act 11

「神楽ちゃん、どのケーキ食べる?」
反り出たお腹をよいしょと立ち上がり、神楽の居るベットまでケーキの箱を持って行く
中には、チョコレートケーキ、ショートケーキ、モンブラン、プリンアラモード・ミルフィーユ など、見ただけで、目の保養になるものがぎっしりと詰まっている。

神楽は目をキラキラさせ、とりあえず一つ、どれを一番に食べようかと悩む

ミツバは、土方に送ってもらい、あの一件以来、結局入院生活を強いられた神楽の元に来ていた
しかし、あの神楽の運ばれた病院ではなく、いつもの神楽の通う病院だ
一週間ほど、あちらの病院で入院したのち、やはり遠いからと言う理由で、通い先への神楽の主治医と相談し
体に負担をかけないように運びながら、コチラの病院へと移ったのだった

運ばれる道中。沖田はずっと神楽の手を握っていた。
万が一車の振動で負担がかかると危険なため。そんな沖田の気遣いが神楽には本当に嬉しく、心強かった

.......

「おいし〜〜アル!」
ショートケーキを、フォークで指しぱくりと食べる
あまりいつもみたいに食べれないので、その触感、甘さ、ゆっくりと味わう
「ミツバ姉も、お腹大きくなったアルナァ。お揃いアル!」
「ふふ。本当ね、でも神楽ちゃんのお腹は、本当に大きくなったわ。もう8ヶ月ですものね」
「ミツバ姉こそ、6ヶ月アル!楽しみアルカ?」
「ええ。とっても楽しみよ。どんな可愛い赤ちゃんが産まれてくるのかしら。十四郎さんににた赤ちゃんがいいなぁ」
「絶対ミツバ姉を、推薦するアル!あんな無愛想な子が・・」

「誰が無愛想だ!人が居ないと思いきや悪態ばかりつきやがって」
ミツバとのガールズトークに華を咲かせてる中、聞こえてきた渦中の人物の声

「トッシー!」
土方は、隊服のまま、時間をぬって、こうしてお見舞いに来てくれていた
本当によく・・
その理由は他にもあるけれど・・

「総悟は・・忙しいアルカ・・?」

近頃、総悟の受け持つ仕事が特に忙しく、電話やメールは頻繁にかかってくるものの、中々神楽の見舞いに来ることが出来なくなっていた。それこそ睡眠時間さえ削って仕事をしてるらしい。
頑張ってる総悟に、我侭なんか言いたくもないし、メールでこまめに連絡は取れる
だからまだ我慢できた。寂しくないよう、色んな理由をつけながら、土方も近藤も、山崎まで来てくれている

勿論銀時、新八、お妙はゆうまでもない。
新八はあいも変わらず、来ては神楽の世話をお母さん並みにし、穏やかな雰囲気を作り上げていた

「あぁ・・」
簡潔に一言。やはり相当忙しいらしい。
そっか・・神楽は笑顔で言った。一瞬土方が、すまねェな・・そう言うと、神楽は大丈夫と微笑んだ

........

「あぁ〜〜〜〜!!ふざっけんな!ナンなんでィ、この忙しさ!俺を殺す気かコノヤロー」
涼しげな秋空、大分日も短くなり、空はもう暗い
隙間から入ってくる秋風に、思わず目を瞑れば、そこから睡魔が襲ってくる
目頭を強く揉み、頭を振った

目の前に積み重ねられた、今日までの提出期日の山。
バタンと手足を畳の上に流す。逢いたい・・そう思う心は強くなる一方なのに、
どうしても総悟ではないと駄目な案件が重なってしまっている。自分の私情だけではむやみに動けなかった
そうでなくても、総悟は神楽の件で一度、隊長会議を放棄しており、その会議も総悟が居ないと始まらない物だった
その積み重ねが、ずどんと来たのだ。身動きが出来ない。

はぁぁとため息を付き、携帯に手を掛けた

「もしもし・・・」
「総悟!」
携帯のコール音、一回で取られた電話、向こう側で、息を弾ませているのが分かる
勿論携帯だから表情は見えない。だからこそ総悟は顔を緩ませた

「体はどうでィ?平気か?」
「大丈夫ネ!言いつけも守って、殆ど退屈だけど、動かないアル。総悟こそ・・大丈夫アルカ?」
「うん。俺死にそう・・」

思わず神楽の方から、笑い声が聞こえる。
他愛もない話し。どんな些細な事でも話す。それに総悟は耳を傾け、穏やかな表情で聞き入る

「それでね・・それで・・・・ゴメン。話してる時間があったら寝なきゃ駄目ヨ。睡眠取れてないんダロ?」

揚々と話してた神楽が一変、語尾になるほどその声は小さくなっていった

「大丈夫でィ。只でさえ時間拘束されてんだ。電話の時間まで取られちゃたまんねェからな。そんな事心配すんじゃねェや」

少し沈黙が続いたあと、そうだね・・でも今日はコレくらいにするアル・・ちゃんと寝なきゃダメヨ・・そう言って電話を切った
(睡眠よりテメーの声聞いてるほうがいいっつーの)
携帯を持ったまま項垂れて、寂しさを紛らわすためにも仕事に取り掛かった…。


