act 9

「ふぅぅ・・・・疲れたアル〜」

居心地の良い、畳の上に、体を神楽は寝そべらせた

「だから車で行けばいいって言ったんでィ」

神楽の隣に総悟は腰を下ろした

検診に行く神楽について行っていた総悟。あの日以来の検診。今日は7ヶ月検診だった
ほんのちょっと検診の日を、渋っていた神楽。それを先に見越してか、休みを取っていてくれた総悟
神楽は目を輝かせ、抱きついた。自分の知らないトコで、先回りして動いてくれている
フォローの達人である土方に、こんな所は、似てきた・・神楽は微笑みながらそう思った

あいも変わらず、みんなの視線を集める総悟。やはり気分はいい。
腕を絡ます。何も言わない総悟にますます口元を緩ませた

売店でジュースを買い、二人仲良く飲む
今日は、普通の検診日だけなので、女ばかりだ。しかし、総悟は動じることは無かった
ベビーショップは嫌がる対象なのに、何故ここは平気なのかが神楽にはよくわからなかったが、嬉しいからそのままにした

名前を呼ばれる。看護師に。パパも来てるなら、ぜひご一緒に中へとの声
喜ぶかと思った神楽の顔、ココに居ろとの言葉。こうなれば是非とも中へと入ってくる総悟

部屋を入り、すぐに看護師に呼ばれる

「じゃ、パパはココで待っててください。触診が終わりましたらエコーしますので、それを一緒にご覧下さい」
診察室の更に、小さい待合室。そこで総悟は待つことに
にっこりと笑う看護師。そして、神楽の名前を呼ぶ

「ハイ。じゃ神楽さんは、下着を脱いで、足広げて待っていて下さい。子宮口が開いてないか先生が触診するので」

固まったのは、神楽もだった。
勿論神楽は知っていた。前回の検診の時、今日触診をするからねと、キチンと言われていたからだ
どうにも、あの総悟が怒ってからの一件以来、この手の話しは避けていた。だから待合室で待っていてもらおうと思っていたのだ。いつもの様に看護師が言う、『下着を脱いで・・・』の台詞が出ることも把握済みで・・・


後ろを向けない・・・。


「ホラ!・・・さっさと行って来い・・」
確かにその台詞が聞こえた。声は間違うはずもない総悟。神楽は振り向いた

「ヒョ!!」
言葉が優しかったので、迂闊にも安心した。やっと分かってくれたのかと!
しかし、振り向いた先に見えたのは、邪悪な笑い顔。思わず神楽は声を出した。その完璧なスマイルを後ろに、オズオズとカーテンの向こうに消えていく・・・。
カーテンの向こう側から聞こえてくる会話

「神楽ちゃん、こんにちわ。」
小さい声でこんにちわと聞こえる神楽の声。クスリと先生が笑う。じゃあ、ちょっと触診させてね・・
ピクリと総悟の眉が動く。
うっ・・・んっ・・・
間違ってもコレは、喘ぎ声ではない。触診で、結構中まで強く触診され、思わず痛いこともある。それを絶えている声だ・・・少なくとも総悟には伝わらないが・・・・・

ヨタヨタとカーテンの中から出てきた神楽を、支える総悟。
その時、耳元で、後で覚えてろィと聞こえた声。嬉しいのか恐いのか分からない感情に神楽は襲われた
・・・・・
「嫌アル!絶対嫌ネ!」

「大丈夫だっっつってんだろうが。誰もオメーの腹なんざ見ねぇよ」

屯所、帰って来た沖田の部屋。神楽は後ろから軽快な音で、総悟をしばいた
総悟が、軽く睨みながらこっちを向いた。そんな事おかまいなしに、神楽は続けた

「100%見るアル!一生残るものだから、結婚式だけは、産まれてからにして、とりあえず籍だけ入れたいって言ってるアル!」

総悟は面倒くさそうに、頭を掻いた

「腹ぼての新婦の方が、よっぽど印象に残っていいだろうが」

もう一度、しばく。

「お前は女心というモノがぜんっぜん分かってナイアル!だからいつもトッシに負けてるアル。トッシーならちゃんと女心を汲んで・・・・・」

熱くなって話していた。だから総悟の表情が変わってる事に気づくのが若干遅れた
だから気付いて、すぐに言葉を止めた。でもそれはもぅ既に遅くて・・
口を噤(つぐ)んだ神楽

「そーかよ・・・」

そう言った総悟のその目、思わず背筋が冷たくなった。コレでも総悟の中では最大限に抑えている方だった
興奮させてはならない。神楽のお腹が痛くならないように・・。
しかし、その表情は、怒りと混ざって、少し悲しそうな表情にもとれた

