act 7

「新八ぃぃ、そっちのも取るヨロシ」

「あぁぁ、神楽ちゃん、そんな身を乗り出して・・僕が取るから」

「大丈夫アルヨ、これくらい・・」

蒸し暑い日が続く中、今日は比較的涼しい日となる
窓を全快にした所から、ふぁ〜と気持ちのいい風が入って来て、二人の頬をかすめる
神楽の横では、定春が、心地よさそうに、その巨体を沈ませている
時折、耳をピクピクとさせ、気が向いたように目をのっそりと開ける。其処で神楽がよしよしと頭を撫でてやると、再び目をトロンとさせ、まどろみの中に意識を飛ばした

「もう女の子か男の子か分かったの?」

洗濯物を丁寧にたとみながら新八は口を開いた

「ううん。まだ分かってないアル・・。でも、あえて聞かないことにするアルヨ」
神楽の言葉に、微笑みながらそっか。と新八は答えた

「男の子の赤ちゃんなら、沖田さんに似れば、きっと凄く格好いい男の子になるかな。そんでもし女の子なら、神楽ちゃんみたいに、きっと美人になるよ、桃色の髪をぴょこぴょこさせてさ」
新八は、言いながら、早くもそんな光景を想像し、思わず笑いが漏れた

「私は、総悟ににた赤ちゃんが言いアル」
洗濯モノをたとむ手を止め、神楽は答えた

「え?どうして?きっと神楽ちゃんに似てもすっごく可愛い赤ちゃんが、」

「だって、好きな人に似たら、愛しいのが、もっと愛しくなるデショ」
言いながら、少しはにかんで、恥ずかしそうに笑う神楽をみて、思わず新八は、母親の面構えになる
初めは、小さくて、生意気で、とても女の子とは、かけ離れた・・そんな子だった
しかし、今はどうだろう・・・こんな柔らかい笑顔で、こんなに綺麗に微笑む
つくづく女はかわるなぁと感心する気持ちと一緒に、ほんの少し、寂しい気分を味わった
嫁に行かせる母親って、こんな気持ちなのかな・・・
そんな事を考える中、何で自分が母親ポジなの?銀サンが父親ポジ??
と一人で突っ込みを居れていた



.....




「オイ・・すっころぶぞ。もうちっと落ち着きやがれ」
総悟の少し前を、上機嫌で歩く神楽に声をかける。なんでこんな朝っぱらから・・・
思わずため息が出そうになる自分を何とかテンションを少しでも上げるように心がける
目の前で、ふふと笑う神楽に、少し顔を緩ませながら・・・・







「買い物にいこうヨ。」
朝、突然の訪問者、屯所に現れたのは神楽だった

昨日、仕事が長引き、屯所に到着したのが夜中、そこからあれやこれやと雑用を済ませ、ようやく就寝にありつけたのは明け方・・・・たまったもんじゃなかった
別にこう言うことは初めてじゃない。前にもちょくちょくこんな事はあった。しかしそんな時は、無視をして寝るか、今この自分の背中にどっしりと乗っかっている、ふざけた女を,布団ごとと引き離したりしていたのだが、今はそんな事出来そうにもない。かといって自分の背中の上には、二人分の体重・・・・

「ねェ・・起きるヨロシ・・お前今日夕方からなんダロ?」
そう言うと神楽は、畳に付けていた自分の両足、かかとを背中に体重をかけながら浮かす
重みの上に、さらに負担をかけられ、背中は瀕死だ・・・

「わがりまじだ・・・おぎまずんで・・どいでぐだざい・・」
悪いことをした訳でもないのだが、謝ってしまう。そんな総悟をふふんと満足そうに神楽は見下ろし
よっと、背中から体重を退ける。途端、羽根が生えたように軽くなった自分の体だった
朝ご飯を外で食べようと言う勝手な案に、力無く頷く自分。何とか覚醒させるために、目頭を強く揉んだ









「おめーの胃袋を、ぜひ一度拝ませて欲しいぜ」

朝っぱらから、積まれた食器を、目を遠く見つめながら総悟は口にした
たいする神楽は、お腹いっぱいと、ご機嫌そのもの。
つっぱるお腹、先月より、それは一段と大きくなる、近頃は、余裕のあるチャイナ服にスパッツ・・・というのが神楽の定番だった。動きやすい、疲れない・・そういう点に置いても、重宝した

ファミレスに入って、普通に妊娠前によく座っていた定番の席にへと神楽は足を進めた
それを、総悟は、待て待てと引き止める。何で?と全く分かってない様子の神楽に、視線だけを、腹の方へとずらした
直後、あっ!と気がつく神楽、いつもの定番の席は、動かないソファ。お腹周りが狭くなる

対して、総悟が視線を走らせた席は、イスだった。
ごめんね・・とお腹を優しくすりすりと撫で、席に向かった二人だったのだ

毎度の如く、恐ろしいレシートを当然の様に見つめ会計を済ませる
ふと、産まれてくる子供も、こんな感じだったら・・・と一瞬背筋を凍らせた。我が家の食費は・・・と。

.....





「総悟、これ可愛いアル!」

服を引っ張りながら、声を神楽は出す
すこし恥ずかしい気分に捕われながら、ベビー用品一色の店内を、珍しそうに総悟は見回した
ベビー服は勿論、オムツ、チャイルドシート、細々とした赤ちゃん用品、出産に居るモノ
初めて見るモノに、ベビー服をあさる神楽を他所に、正直見入る
まさか自分がこんな所に来る時がくるとは・・・しみじみと考えた

「あっち、あっちににも行って見るアル!」
総悟の手をグングンと引き、あっちへ行ったり、こっちへ行ったりとせわしない

「まだ買うには早過ぎるだろうが、もっと遅くても、まだ男か女かも分からねェのに」
頭を描きながら、若干面倒くさそうに総悟は言った
正直この雰囲気が、いたたまれない。店員の視線。何となく場違いに感じられた
そんな事をおかない無しに、神楽は総悟を引っ張りまわす。
それにしても、よもやこんなモノに囲まれて、自分が産まれてくる赤ん坊と一緒に暮らす事が未だ想像できないでいる
未知の世界・・そう言っても良かった
しばらく堪能した神楽は、満足したように、店を後にする。
店を出た途端、糸が切れた様に、体が軽くなったのをひしひしと感じたのは総悟だ

「お前・・・ちっとも見てなかったアル。つまらなかったアルカ?」
店を出て、最初の神楽の言葉だった。堪能してたのは自分だけ。後ろをだらだらと付いてくるだけの総悟。何か言っても適当にしか返答は帰ってこない。二人で楽しく見たかった神楽は、不満そうな面をする

「つまらなかったってェより、居心地が悪りィだろィ」

総悟がそう言うのも、正直無理はなかった。店内の客は自分たちだけではない。神楽と同じように妊婦で、夫をつれそう客も中には居た。
しかし、みんなソコソコの年齢の男だ。どう見ても自分が一番若く感じられる
たまたま・・確かにそうかも知れない。今時若くして身ごもる女は少なくない
だが、少なくともあの店内では、自分が若く、気恥ずかしい気持ちに襲われたのだった

神楽には、全くそれが理解できない様で、不満そうな顔をしていたが、気を取り直し、笑顔を作った

「あのね、お願いがあるノヨ」
ふふふと柔らかく笑う神楽に、どうしても嫌な勘が働いた・・・・・・










「嫌だ!!絶対ェェ嫌でィ!!」
歩く速度を少々速めた総悟、それを小走りで神楽は追っかけた

「お願いアル!勉強にもなるアルヨ、きっと、帰りは、行って良かったって思えるアル!だから・・」

「俺がそんなモンに出るような奴じゃないって知ってるだろうが」

腕を持つ神楽の手を、軽く振り払い、さらにスタスタを歩く
予想していた通りの反応と言うべきか・・このために朝から喧嘩をしないようにと笑顔で居たのに。
買い物をしたかったのも本当、ご飯を久し振りに食べたかったのも本当だ。
近頃そんな時間もとれなかったから・・・でも、でも本当は、前から念入りに準備をしていたのだった

もし、今日総悟が時間を取れたのなら、って。でも、中々それは口に出せなかった。
総悟の言葉ももっともだ。こいつは絶対嫌がる・・そう思って、そう言われるのが分かってたから、余計切り出しにくかった。しかし、ちらりと時計を見る。時間はそんなに余裕はない・・今しかない・・そう思ったのだった

案の定、機嫌を損ねた総悟が自分の前をスタスタと歩く・・・。それでも、どうしても一緒に行ってもらいたい・・・

『両親学級』


「ねェ・・総悟、ちょっと・・・痛っ!!・・・ぅぅ!!」
興奮した、総悟に追いつくように、ちょっと走った。どうしても、どうしてもって・・・

だから、赤ちゃんが怒ったのかも、走るなって・・、興奮しないでって・・
お腹に鈍い痛みが、ずぅぅんって響いた。顔が歪んで、その場に膝を着いて、四つン場になり、思わずお腹をかばう様に手をやった

....

俺がそんなモノに出るのが嫌いな事くらい、あいつが一番分かってるはずだ・・なのに何故・・・

少しイラつく、だから喧嘩になる前に、少し怒った態度を見せれば、すぐにあきらめて、そんな考え捨てると思ったんだ・・・


「オイ!神楽!!」
体中の汗と言う汗が吹いた。決して蒸し暑い所為ではない。冷や汗・・・

「・・・ぅぅぅ・・・痛っ・・・あぁぁ!!」

額は汗でびっしょりになる、神楽
その汗を袖でふき取り、背中を一生懸命さする
気持ちの中では、とにかくどうすれば・・・との思いが巡る
携帯に手をかける。ココからだと病院まで遠くはない。何なら屯所の誰かに車をとも考えた
その手を神楽が止めた

「だ、大丈夫アル・・・はぁ・・はぁ・・休めば平気ヨ」

背中を総悟の右手に預け、尻を付き、腕にもたれかかる
目を瞑って、浅い呼吸から、ゆっくり、ゆっくり、深い呼吸へと切り替える・・・

「悪かった・・俺ァ大変な・・」
「違うアル・・私の我侭だったネ。もういいアル、でも、病院には、送ってくれると嬉しいアル・・」
目を瞑ったまま、ゆっくりと言葉を出した
ふぁ〜と風が舞い、神楽の髪が一緒に舞う。
それを気持ちよさそうに神楽は感じている

「何時から何でィ・・・」

真っ黒な自分の視界から聞こえてきた言葉、ゆっくりと重い瞼を開けた

「・・・一時・・・」

項をガシガシと掻きながら、総悟は口を開いた

「行くぜ・・送れたらやべェんだろィ」
ゆっくりと神楽を支える。そしてそのまま体を立たせる
神楽は、きょとんと言う顔に一瞬なる。どうやら意味が理解できていないと思われた

「だから・・・参加してやるっつってんだろうが・・これっきりだからな」

目を、真ん丸く開き、その直後、その顔は、この季節にぴったりの、ひまわりの様な笑顔へと変った
思わず、ぴょんと跳ねた神楽に、沖田は冷ややかな視線を送る、又あんな風になったらどうするんだと・・
一瞬まずった様な顔をするが、嬉しくて仕方ないらしく、こみ上げる笑顔を隠すのが必死らしい
そんな神楽を総悟は見て、柔らかく自身も微笑んだ
だいすき・・・・・そう言いながら腕に絡み付く神楽を、本当に愛しい・・そう感じた総悟だった

ゆっくり、歩く。途中車でいくか・・との言葉に、歩いて行きたいと神楽は返す
少しでも、こうやってくっついて居られるデショ?上目使いで見上げた。照れ隠しに、その柔らかいほっぺを、ぶにっと掴む。いひゃい・・・と返す神楽の面に、思わず吹く

ぶさいく・・そういった総悟の顔、言ってる事と、してる顔が違う〜っと神楽も笑った
蒸し暑くても、この絡まる腕を放したくない・・二人そう感じた

少し歩くと、前方から見覚えのある車が見えた





「沖田隊長ぉぉぉ!!!!!」
自分たちの丁度前で、その車は止められる
そして、出てきたのはおなじみの顔、山崎だった


「何してんでィ」
無表情で沖田が返す

「それはこっちの台詞ですよぉぉ。今日は隊長会議があるから、それには出席するようにって、局長からも、副長からも、散々いわれてたでしょうが。二人とも、怒り狂ってますよ。早く来てください!俺の命のともし火まで無くなるんですからぁ!」

早く乗ってくださいとの山崎・・・無意識に隣を見た。神楽と目を合わせることなく、深く考えているような顔。今しがた思い出したのだろうか・・・。その顔から察するに、大事な会議であることには間違いがない。おそらく沖田の中で考えていること、又しても、神楽と仕事を天秤にかける事になってしまった事へと表情だとすぐに神楽は分かった

一瞬俯いた・・・一瞬考えた・・めまぐるしく・・深く・・。
山崎は、涙目で時間がぁぁと訴える。そんな山崎を無視する様に変らず考えつづける総悟

そして、顔をあげた



「行ってくるヨロシ。私は一人で行くアル」

間髪居れずに、こちらを見た総悟

「大丈夫アル。仕事と同じ位私の事大事って伝わったから!もう私は大丈夫アル。これから総悟には、沢山沢山稼いでもらわなきゃいけないカラナ。減給なんてされたら私も困るアルヨ!」

その笑顔は、嘘でもなければ、造り笑顔でもなかった
この数ヶ月間、二人で乗り越えてきた道・・そこに確かにあった足跡があるからこそ言えた言葉だった
仕事と自分のどっちが大事か・・なんて聞いた私。それは確かにどっちも大事で、でも比べるところが違うって事。

強く神楽は微笑んだ。
頭をぽんぽんと置く、上を見上げ、笑う神楽に、ちゅっと、音がなった
山崎は、涙目から、一変、固まった。唇にちゅっと、頬にちゅっと、瞼にちゅっと・・落される温度
最後にもう一度、唇に、落とされた心地よい温度・・・ふふっと神楽は笑った


……To Be Continued…

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