act 13

寒くなってきた季節、大きなお腹を掴んで、通りの道をゆっくりと歩いて行く
隣には、沖田。横にチラリと視線を送ると、あかね色の瞳を細く、微笑んだ。
込み上げてくる気持ちを必死に隠すが、体から溢れてくるものまで止められるはずも無く、ちょっと唇を噛んで見るけど、その痛みまで幸せへと変わって行く。
繋がれた暖かい手から、トクントクンと優しい音色が体を満たす

照れ隠しのつもりで、ぎゅっと握っては見るけれど、そんなの幸せの形をより表面に出させてしまっただけで。
二人の周りだけ、幸せの甘い匂いに侵される。それはきっとキャンディみたいに長く味わえて、チョコレートより甘い。

ちょっとずつ、自分の歩幅に合わせてくれていると言う行動が嬉しくて、意地悪くちょっとゆっくりに歩いてみたら、すぐに気付いて、歩幅を合わしてくれた
何も言わないけれど、そのあかね色が私を心配そうに見つめた。
あたしの空色が、そんなオマエノ顔を綺麗に映し出して。

ねェ。今あたし…すっごく幸せなのヨ。きっとそれオマエのおかげナノ。
瞳に映し出される景色が色づくのは、きっとあたしが幸せだから…温度が心地いいのはオマエの事大好きだから…

寒くても、オマエに引っ付いていれば大丈夫。だって体温の中にとっても素敵な気持ちが一緒についてくるンダヨ。
ポケットの中に一緒に重なった豆だらけの手が愛しくて、とっても誇りに思ってる
この豆一つ一つに、今までの積み重ねた物が詰まってて、そんな手で包まれる私、嬉しく無い訳ないデショ?。
きっと、オマエにとって、この一つ一つが宝物…。でもそれは私にとっても宝物。
決して綺麗じゃないけど、綺麗で…。キラキラ光ってないけれど、どんな手より輝いて見えるノヨ。

吐く息が白く変わる。その息は空気に触れて、ふわりと溶けた。それが面白くて何回も何回も息を吐く
そしたら、面白そうに鼻を掴んだ。もともと寒くて赤くなってるのに、そのてっぺんが、もっと赤くなった
オマエ、ぶっさいくなんて言いながら笑ってるノ。まったく…どんな顔して言ってるんだか。

きっと世界中探しても、そんな顔を見れるのは居ないヨ…あたし以外は…。



こんな幸せな時間…なんなら永遠に続いてもイイヨ…
なんて幸せに語ってみてたら、其処にたどり着いた…

「此処でさぁ。いい家だろィ」
ちょっと照れたように笑って、その家見上げた

「本当に此処アルカ?だって万事屋より綺麗アル…」
口をポカンと開けて、ただただ目の前の光景に見入る
そんな神楽を見ては笑う

「基準がそこかよ。中古で悪りィな」

神楽は、首をブンブンと大きく振る。その後、赤くなった鼻を沖田に向けて、嬉しそうに微笑んだ
グレーの建物。二階建てであり、子供が遊ぶにはピッタリの小さな庭が付いてある。きちんと手入れをされており、春が来る頃に花を咲かせればそれだけで映える景色になりそうだ。

神楽は嬉しくて、すこし息を弾ませながら、沖田の手を引く
門をキィと開け、その雰囲気に足を踏み入れた。まるでそこは別世界の様に感じられる。
ここに自分が住むなんて、イマイチ実感沸かなくて、心臓から聞こえてくる甘い音だけが正直で…

ゆっくりと開けた家のドア。何かぜんぜん違うくて、信じられないけど信じたくて、やっと今実感が出来た…






......


「相談しなかったのは悪かったが…実は家を買ったんでさぁ」

突然言い出された話に、屯所に遊びに来ていた神楽は、食っていた饅頭を思わずポロリと落としたまま、固まってしまった。
「はん?い、家?」
「家」
「いつ?」
「先週」
「何処で?」
「万時屋から、あまり遠くねェ所でさぁ」
「誰と?」
「誰と?何でィ、俺ァテメーとゲームしてんじゃねェ」

「だだだって…。何で相談…。てか本当に本当カヨ。」

「こんな事嘘ついたって仕方ねェだろうが。丁度いい家が売りに出されたって話を近藤さんから貰ったんでさぁ。ガキも産まれるし、いつまでも別居してるのもおかしな話だろィ。丁度土方の野郎が家を買うっつってたんで、話しに乗ったんでィ。」

まだ口をパクパクと信じてないらしい
「家なんて…そんな簡単に買えないヨ」

「ローン組みゃそう大した金額じゃなかったんでさァ。一人で決めて悪りィとは思ったんだが…」
ここまで話した所で、神楽の顔色を伺うようにじっと見つめてきた
しかし、神楽の方はまだ実感が沸かないらしく、ポカーンとしている。転がった饅頭をそのままに。

神楽に相談するかと沖田は迷ったのだが、綺麗な家で、すぐに売り手が付くと言う話を聞き、即決した
上手く口車に乗せられた様な気もするが、確かに文句のつけようがない程いい家で、築数も浅い

兄弟で会わせて購入したのだが、実家の仕事の関係で兄側と弟側、二家族ごと田舎に引っ越す事になったとか。
たまたま兄側が近藤と知り合いだったので、所帯をもつ二人が居ると聞きつけて話を持ちかけたのだ

ただ、沖田にとって誤算なのは…土方と隣同士な家だと言う事
しかし、購入したのは土方の方が一日早かった。近藤が、先に話を持ちかけたのが土方だったのだ。
弟側の、真っ白な家をミツバが大層気に入り、土方は即決した。沖田の買った家同然、同じように庭が付いており、家自体は沖田の方が大きいが、ミツバが気に入ったのは、この庭だった。広く面積を取られており、弟側の嫁が綺麗に花を咲かせており、緑もよく映えた庭先だった

土方が隣だと言う事で、相当不満だったが、しかし、土方が隣だからと言って止めるのは癪だったのもあり、決めた。

隣同士だと分かった土方の顔。チーンとしそうな音をならし、固まった
土方と隣同士なのは気に食わなかったが、姉のミツバと家が近いのは神楽のタメでもあり、安心したのも間違いではない。

やっと意識がもどった神楽に、見に行くかとの言葉。神楽は怒るところか、華を咲かせたように喜び飛びついてきた。
早く行こうとの声に、安堵した自分が居て、それと同時にこんなに喜ぶとは思わなかったのも本当で、思わず顔をほころばした沖田だった






「広い!広いアル!!総悟凄い!偉い!とっても大きなプレゼントアル!」
玄関を抜け、広いリビングを大きく手を広げ、クルクルと回る。あんまりはしゃぐと転ぶぞとの声にも笑顔で返す神楽。
対面式のキッチンに、和室。大きなお風呂にトイレ。
次々にドアを開けて、歓喜の言葉を漏らす。次は二階だと総悟の手を引く
広々とした二階の3部屋を次々に開け、興奮は高みにへと近づく。きゃぁきゃぁと一人はしゃぎ、かと思えば総悟の手を引き、二人部屋を探索する。そんな神楽を終始穏やかな表情で総悟は見つめる

ベランダも広く、下の庭を見渡せた
此処に住む…考えただけで、ハートから嬉しい音が聞こえてくる。早く、高くリズムを刻み体ごと嬉しいって言ってる気がした
お腹の子供も一緒に喜んでる気がした。そして肯定するように、ボコッとお腹の内側から可愛らしい合図を送ってきた。
思わず微笑んでお腹をさする。
「良かったネ…パピーが買ってくれたんダヨ」
目を細め、語りかける。その神楽の手にゆっくりと総悟が自分の手を重ねた
ふふっと笑う

「ご褒美アル」
そういうと、総悟のホッペにちゅっと音を鳴らす。柔らかく頬を染め、口を付けた跡は淡くぴんくに染まる
沖田は照れ隠しにそっぽを向くが、その手だけは正直で、細く白い手に絡められた

二階のベランダから、産まれてくる神様からの贈り物…。
大事な大事な赤ちゃんと遊んでいる姿をお互いに庭先で見つけて、その光景はとってもキラキラきらめいて、誰よりも幸せそうで、二人して思わず笑みを浮かべた


……To Be Continued…

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