思わず、神楽はしまったと思う。土方と比べられるのが嫌いな事は、もぅ十分承知していた事なのに・・

もともと、あの一件以来。本当に考えていてくれた総悟。
籍だけではなく、ちゃんと式をやろうと言うのは、十分女心を分かっている値に相する物だったと、今更神楽は気付く。
それを自分は、ドレスを、腹ぼてで着るのは嫌だから、と嫌がった

悪いのは自分。総悟じゃない・・

俯く自分の顔をあげ、謝ろうとした。

「あ、あの総悟・・・」

「悪りィ。ちょっくら出てくらァ、帰る時はゆっくり帰ェれよ・・・」

そういうと、神楽の横をすり抜け、部屋を出て行った
おそらくコレは、自分を気遣って逆に出て行ったのだと神楽は考えた

部屋に立ち尽くすは、神楽。酷いことを言ったのは自覚してる。すぐに追いかけて、ごめんなさい
そう謝らなければいけない。分かってる。でも、久々に見せた。一瞬の冷たい目・・。
脳裏に焼きついて離れない。単純に恐かった

追いかけて、袴の袖を引っ張って、振り向かせて・・その時に又あの目をされるのが恐かった
喧嘩になるのが恐かった
動けない神楽に、突如鳴ったのは・・・出て行く時に忘れていった総悟の携帯の着信音だった

ビクンと体を解放させ、携帯を取る。そこには知らない、番号。
首をかしげ、迷ったが、出てみることにした

「あ、スイマセン。沖田様でいらっしゃいますでしょうか?」

もしもし、と出た神楽に聞こえてきたのは、営業用の少し高めの女性の声
思わずハイと出てしまった言葉。

「ご注文いただいてました指輪の方が出来ました。お代金は先に頂いているようなので、いつ来られますでしょうかとお電話させて頂いたのですが」

指輪・・・・?
口を思わず開けた。
本当に、本当に自分は総悟に、何て酷い台詞をぶつけてしまったんだろう・・
こうやって、いつもちゃんと前に、前に先回りして、自分の事を考えてくれたのに
分かっていたのに・・・。
もっと言い方があったはずだと、総悟の気持ちは嬉しい・・・。

先にそう言えばよかったんだ。実際嬉しかったんだから
口をきゅっと結ぶ
そして、神楽は口を開いた

「あの、代理でも・・・いいアルカ・・・?」
....

「はぁぁ〜〜何で総悟は、こんな遠くで・・・」

重いせり出してあるお腹を抱え、休み休み、神楽はメモを見ながら歩く

教えてもらった場所。この辺りではないらしく、行き方を教えてもらい、電車を乗り継ぎ、降りた
財布には、僅かなお金。自分の貧乏さを呪う。
いつもツーカーの様に、総悟と一緒に居るため、自分にお金は必要ない。だから持ち歩かない。持ち歩く金も無い。どちらかと言えば後方の方が正しい

電車代も思わず高くつく。
涼しくなった9月。だからまだ良かった。傘を握り締め、ゆっくりゆっくり進む
何でこんな所まで総悟はきたのだろうか・・・

江戸にだって、ちゃんとあるのに・・・。

そんな事を考えてると、ぎゅるるとお腹がなる。考えた末、コンビニに寄って、おにぎり3つとお茶を買う
こればかりは仕方ない。腹が減っては戦は出来ぬ!そう意味もない事を考えながら、神楽はおにぎりをほうばる

街的には、江戸とそう変わらない。にぎやかな街、溢れる人。だったらやっぱり江戸でも・・
モグモグと食べながら考える。駅からは、すぐに近いと言われた
最後の一口を、あぐっと口にほうりこみ、口を動かしながら歩く

確か、左側・・・左側・・・

「アッ!!あった!・・・・ってココ」

見上げる程の建物。
大きなガラス窓の向こう側には、キラキラと光る宝石の数々
最近立てられたのだろうか、まだ新しい。それに、どうだろう、この大きさ。
少々不安になる。とても入れるような雰囲気の店じゃない。間違いではないだろうか・・しかし、メモに書いてある店と同じ名前・・・・・一歩踏み出す

スーと自動で開く。
思わず中に入ると、いよいよ自分が場違いな感じがする
色とりどりの、見慣れない宝石の所為で、目がチカチカとした
入り口の前に立ち尽くしていると、従業員の女性の一人が、神楽と目があい、優しく微笑みかけて来た

笑顔。ただそれだけだったが、神楽の心は、幾分落ち着いた
いらっしゃいませと微笑む女性に、電話での事をつげると、丁度電話をかけた本人であり、奥の座席へと案内された

「奥様になられる方ですよね」

女性の微笑みは、本当に柔らかく、ミツバをふと思い出した
神楽はコクンと頷く。

「実は、本当はこんな事言っちゃいけないのかも知れないんだけど、沖田様があんまりにも格好いいから、どんな人がコレをもらえるんだろうねって、皆で話してたんです」

そう女性は微笑みながら、小さなモノを、コツンと神楽の前に置いた

「こんなにお綺麗な方なんですもの。美男美女って本当にいらっしゃるんですね。それに素敵な赤ちゃんまで・・。とってもお幸せそうですわ」

まさか、喧嘩して、一人で黙って取りに来ましたなんていえる訳がない。少しはにかみながら、流した
女性は、てっきり、総悟が取りに来るものだと思っていたと話す。そして、ある意味こうゆう形のサプライズもありですねと、笑った。

神楽の前に置かれた、小さなモノ。中を見たくてウズウズしてると、女性は丁寧に取り、ゆっくりと、上にパカっとそれを開ける
そして、もう一度、神楽の前に置いた

「う・・・わぁぁ・・・凄く・・綺麗アル・・」

うっとりとしている神楽に向って女性は、はめてみますかと聞く。
思わず、え?と聞き返す神楽の手を優しく取り、その手に、ゆっくりと指輪をはめた
その指輪は、神楽に寸分狂わずピッタリだった。女性は、沖田様、お客様の事、よく分かっていらっしゃいますね。そう笑顔を見せた

コレには神楽も同感した。指輪のサイズを測った事もない。寝てるときにでも、適当な指輪で照らし合わせたのだろうか?そう思うと笑みが漏れた

自分の手を眺めながら、綺麗・・・そうつぶやく。

「真ん中は大きな宝石が、ブルートパーズと言う宝石で、お客様の誕生石だと言っておられました。
そのブルトパーズの周りにダイヤを散りばめたデザインとなってます。
オーダーメイドジュエリーとなってまして、沖田様が考えられたデザインなんですよ。その指輪。お客さまにピッタリです。
真ん中のブルートパーズがお客様で、ダイヤのように輝いていると言う思いを込められたみたいです・・・。愛されてますね。羨ましいですわ。」

柔らかい微笑みに、思わず神楽も微笑んだ。
あの、人をからかうか、おちょくると言う方向性が強い総悟が、こんな甘い意味合いで作った指輪
にわか信じられなかった。でも、その指輪は、現にこうして自分の左薬指にはまっている。
何度見ても、どんな見ていても飽きることがないくらい、綺麗だった

早く、もう一度誤りたい。そして、自分で取りに来ちゃったけど、改めてありがとうと言いたい
そして、ちゃんと大好きだと言いたくなった

帰り際、ケースに指輪を丁寧に戻し、帰ったら、改めて総悟に指輪をはめて貰おうと気持ちは高ぶる
深々とお礼を女性にし、笑顔で店内を後にした。

電車までは、まだ時間がある、しかし、金はない。どうしたものかと店前のベンチに座る。ふと下を見てみると、黒の二つ折り財布が落ちてあった。神楽は特に意識をせず、拾い上げ、中を見る

「ご、五千円が入ってアルネ!」

財布の中には、五千円札一枚と少しの硬貨。免許書の類は何も入っていない。思わずガッツポーズをした。
悪びれもなく、その財布からするりと札を抜き取る。そして、財布はポケットにしまった。
神楽の考えでは、今この五千円を自分が使い、帰ってから、改めて総悟の財布から五千円を抜き取り、ちゃんと交番に届けに行く!
と言う、ナイスな案だと思わずク〜と笑った

むふふと笑い、斜め前の本屋にまずは向う事に決める
もうすぐ出産も近い。見たい本は山ほどある。そこら辺の本を読み漁り、出る
電車の時間は、まだ時間がある。おにぎり3つしか食べられなかった分、目一杯食べたくなった

少し歩くとファミレスを発見する。神楽は上機嫌ではいる。食べたいものを注文できる。
食い過ぎだろィ。いつもそう言う奴は今はいない。
この際だとばかりに注文する。ウエイトレスは思わず口をポカンとあけたまま神楽を見ている

いつものファミレスの店員ならば、いわば名物的人物の神楽だが、この街では、目新しかったらしい

最後の皿を積み重ねた所で、時間も調度だと席を立った

ちょっと食べ過ぎた・・。もともと重たいお腹が、。より重たく感じられた
が、電車の時間もあることだと歩く。
休んでは歩き、休んでは歩き・・・そこで神楽はある事に気付く

「エッ・・嘘・・・・」

自分の両手、腕を確認する

無い

何処にも、あの指輪の入った袋が無かった




……To Be Continued…

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