act 14

午前10時30分
午後から、癪だが土方の家と合同で引越しをする手筈になっていた。総悟、土方は非番を貰い、
妊婦が二人も居るため、新八、銀時は勿論、近藤、お妙、合間を抜けて山崎が手伝いに来る予定になっていた。

その予定に間に合うようにと又朝早く神楽が屯所を訪れ、寝ている総悟の上にどかっと乗った
重くて、苦しくて目を覚ますが、予想は付いている。さほど今日は寝不足と言う状態ではないため、スムーズに起きる事が出来た。

又もや、外で朝食をとの無茶振りに、却下を総悟は決断し、二人して屯所内で朝食を済ませた




.....



「総悟!コレ!コレが可愛いアル」
「あぁ…。てかどれでもイイから早くしてくだせェ。ジロジロ見られて落ち着かねェや」
「今日は絶対嫌アル。まだ赤ちゃんの物何も買ってないアルヨ」
神楽は総悟の手を引き、ベビー服を漁る。緑、黒、水色…。漁ってはカゴに入れを繰り返す
総悟はそのカゴの中を覗き込み、口を開いた

「男の子なのかよ」
「へ?ううん。まだ聞いてないアル」

じゃあ何でと口を開け様としたが、一度神楽が悩んで居た事を思い出すと口を噤(つぐ)んだ。
一方神楽の方でも、特に意識をした訳ではなかったのだが、心の深い悩みと言うのは無自覚で出てくるもので、まだ自分が吹っ切れていないと言う事に気付く
お互いに沈黙が流れたが、総悟が服を探した事で沈黙は破れた

「コレなんかどうでィ。可愛いじゃねェか」
新生児のピンクの服や赤い服。
「あ…でもやっぱり」
躊躇した様に言葉を濁した。
自分に似ているかと言うだけで、性別までは分からないが、どうしても女の子なら桃色の髪。
もし男の子ならばキャラメル色の、総悟の色の髪の子が産まれると考えてしまうのだった

「俺はおめーに似たガキがいいっつってんだろィ」
真正面から神楽を真剣に見つめ言葉をだした

神楽はコクンと頷き、総悟からベビー服を受け取りカゴに入れた
しばらくは、自分が服を見るのを止め、カートの側で立っている事しか出来ず、総悟が女の子用の服をどうかと聞いても、ゆっくり頷くだけだった

シュンとなったのが目に見えて分かったのか、神楽の手を引き、一度ベビー服から離れた
「他にも買うものがあるんだろィ」
気を使ったのか、そういった声色はいつもより4割程甘かった
その声に少し安心した神楽は、気を取り直し、オムツや石鹸などを一つ一つ総悟と回る
そんな様子を、店員達は、羨ましそうに見る。

二人してしっかりと絡めた手に、いいなぁと思わず声を漏らした…。

一応チェックしてきたとは言え、まだまだ分からないものも沢山ある。手で触って、目で見て、一つ一つカゴに入れていく。ベビーベットに布団。頭上のオルゴール。
あっと言う間にカゴは一杯になる。神楽の顔も次第に明るくなり、いつもの調子を取り戻していく

会計を済ませ、重いため、荷物を家まで運んでもらうように手配した

(いっそ車も購入しちまうか・・・)
総悟の脳裏にふと浮かんだ考え。どうせ居るようになるのは目に見えている
ならば土方より先にと考えた。が、しかし、そんなにポンポンと購入していればさすがの神楽も雷を頭上から落としかねないと考え、日を改める事にする

万事屋から、歩いても20分程で、『家』に付く。此処からでもそう遠くは無いが、神楽も、もう9ヶ月。
さすがに歩くのは辛いだろうとタクシーを使って新しく住む自分達の『家』へと足を運ばせた






........

「神楽ちゃん、予定日はいつなの?」
ダンボールから荷物を出しつつお妙が口を開いた
お妙の隣に居るミツバも興味津々で神楽の顔を見る。神楽は少し照れながら口を開いた

「クリ…スマスヨ」
お妙とミツバはキャーと声を出す

「素敵じゃない!」
「ロマンチックねぇ」
これは本当に偶然だが、うれしい事だった。先生に聞いた時、思わず飛び跳ねた。
ただ、予定はあくまで予定だから何とも言えない。総悟にもクリスマスに近いと言う事しか言ってなかった
しかし、やっぱり口に出すと嬉しいもので、感情がむずがゆく幸せに満ちてくるのが分かった
もし、クリスマスに産まれる事が出来たら、大好きなイベントの日に、大切な贈り物が届く。そんな素敵な事ってない…

でもきっとその日は、慌しくて、クリスマス所じゃないだろうなぁ…。思わず想像して、微笑を見せた

思い荷物をミツバの家から、男共が協力して運ぶ。その際に怪我でもすると危ないからと言う事で神楽の家にミツバも来ていた
雑談に華を咲かせながら、先に運ばれた神楽の荷物を整理していく、といっても荷物なんぞ殆ど無いのが現状で。
総悟の荷物も量的には、多くはない。

後は、総悟が購入した冷蔵庫や洗濯機などの生活品が運ばれるのを待っている
ヒラヒラと飛んでいくお金の嵐に、初め神楽は冷や汗を掻いていた。あまりにも自分とは違う金銭感覚。
考えると落ち込みそうなので、途中から考えるのを止める。

窓の外からは、騒がしい声が聞こえてくる。土方のいつもの怒鳴り声。総悟の馬鹿にする様な台詞
銀時が面倒くさそうに話し、新八が突っ込みを入れる。そして近藤が笑う。もしくは泣く

こんな日常、楽しみで仕方ない。きっと、きっと毎日が楽しくて、幸せで仕方ないンダ。
騒がしくて、煩いんだけど、きっとそれは私の大事な形。

外の声が耳に付いたのは神楽だけでは無かったようで、その目がかち合うと、思わず3人して笑った
その目にはそれぞれ幸せが浮かんでた…。




「神楽ァ、飯にするぜィ」
リビングの戸を開け、総悟が入ってくる。
その後ろからは、荷物を運び終えた皆がぞろぞろと入って来た。
いつの間にかザキも居たらしく、総勢で大の男6人と女3人がリビングに集まるが、それでもやっぱり広くて驚いた

スーパーのビニール袋から、適当に買ってきた食料がドンドンと出てくる
お弁当、パン、ス昆布…。いや、ス昆布は神楽限定だが…。さっそく始まるのが土方と銀時の取り合いだった。
どうにもこの二人が絡む事はいつも子供っぽくて仕方ない
コレは、俺ンだ。いや、俺のだ…。低レベルの戦いを繰り広げている中、皆は、いつものが始まったと無視をして食べる。

比較的お互いの荷物は運び終わった。後は大きな家具や、洗濯機などを店までとりに行く事のみ。しかしコレが一番大変だったりする。

「ちょっと食べ過ぎたアル…。」
誰よりも食べていた神楽が案の定、腹が痛いと言い出した。
そりゃアレだけ食えば、痛くもなんだろうよ…。総悟を含め皆そう思ったが、あえて口には出さず表情のみで抑えた

その場で、ゴロンと横になると、言ってはいけない言葉を口にした奴がいた

「ナンか…トドみたいですね…」
ポツリと言ったのは、山崎だった。殆ど無意識にでた言葉だったのだろう。言った後顔を真っ青に買えて、冷や汗を額から噴出させた。
「いいい今のは…いや、違います。口からポロッと。いや思って何か無いですよぉぉ!!」

言葉と同時に銀時、総悟から頭をしばかれる。この際それはどうでもいい。自業自得だから。
それよりも気になるは神楽の表情。寝転がっていた体を起し、座ったまま何も言わずその顔は明らかに拗ねていた。
実は神楽もそう思っていた。たまたま鏡に映ったお腹が大きくて…。
お腹だけが出ているのであって、体重の増加も心配することもないし、太ってもいない…。がそれでも気になるのが乙女な訳で…

土方さえ、山崎ィィィ!!などと目を吊り上げている。近藤、新八、ミツバは、神楽を慰めることに全力をかけている
お妙は、後ろにブリザードを纏い、氷点下の視線でザキを見る

「あのね、今は仕方ないんだよ?産んだら元に戻るんだからね」
「大丈夫。神楽ちゃん、とっても可愛いわよ」
「そうだぞ、いくら今トドみたいだからって…」

「フォロになってねェだろうがァァァァ!!!」

最後の台詞を口にした近藤に、銀時、土方の飛び蹴りが入った
地を這うようなうめき声の近藤を捨て、神楽の表情を見ると、ホッペを大きく膨らませて、まるリスみたいになっている。
その頭からはしゅーしゅーと音を立てているが…。何と言うか、可愛らしい…。トドじゃなくて、どちらかと言えば小動物的な…
そう思ったのは転がっている死体二つ以外、全員。

顔を見合わせ、くしゅっと表情を崩させた。総悟が神楽の頭をわしゃわしゃとするが、まだ機嫌はなおらないらしく、しかしそれが又可愛いなんて言える筈もなく…

この小さな小動物を囲って、思わず皆で笑った。



.....

「山崎の馬鹿と、近藤さんの言葉真に受けて、ダイエットとか頼むからすんなよ」

「分かってるアル、でもお腹が出てるだけで、後は何処も…」

「俺は何も言っちゃいねェだろィ。気にすんな」

じゃあな、と言うと、銀時らが待つ車へと乗り込んだ
腹ごなしも済み、一服した後、コレからが本番だと買った荷物を取りに行くことにする
なんせ二家族分。先に神楽の家の物を…。その後に土方の家の荷物をと…。
大きい物なので、恐らく何往復かを強いられると思う。勿論神楽、ミツバ、お妙は家で再び荷物の手ほどき。

まだちょっと拗ねている神楽だったが、いつまでもコレじゃ悪いと思ってるのも事実で…。

部屋に戻ると、優しく迎えてくれた瞳に神楽は安心する



神楽の荷物を大分出し終わり、後は大きな家具が届かない事には話が進まないと、ミツバの家に移動する
神楽の家とはやはり内装が違うらしく、神楽はハイテンションへと変わる。
大きな庭先。綺麗に咲いている花。リビング、お風呂、キッチン、二階…。
キャッキャとはしゃぐ神楽に目を細め、ミツバ、お妙は見る

ドタバタとかけていたため、ゼーハーといいながら神楽が戻ってきた

「もう、神楽ちゃんたら」
「大丈夫?」

先ほど食べた所為もあり、お腹がキューと張る
「アタタ…。お腹が張ってきたアル…」

「ほらみなさい、横になって…」
お妙が座って、自分の膝の上に神楽を寝転がす。神楽はふふといいながらその感触に気持ち良さそうに目を閉じた

「痛たた…本当に動き過ぎたネ。総悟に怒られちゃうヨ」
神楽の言葉に、ミツバとお妙はくすりと笑う

「知らないから。神楽ちゃんは走り回ってたって正直に言っちゃいますよ」
イタズラっぽくお妙は言うが、返答は無い。
神楽の顔を覗き込むと、額に冷や汗を掻いている。
「えっ!ちょっと神楽ちゃん…」

声を出さないが、その顔を見たお妙とミツバは顔を見合わせた。
「大丈夫アルヨ…」
神楽の顔に精気が戻ると安心した二人だったが、またすぐに神楽の顔は引きつった

「痛タタタ…。うぅ〜また痛くなったネ」

先に真顔になったのはミツバだ。
その顔のまま、お妙を見た。
「まさか… …」

「「陣痛…」」

二人の声色が重なった。その言葉を聞いた神楽は冷や汗を又吹く

「嘘…。だって予定日…」
呼吸がしやすくなったので、お妙の方を見るが、お妙は時計をチラリと見て、神楽の方に顔を戻す

「痛くなったら言ってちょうだい」
間も無く神楽の顔が引きつる。真っ青になったのは二人同時
「お、沖田さんに…」
手に持っている携帯をすぐに取り出し、番号を押した所でお妙が口を開いた

「携帯…全部置いて行ってる…」
指した指の先、引越しの邪魔だからと置いてかれた携帯の山が玄関先に見つかった

「あぁぁあ!!い、痛い…」
さすがの妙もコレには焦る。焦るあまり思考が付いていかない
痛みが増したようで、浅く、浅く呼吸をす神楽を見て、お妙とミツバの額にも冷や汗がじんわりと湧いた

「か、神楽ちゃ…どうしよう…」
痛がる神楽、慌てるミツバ、お妙。何故携帯を誰一人持って行ってないのかと心底恨む。
その時、皆に聞こえるように音が鳴った。まるで水風船が割れる様に…パンと…。

「「は、破水!!」」
股の辺りから、流れてくる羊水…

「きゅ、救急車…」

慌てるあまり、携帯を落としてしまう。それを拾い上げ必死にボタンをおしたトコで、視界に入った物
カーチェイスの様に銀時と土方のトラックが入って来た
キキィィと両者同時に止まり、俺の方が早かった。いや、俺の方が!!と罵り合っている。

お妙が駆けたのは反射的だった…

玄関のドアを勢いよく開ける
「神楽ちゃんが…!!」
血相変えて走ってきたお妙に、総悟、近藤は勿論、襟首をお互い掴み、ド突き合いをしている銀時、土方も顔を向けた

「神楽ちゃんが…破水しちゃったんです!!」

全ての動きをピタリと止め、そのまま双眼を開き、立ち尽くした



……To Be Continued…

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