act 12

そろりと忍び込む病院内。面会時間もクソもない。こんな時間・・
看護師に見つからないように歩く。正直こんな事はお手のモノだ

看護師が居ない事を確認し、静かに神楽の部屋を開ける
開けたとたん、神楽の匂いが部屋中に満喫していた
逢わなかった分、余計にそれは感じられた

ふと、まだ神楽と別れてた時の事を思い出した
あん時ほど辛いモノなんてなかったな・・
それに比べりゃ・・そう思うが、思いが通じているからこそ恋しいと言う事もある

若干自分の方がその思いは強いみたいだが、それはこの際どうでもいい。
電話をすりゃ、嬉しそうに話す。メールをすれば、息つく暇も無く返信されてくる

手を繋げりゃ頬を染める。抱き締めてやれば体を預けてくる。唇を重ねてやりゃ体がシなる。
笑いかけりゃ、笑い返す・・

それだけで十分じゃねェか・・
一人で納得し、笑った。カーテンの奥に入ると、あの時と同じように、オレンジの光が、神楽の顔を淡く照らしていた

ベットの側にあった、椅子に腰掛ける
長いまつげ、ぷるんとした唇。淡くそまる頬。柔らかい髪。無意識の内の笑み
思わず触れた頬の柔らかさ。そこからずらし、親指の腹で下唇をなぞる。
堪えられるはずもなく、そのまま顎に手を置き、自分の身を乗り出す・・

そっと重ねられた唇。長く感じることの出来なかった体温と甘さが、体に浸透していく・・
長く、重ねるだけの唇。名残惜しくも離す。あの時と同じように頭をそっと撫でる

ふと視界に入ったモノ、それは神楽の手の中に握られていた
(握りながら寝てやがる・・)
思わず笑みを漏らしながら、そっとその携帯を手からやんわりと離す

不意にボタンを押してしまい、液晶が光る
その待ちうけ・・・・いつ取られたか分からないが・・自分の横顔だった。
思わず唖然とした。確か神楽の携帯は、万事屋で取った銀時、新八、定春との写メだった

いつ変えたのだろう・・。普段恋人であろうが他人の携帯を触るのは趣味ではない
ただ、何となく、押した。別に意味はない、殆ど無意識だったから
ピッピッとボタン音が病室に響く

着信は、自分のモノや、実に様々。新八、銀時、妙、ミツバ等・・・
発信もしており、同じく名前が並べられた。しかし、そこには自分の名前はない。
思わず自嘲じみた笑みが出た。しかしそのままピッピと押していき、その指と表情がかたまった

未送信メールの数・・・・
あて先は全て自分宛・・・。思わず開いた・・。
目は見開き、思わず次々へと開く・・・

「何してるノ?少しは仮眠とらなきゃ駄目ヨ」
「お仕事ガンバッテ!」
「退屈〜」
「少しでも逢いに来れないアルカ?」
「ねェ・・逢いたいヨ」
「総悟大好きヨ!」
「今、お腹動いたアル・・」
「もうずいぶん顔見てないアル・・逢いたい・・逢いたいヨ」
「少しでもいいから、一分でもいいから逢いに来てほしいなんて・・我侭言ってもイイアルカ?」

今見ているモノが信じられない・・
(こいつも・・逢いたかったのか?)
自分ばかりと思っていた事が、相手もそうだったのかと今気付く・・。

淡い液晶の光、ボタン音・・・ゆっくりと神楽の瞼は開かれた・・・
「そうご・・?総悟!」
寝ぼけ声から一転、その名前を呼ぶ声は大きくなった
体を布団から素早く起こし、こんな夜中、来るはずもないと思っていた自分が其処に居た事
信じられない・・でも、前にもこうゆう風に来た事があったこと・・だから本物だト思うことが出来た・・。