逢いたくて・・逢いたくてたまらなくて、でも言っちゃ駄目で・・。
だって、言えば来てくれるデショ?きっと総悟は来てくれる
だから我侭なんて言っちゃいけなくて、絶対言っちゃいけなくて。
声だって毎日聞ける。寂しくてもメールが出来る、なのにどうしても逢いたいヨ・・

この病院に入院してから半月経つ。逢えなくなって・・半月
お腹なんか本当に大きくなって、もうすぐ9ヶ月になるの。赤ちゃんだって大きくて、元気一杯動いてる
なのに・・側に総悟がいない。皆来てくれる、寂しくないように来てくれる、なのに寂しいヨ

顔が見たい、ホッペに触れたいヨ、ねェ。キスしたい・・

もうすぐ退院出来るんダヨ。そしたら又逢える。でも、今逢いたいノヨ

面会時間が過ぎると寂しくて、携帯睨んで、いつも手元に置いて、逢いたい・・言いたくなるの我慢するノ
電話だってかけたいけど、一度電話したら、丁度犯人か何か追っかけてる途中だったって後で聞いて
それからは邪魔になるのが嫌で、総悟からの電話を毎日待ってる
ちゃんと毎日かけてくれるんだヨ。でも一日一回の少しの会話。後は何回かのメール

メールだって、もし仮眠中だったらって考えたら、出来なくなった・・・

そんな事考えてたら、携帯が鳴った。すぐに取って、総悟なの確認する


「もしもし!」
思わず声が弾んだ。向こう側で小さく笑ったのが分かった

「まだ寝て無かったのか?もう消灯だろィ」
「子供じゃ無いネ。まだコレからヨ。」

電話口の向こう、笑う声が聞こえる。つられて私も笑った
相変わらず忙しくて、仕事の合間にかけて来てくれた電話。『あまり時間ねェんだ』。なんて言われて
この限られた時間で一体何話していいのか分かんなくなって、急に焦る

「何してたアル?」
こんな分かりきった質問してどうするネ!なんて自分で突っ込んで。
「仕事に決まってんだろィ・・ちょいと声が聞きたくなったんでね」
「・・・・・・・・」

ジワリ・・・あっ。ヤバイ・・今のこの私にその言葉はやばいヨ・・
ツンと鼻にくるモノ。大丈夫見られて無い。平然装えばバレナイ・・
黙ってないで、何か言わなきゃ・・時間ないのに・・いつ切られるか分かんないのに・・

分かってるのに、堪えなきゃ・・
逢いたい・・・逢いたい・・・・逢いたい・・・逢いたい・・・
思いはドンドン膨らむばかりで・・

ダメヨ・・・息吸って・・息吐いて・・・

「ちゃんと仕事するアル。私も総悟の声聞いて元気出たアル!」

・・・・・言えた。声だって裏返ってない。電話で良かった
電話口で笑った声聞こえて、安心して。又明日って切った、でも電話切った途端私の中の何かもきれた・・


「っ・・・ふぇぇぇ・・・逢いたいヨぅぅぅ」
切った途端涙溢れて、病室で一人なの寂しくて。
ちょっとダケ来て貰いたい・・でも、総悟の時間がもっとキツクナッテ・・。そんなの駄目アル。
あとちょっとダケ。ちょっとダケ一人で泣いてたら、すぐに退院できて逢いに行ける


そしたら、逢いに行って、目一杯抱き締めてもらう・・。
だから・・だから・・ちょっと今は我慢・・泣いても何でもいいから・・我慢・・。

出来るよネ・・頑張れるよネ・・頑張れ・・あたし・・。

........

イライラして、逢いたくて・・
でも、神楽は言わない。逢いたいと思ってンのは、俺だけ・・。
考えてみりゃ、神楽のトコには、誰かしら居るのは分かってる。入れ替わり、立ち代り人が出入りしてりゃ、寂しくもねェか・・。
大体電話だってメールだって、いつも俺からだろうが。
前はアイツからも来てたが最近はめっきり来なくなっちまいやがった

悔しいから、あいつからかけてくんの待ってたけど、ほんっとにかけて来やしねェ!
結局俺が最後はかけちまうんでィ

今日だってそうだ。結局俺がかけちまった
時間なんて無ェ。ちっとでも仮眠とっとかねェと後が辛い。そう思ってンのに、心が言う事きかねェ。
たった一言だっていい。あいつの声が聞きてェ・・。ちゃんと聞きてェ。顔が見てェ。
俺が折角声が聞きてェって素直にいってんのに、黙った挙句
仕事しろだァ?!分かってらぁ!ンナこたぁ!

あぁ!チキショ・・仕事が身にはいんねェ・・
逢いたいって思ってんのは俺だけ・・

屯所内、自分の部屋・・時刻は0時過ぎ・・
神楽を掴もうと、空虚を掴む。そこには何の手ごたえも感じられなくて、虚しくて・・。

逢いてェのは自分だけ・・あいつはちっとも・・ちっとも・・・

いいじゃねェか、俺だけでも・・俺が逢いてェんだから
寝転がっていた体をむくりと起す
音を立てない様に、ゆっくりと廊下を歩き、気付かれないように、其処を後にした


……To Be Continued…

作品TOPに戻る






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -