモーションの様な光景だった。総悟が横を通り過ぎて行くと、生暖かい空気が舞い、次々に凍った氷を溶かしていく。
パリンパリンと溶けて、空気に自分が溶け込むと同時にそれぞれが総悟の後を追った。

車も、ドアも、何もかもそのままに…。

なだれ込むようにリビングへ駆けつける男。
その姿をミツバは確認すると、神楽の手をきつく握り閉めながらもその顔は安堵の表情へと変わる
一人で心細いのは、ミツバも神楽も同じ。神楽は始めての経験。そしてミツバはコレから自分が経験する事だから。
何度も瀕死になった事だってある。怪我だって、傷だって、数え切れない位してきた
痛い事なんてしょっちゅう。だからこんな痛みなんて…。
そう思えるはずなのに、やっぱり痛い、痛いものは痛い。
未知の痛さ。これからどれだけ痛みが増すかも分からない。だからこそ恐い。恐いから痛いのだ。
だが、その反面、この痛みを乗り越えれば、長い間、ずっと待ちわびた瞬間が得られる。
大切で、愛しくて、あたしの宝物――――。

「神楽!…大丈夫か?」
総悟のその顔は眉間に皺を作り、その顔は切なそうで。変わってやりたいが、こればかりはそうもいかない。
その手で神楽を抱き締めた。
神楽の、痛みの感覚の垣間見る、少し微笑んだ顔。ミツバの握っていた手を、今度は総悟がきつく握る
額の汗を袖で拭う。だが又真新しい汗が滲んだ。


足元に視線を落とすと、先程破水して出てきた羊水が太股からピチャリと伝う。
すぐに行動を取ったのは、土方だった。総悟の名前を呼ぶ頃には、神楽を抱いて同じように車に足を急がせた
振動の伝わりにくく、更に運よければ道行く車が、白黒の車だと言うだけで避けてくれる。
好都合だった。

その間も、痛みと戦う神楽に、とにかく総悟は頑張れといい続けた。
運転をしながらでも、土方は神楽の様子を横目で伺う。今この状態が普通なのか危険なのかさえ分からない。
破水をしてしまったと言う事、全く分からない事だから恐い。

鬼の副長とも言える彼が、これほどまでに心配する様を神楽はすこし嬉しくも思う。
そして自分を抱いてくれているのは、世界で今は一番の人。心強かった。

しかし、痛みは強くなって行く。
「ぅぅううう〜〜〜!!っぁああっ!ふ…くぅぅ…んんんっ…」
もぅ頑張れとしか言えない。それ以外に何も出来ない。総悟は唇をきゅっと噛む。
手を握る力が強く、。思わず撓(しな)りそうだ。

まだ…まだ大丈夫。まだ我慢できる。コレくらいじゃ…これから母親になるんだから…
そう思う神楽に、耐える痛みの合間、ふと浮かんできた…。
本当に、本当に、自分と目の前の男が、こうしてもう一度同じ道を歩いて行き始めたと言う事…。




本当に、こんな妊娠生活…
今思えば胎教に悪かったネ。
妊娠が分かって、すっごく嬉しくて、その後に言われた台詞…心がぐっちゃぐっちゃになって壊れていくのが分かった。
傷ついたなんてモンじゃなかったヨ。この世の中が壊れたかと思った。信じられなかったし、信じたくなかった。
でもあの台詞はあたしを強くしてくれた。意地も沢山あったけど。

好きなのに離れてて、寂しくて、なのにそんな自分認めたくなくて、
夜布団の中で、自分と産まれてくる赤ちゃん、その隣にコイツが居ないのがどうしようもなく辛くて、悲して…。
本当は…何回も泣いてた。勘のするどい銀ちゃんは、多分気付いてたヨネ。

だから、つわりで辛いとき、コイツが来て、嫌な顔しちゃったけど、それって本当は自分の中のあたしが
泣きたいくらいに嬉しくて、そんな自分、認めるのが嫌だっただけ。
自分の中で、『今でも好き何だよね?!』そう言われて、違うって反発しただけ。
あたしは一人で大丈夫って。虚勢はってたダケ…。

だから、コイツが病院でたぬき寝してた時にしたキス…
嬉しくて、体中の血が、沸騰しちゃうかと思った。よく頑張ったヨ。ばれちゃうかと思ったモン。
でも今考えれば、いっそあそこで目を開けとけば、もっと早くに仲直り出来てたかも…。まぁ今考えてももぅ遅いケド。

でも仲直りできた時、純粋に嬉しかった。今までの分の思い、一度に溢れて、あたしの頭の中、パーンってなりそうだったヨ。
唇の感触が堪らなく嬉しくて、伝わってくる温度が甘く疼いて、抱き締められる感動に、本当に酔いしれた。
全部たまってたモノ吐き出して、硬い殻をやっと割れたと思った。


今でも思い出すと恥ずかしい、夜這い。あれは我ながら切羽詰ってた。
よくよく考えたら、あたしめっさ大胆な事してたヨ。でも、あれでちょっとダケふたりの距離が縮まって嬉しかった。

一度分かれて以来、こいつはいつだってあたしの事をちゃんと考えてくれた。病院の時も、指輪の事も…。
あたしいっつも困らせたりするばっかりで…素直じゃない?そんなのわかってるネ。でも素直に中々なれないから仕方ないダロ?
すくなくともコイツはそんなあたしごと愛してくれてる。そう思うンダ。

だから、あたし頑張って赤ちゃん産むんだヨ。感謝の気持ち…。
だって、あたしとコイツの赤ちゃん産むことが出来るのは世界中探してもあたしダケ。
産まれてくる赤ちゃんの、愛しさも、抱いた感触も、そのぬくもりも、感動も…与えてあげられるのは、あたしダケ。

分かってる?ねェ、あたしダケなの。
分かってる?ねェ、だいすきなのヨ。

心配そうに見るその顔も、イタズラに口元上げるその顔も、くしゅって崩すその顔も
少し照れた様なその顔も、あたしに欲情してくるその顔も、拗ねてふてったその顔も

ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ!!!
......


「総悟…大好き…頑張るアルヨ。」

吸い込まれそうな空色見ながら、大きく茜色が開く。
神楽の大好きなくしゃりと崩すその表情、少し照れた様なその表情、隣を気にして、ちょっとふてったその表情、そんで、イタズラに口元あげて口を開いた

「分かってらァ。てめーだけみてェな言い方すんじゃねェや。しっかり付いててやるから、その肝の据わった根性見せやがれ」

抱かれてる女も、運転席に居る男も思わず顔をほころばせた…

.....

病院に着けば、玄関先で既に先生が待っていてくれた。恐らく前もって電話を入れていてくれたのだろう。
玄関口で、総悟と神楽を一度下ろす。そして、さすがにこの車じゃあという事で、後でまた来ると言い残し土方は帰って行った。
正直神楽はまだ歩くことが出来たのだが、診察室まで総悟が抱いていくと聞かなかった
嬉し恥ずかしい気持ちを抑えつつ、診察室へと直行する。

診察の結果では、まだ2cm程しか開いてないと言うことで、コレから陣痛が強くなるとの事だった
早産の事を心配していた二人だったが、37週を過ぎればいつ産んでも基本大丈夫だし、もう36週になる頃あい、赤ちゃんの推定体重を見ても大丈夫そうだとそのまま部屋へと通された

何より、完璧に陣痛が始まってるため、進行が止められないとの事だった
心配そうな神楽に先生が口を開く

「大丈夫だよ。赤ちゃんの体重も心配ないし、ちょっと早いけどきっと元気な赤ちゃんが産まれるから」
神楽はコクンと頷く。総悟は丁寧に頭を下げた

部屋に入ってからの神楽は、絶えず痛みが襲ってくるあまり、体がいつも強張り、余計に体力を消耗しているようだった

「オイ…大丈夫か?水分は?」
神楽は額に汗を掻きながら、コクンと頷く、ベットで寝て陣痛を絶えてもいいし、歩いて陣痛を耐えてもいいしと言われている。
総悟は急いで自販機に行き、戻ってくるなり、神楽を再び支える。口に水分を含ませ、起きたり寝たりと陣痛を絶耐える。
痛い、もあるが恐いも感情を占めているので、本当に体力を消耗しているようだった

看護師にとりあえず貰ったタオルで顔を吹いてやると、神楽の瞳が水を帯びた
「っ…」
ぽろりと涙が伝った。
総悟は驚き思わず神楽の顔を両手で包んだ

「どうした?痛てェのか?」
「こ、恐いアル…初めてで…とっても恐いアル」
痛みの合間、震える声で言葉を話した


「俺がついてンだろィ…泣くんじゃねェ。しっかりしろ!神楽」
実は優しい言葉をかけてくれると期待したが、しっかりしろとの声。余計に神楽は顔を崩した。
痛みと涙と恐怖と…。ベットに包まって一人耐えた。布団の中からは嗚咽と、痛がる声が総悟にも聞こえる
ただ、どうしていいのか分からないのは総悟とて一緒だった。どれほどの痛みかも分からない。
優しくするより励ましを…と思って言葉にしたが、どうやらその選択は間違っていたようで…

頭の後ろをガリガリと掻く。よもやこんな所に来てまで喧嘩なんか冗談じゃねェと思う
看護師は、痛みがこれから本格的になるので時々見に来ますねとの言葉を残して、とっくに居ない
部屋の中で、泣き声と痛がる声とで参りそうだった。

(姉上か、姐さんを呼ぶか…)
そう考え、神楽の布団に手を掛けようとした時だった

「「神楽ちゃん!大丈夫?!」」
女の子声色が二つ重なりながら、入って来た。今しがた応援を頼もうとした人物。
部屋に入ったトコでまず総悟と視線がかちあう。
そしてすぐに神楽の方を見ると、布団に包まった状態の神楽。しかも嗚咽、声。そしてこの雰囲気…。
お妙は、沖田の服をずるずるとひきずり部屋の外にでた

「また神楽ちゃんに何かいいましたね?」
「何かって…ただ俺ァ優しくするより励ましたほうがいいと思って…」

詳しく言って頂戴とお妙は微笑む
結果的に来たのだが、こいつを呼ぼうとした自分の選択も間違いだったと背中に汗を伝わした

丁度その頃、お妙とミツバの後方から土方、銀時、新八が現れる。
山崎と近藤は屯所に帰らなければならなくなり、別れた。
部屋に入るなり、ミツバに抱きつきながら、陣痛に耐える神楽。しかしその顔は夥(おびただ)しい量の涙で濡れている。
何事だと目を土方、銀時、新八の三人はその瞳孔をおっぴろげた
神楽は泣きながら、また一つ強くなった痛みを耐えていた。だが、泣くと言う行為に拍車をかけるのと、恐がって体が強張るのとで、ますます疲労を重ねている。
ミツバが水分を含まして飲ます。そしてミツバに再び抱きつくように手を首に回した。
しかしミツバとて腹の大きい妊婦。負担になるのは目に見えていて…。

それを見かねた銀時がミツバと変わる。神楽はふらふらと銀時の首筋に手を回し、鎖骨のトコに頭をぴたりとくっ付けた。そして痛みが襲うとその手を強め、半ば抱きつくように痛みを逃がす。
銀時は手の腹で涙を拭ってやり、何も言わずに頭をぽんぽんとしてやった。

「男はああ言う風に大きくないと…」
お妙が指すほうには、神楽と銀時が居て、それを見た総悟は少しふてくされたような顔をした

それに気付いた銀時が総悟に手招きをした
そして、神楽のてをやんわりと剥がした。視線をあげた神楽は総悟の顔をみると、その剥がそうとしているからだに、もう一度ぴたりとくっ付いた。

しかし総悟は、ココではイラつきもせず、ただ銀時の首からやんわりと神楽の手を離し、自分の肩にへと持ってこさせる
神楽はちょっと躊躇したようだったが、おずおずと肩にしがみつく
そして痛みが襲ってくると、その手に力を入れた

「ぅう… … … … … …」
一言苦痛の声を漏らした後、その声を漏らさぬ様に、ただ黙って陣痛に耐えていた。

神楽の頭を右手で包み込むように抱く。
「痛いなら…痛いって言ってかまわねェから…」
そこで言葉はきれたが、その思いは神楽にちゃんと伝わったらしく、よりその体を総悟に預けた

「ぃたぃ…痛いよぅぅ…総悟いた〜いィィィ」
部屋中に、神楽の声が延々と響き渡る。その背中を抱かかえる形でさすってやる
全身は汗でビッショリ。その顔はまるで運動をしている様に、朱色に淡く染まっている


部屋の中には、コレだけ人数が居るが、汗を掻いているのは神楽ただ一人…
触れている神楽の温度が熱く、やはり大変なんだと改めて思い知った総悟だった
耳元で、大丈夫だ…頑張れとつぶやく。その低い声が神楽にとって心地よく
そのお蔭かすこし落ち着く事が出来たのだった。

新八は、和むような視線を銀時に向けた。やらやれと銀時は項垂れる。
こんなに大勢部屋に居ても仕方ないからと、二人をのこして一度下の売店にでも行こうかとの声。
総悟は、出て行こうとする銀時を呼び止め、おもむろに財布を投げ、売店でありったけのデザートと水分を買ってきてくれと声をかけた。
銀時は
「じゃ、銀さんのも買っちゃいまぁぁす!」
と上機嫌で売店へと向けた

総悟は視線を神楽に戻すと、またもや腰をさすり始める。
肩に置かれていた神楽の手は、腰へと回される。そして痛みが襲ってくるとその服をぎゅうと握り締め、声を出し痛いといい続けた。

そんな神楽の神楽を優しく包み、ひたすら頑張れといい続ける。
しかし、その頑張れが神楽にとって非常に嬉しく、本当に頑張ろうと言う気にさせてくれるのだった


そうこうしてると再び進行してるかを見るために診察室に呼ばれる。
重いからだを引きずるように、足を向けた、。歩く途中途中でも襲ってくる痛みにそのたび足をとめ、総悟の肩に体重を預けるように陣痛を凌いだ…



……To Be Continued…

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