開かれていた蒼い瞳は、瞬く間にうるうると水を帯びる
整った顔が、くしゃりと崩れる。唇を震わせ、下まつげに堪る涙・・必死に総悟の服を掴むその手は、離さないと震えていた。
思わず身動きが取れなかったのは総悟の方。

思いお腹ながらも体を起し、素早く自分の名を呼びながら袖を掴むその手。
下唇をきゅっとかみ締めながら、堪えようの無い涙を、それでも必死に流すまいと耐えている様
全部、自分の早とちり。逢いたくない訳じゃなかったと安心できたその思いと一緒に溢れてきた
どうしようもなく恋しい気持ち、触れたいと言う願い、思わず震えそうな手で、そっと頬に手をやった

思いが切れた様に、涙が堰を切った・・・・・・・・

「総悟〜〜〜!!!」
出っ張るお腹ごと、飛びつくように自分へと抱きついてきた
胸へと顔を押し付けるように泣き続ける彼女に、思わず動けなかった自分の体
ピクリと指先が動くのを感じる事ができ、そのまま強く抱き締めた
「逢いたかった・・。逢いたかった・・。」

涙混じりに聞こえる声・・。
柔らかな桃色の髪の中に手をやり、抱き締める

ただ・・・我慢してただけ。  ただ・・・イイ子にしてただけ・・。

「何で・・。何で言わなかったんでィ・・言やぁ、ちゃんと、ちゃんと・・」
「っ・・・・仕事頑張ってる総悟に我侭なんて・・」

ば・・かやろう・・・・。
「誰に我侭言わなくても、俺にだけは甘えやがれ・・誰にも我侭言えなくても、俺にだけは我侭を言えばいいじゃねェか・・それが、誰でもない神楽なら・・俺ァ喜んで聞いてやる。喜んで甘えさせてやる・・。柄にもねェ事すんじゃねェよ・・我侭はテメーの十八番だろうが・・」

抱き締められた腕の中、その温もりはとても暖かくて、愛しくて、宝物で・・離したくない。そう思おうのは二人ともで・・。
うん・・うん・・って泣きながら、でも幸せそうに、顔あげて、微笑んだ
「離れたくないアル・・」
「あぁ」

「少しの時間でもいいから毎日逢いに来てヨ」
「あぁ」

「電話は朝、昼、晩の三回は絶対アル」
「・・あぁ」

「メールは毎日50通は送る事」
「・・・・・」
「返事わァ?!」
「・・あぁ」

「一日一回は・・キスを届けに来る事・・・」
見上げる総悟の顔。ふっと笑う
「お安い御用でさぁ・・・」

    ・
    ・
    ・
    ・
「おやおや・・・どっから偲びこんだのやら。面会時間はとっくに過ぎてるんですがね」
見回りに回っていた神楽の主治医。薄く開いた神楽の病室から、漏れる声。そっと覗いてみれば
互いに愛しそうに、口を重ねる二人

柔らかく微笑み、その隙間をそっと閉めた
「一生懸命一人で頑張ってたからね・・今日は特別だよ」



帰らないでと言う神楽に、屯所で待つ資料の山
せめて寝るまで側にいてやると言う総悟。せっかく居るのに勿体無いからと寝ない神楽の頬をそっと撫でてやる
名残惜しいのは自分も同じ。離れたくないのは二人とも。
思いが通じるからこそ、それは膨らんで、愛しいモノとなって・・・・・


ゆっくりと目を閉じ、寝息を確認する事ができ、そのきつく握られた手をゆるりと離す
その手を布団の中にへと優しくやり、そしてあの時と同じように頬に手をやり、柔らかい唇に自分を重ねた
そして、サラサラの髪に指を忍び込ませ、撫でる・・。
そして、淡く光るその光を落とし、真っ暗になった部屋から出て行く

ベットに横たわる、女の顔、暗闇の中歩く男の顔、暗くて見えなかったけど
でも、その顔は、どちらもとても幸せそうだった



……To Be Continued…

作品TOPに戻る






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -