act 2

抱き抱えられながら、この腕が恋しい・・・本当はそう、思った…。



「神楽!!大丈夫か?!」
「神楽ちゃん!!」

酷く汗をかいている。部屋の扉を見てみると、銀時と新八が、息を切らしながら入ってきたトコだった
視線だけを、銀時に走らす。手には点滴が施され、相変わらず起きる事も出来ないようで、顔は、真っ青だった
神楽は、ニコリと微笑んだ。言葉を発しようとすれば、吐きそうになる。だから黙った

「銀さん。新ちゃん・・」
お妙は、神楽の横で手を握っていた

「大丈夫か?」
銀時は、お妙、そしてお妙の反対側にいる、沖田に視線を滑らせた
「悪阻ってモンらしいですぜ。すぐに入院になりやした」
本当は、もう何度も入院したほうが・・とも言われていた

「神楽・・お前・・何で入院しなかったんだ?子供に何かあってみろ。後悔しても遅いんだぞ!」
叱る訳ではない。しかし、少々強く言ってしまったと、すぐに銀時は後悔する

神楽は、ゆっくりと口を開く
「入院・・すると・・お金かかるデショ?高いアル・・知ってた?」
ゆっくりと言い、微笑んだ

一人が嫌だった訳じゃない。恐かった訳でもない
ただ・・・負担になりたくなかっただけ・・・
一生懸命、自分の為に、これまででは考えられなかったぐらい、働いてくれてる
それもこれも、ぜんぶぜんぶ、自分と産まれてくる赤ちゃんのタメ
我侭なんか言いたくなかった。これ以上お金がかかるような真似、出来なかった
我慢したらすむだけ、耐えればいい・・そう思ってた


「神楽ちゃん!僕たち家族でしょ?そんな事心配しなくてもいいんだよ」
「そうよ。神楽ちゃんは、今は赤ちゃんの事だけ考えていればいいんだから」
「ったく。おめーは、自分の事だけ考えててりゃいいんだよ!!」
心配する、新八とお妙。口こそ悪いが、銀時も神楽の頭を撫でた

こくりと、ゆっくり頷く
神楽は、お妙をちょいちょいと耳元に呼び寄せ何か言った
「あぁ・・大丈夫。今大部屋がいっぱいだから個室なだけよ。もうすぐ開くみたいだから、そしたら大部屋に移れるわ」
だから心配しないでと、お妙は神楽に笑った。その笑顔を見た神楽は、安心したように、つられて笑った

「いや、この部屋でこのまま居やがれ」
静かだった沖田が口を開く、そして、ポケットから封筒を取り出した

「本当は、おめぇに拒絶されようが、コレだけは置いていくつもりだった」

そう言うと、封筒を神楽に渡す。神楽は何だ?と言う顔をしながら、ゆっくりとその封筒を覗く
そして蒼い目は、大きく開かれた。首をぶんぶんと振って、封筒を沖田に突っ返す
しかし、それは沖田は予想していた事だった。それをそのまま銀時に渡した
銀時は、封筒の中を確認する

「おま、コレ!!」
見積もって、ざっと五十枚はかるい、銀時は目を開く。

「病院代。服、食事、居るものなら何でもいい。いくらでも使ってくれて構いやせん。また持って来るんで」
神楽の方に視線を一瞬向けた。相変わらず首をブンブンと振っている
銀時、新八、お妙に、礼儀正しくお礼をし、一言

「コイツを宜しくお願いしやす」
とだけ言うと、去っていった


.............

「神楽ちゃん、大丈夫なの?無理しないで・・」
タクシーから降りる神楽に、手を差し伸べるのは妙だ。
「大丈夫アル。もぅ殆どつわりもないアル!」

やっと退院出来たと、神楽は万事屋に入っていく
それを微笑みながら、お妙は後ろから追いかけた


.....


入院中、神楽は、何日かは、殆ど起きられず、ベットに居た、それでも、すこしずつ体調は良くなっていく。少しずつ食べれるようになる。冷蔵庫には、銀時が買ってきた。プリン、ヨーグルト、ゼリーが所構わず放り込んであった。
食べても食べても買ってくる。その・・お金・・・
一度聞いた事があった。そしたら、銀時は

「俺も使うか悩んだけどよ・・やっぱり・・アイツだって使って欲しいだろ?」
そう言われる。


ヤメテよ・・世話にならないって決めたんだから。あいつとは関わりを持たないって誓ったんだから・・。
それでも、銀時にそう言う事が出来なかったのは、もし、沖田のお金に手をつけるのを止めれば、必然的に、又負担がかかる・・そう思ったからだった。だったら、今は遠慮なく使って、必ず自分で返そう・・そう思った

妊娠で言えば、もうすぐ3ヶ月から4ヶ月に入る
体調もいい。つわりも殆どない。やっと入院からも開放される
入院費だって、とりあえず気にしなくて良かった。銀時は、何回も定期的に封筒の中身を見せてくれる
どんなに使っても、どんなに食べても、次に見るときには、又増えてた。どんなに使っても封筒はパンパンだった
形容しがたい感情。自分は、一体何を思ってるのか、知りたい位だった


入院中、イライラした感情、それも特に出なかった。皆が気を使ってくれているのが分かった
一度だけ、黒の隊服に染まった三人組みの男が訪問した


「体、大丈夫かよ」
ぶっきらぼうに言う。これが彼なりのいたわり方なんだろうと神楽は思う
「大丈夫アル。体なら、毎日マヨ中毒のお前の方がよっぽど心配ネ」

うるっせぇぇ!!と病室に響き渡る声。それを、まぁまぁと別の男がなだめる

「元気そうで安心した。無理はくれぐれもしないでくれよ」
「チャイナさん、ちょっとだけ、ふっくらしました?顔が・・?」
神楽は、エッ!!と手鏡で自分の貌を見る。本当はちょっと自分でも思った。しかし、言われると気にしてしまう
山崎の頭を、スパンとしばいたのは土方だった

「ガキが居るんだ。当たり前だろ!!おめーも気にしてダイエットとかしやがったらぶっ飛ばすからな!!」
なんて、物騒な言葉だとおもう。しかし土方の本質を知っている神楽は、思わず微笑んだ

そこに居る3人は、思わず絶句する
何て柔らかく、何て優しく、綺麗に笑うんだと、この目の前に居る女は、しょっちゅう怪我をし、悪態をついてきたあの娘かと、思う
自然と、母親の顔に近づいてきた証拠だった。無意識の範囲の表情、仕草。
それは確実に備わっていた
だからといって、神楽の本質が変わったわけでもないが

「オイ。マヨ、みつば姉が妊娠したら、是非私の所に来るアル!!なんて言っても私は先輩アル。分からない事があったら聞くヨロシ」
やかましぃぃぃ!!。土方は顔を真っ赤にさせて叫んだ

「ジミ〜。のど渇いたネ。何か買って来るアル。ゴリ、つまらないから雑誌買って来てヨ。卵クラブが発売してるアル」
オイィィと二人は突っ込むが、そのまま大人しくすごすごと買いに行く
妊婦には敵わない・・・と

「あいつとは、話したのか?」

体がピクリと反応する
「あ、あいつとは、もう終わったアル!べ、別にお見舞いくるわけじゃないし・・」

言ってしまってから、しまったと思う。土方の観察力は、沖田に劣らず鋭い
まるで、待っている、来て欲しいと言ってるみたいだった。視線を、泳がせる

「夜中・・12時過ぎ・・狸寝しながら目瞑って待ってろよ。」
それだけ言うと、タバコ吸ってくると部屋を後にした
しばらくして、はぁはぁと息を切らしながら、買って来ましたよぉぉ!!と駆け込む二人の声は、神楽に届いてなかった

夜中・・・?


............


ドクドクと音を鳴らす。
この静かな部屋から、この真っ暗な闇の中で、聞こえそうだと思う
深夜零時半を回る
妊娠中特有の眠気に惑わされながらも、必死に睡魔と戦う
突如
静かに、ドアの開く音が聞こえた

神楽は、体を布団の中で固くさせる、気付かれないように・・・
ふわりと香る、いつものあいつのシャンプーの匂いが鼻を掠める
ドクンと鳴る。喉が急激に渇いていく。水を飲ませてと・・思わず生唾を飲み込む音が大きくて、ヒヤリとする
何となく、期待してた。くる筈ないって言う自分と格闘してた。
あいつの世話にはならない。あいつは関係ない。言い聞かすように何回も唱えた

指の先が、頬に触った
とくんとくんと、音が鳴る。鳴り止め、鳴り止めって心が言う

豆だらけの無骨な手。この手が大好きだった。この手に触られるのが愛しくて堪らなかった
神楽の頬を包むように触る・・・触れる・・・

目を開けてしまいたい。顔が見たい・・・そう思う自分が居る
それでも、ぐっと耐えて目を瞑る

あくまで、自分は今寝てるんだ・・・なんて考える、気を逸らす

ふわり、唇に優しく触れた瞬間。体が熱くなる
又、ふわっと落とされる。頬を包まれ、優しく、ちゅっと鳴る
頭にふわりと感触を感じ、又静かにドアの音が聞こえる

真っ暗闇の中、蒼く瞳は潤む
赤く染まる自分の頬を、先程までに触られていた頬を自分の手で包む
熱は冷めそうにない。体から聞こえてくる音は、鳴り止みそうにない
柔らかく感じたその感触を感じるように、もう一度唇に手を触れた

『あいつは関係ない。あいつには世話にならない・・・話さない。会わない。顔も見たくない!!』

自分の中で、もう何百回も唱えた

でも、夜中に来る、あの感触に触れたくて、入院してる間、狸寝入りを決め込んだ・・・・・

....

ソファに項垂れる神楽を見た時、心臓が止まるかと思った

自分をみる、あの顔
今も瞼に焼き付いて離れなかった
本気で嫌がってた

力ずくで抱く、あいつの体。ビックリするくらい軽くて、思わず冷や汗を掻く
死ぬほど後悔した。もっと早くに様子を伺いに行くべきだった
絶対こんな事にならないように・・・

しかし、根源は全て自分にある
自分から別れると言ったのだ。神楽が許せなくて当然だと思う
忘れようなんて、思っちゃいない。
ピリピリしていた自分が、今更だが、腹ただしくてたまらない
本当なら、二人して喜んでた。自分に子供が出来たと聞いて、正直嬉しかった
神楽と家族になると言う事を考えると、心が浮く。なのに何故自分はあんな事を吐き捨てたのか。
冷静になればなるほど、後悔の念に押しつぶされる

何回も、万事屋の前に立つ
ただ、其処から開ける勇気が、ない。自分はこんなに臆病だったか?
扉の向こうには、あいつが居る。分かっているのに、其処から先に進む事が出来なかった





病室に横たわる神楽
真っ青な顔で、ベットに体を預ける
医者に聞くと、悪阻と言うモノらしかった

目を時々開けるが、自分の方は一切見ようとはしない。まるで其処には誰にも居ないかのように

神楽の言葉から、入院をしないのは、お金がないからだと知る
ポケットから、封筒を差し出す
神楽の顔を見るが、やはり想像した通りの反応だった

銀時に、時々神楽の様子を聞く。封筒の中身は、すこしずつ使われていた
それが、何とも言えない気持ちでいっぱいになる。思わず笑みが漏れた
沖田は、物欲が殆どないため、金に執着がない。かといって、豪遊するわけでもない

しかし、一番隊隊長である沖田の給料は、若いものなら考えられないほどの給料だった

体の弱い姉のためにと、お金を貯金し続けるが、それは今や、副長の土方の役目になっていた
だからこそ、神楽に使えると言う行為が、嬉しかったのだ

使っても、使っても、なくならないように、何回もお金を補充する

有り余る金が、一番有効的に使われていた

しかし、金では、人の心までは買えない
相変わらず、神楽は自分と、もう一度寄りを戻すつもりはないと言ってることを、銀時経由で知る
得意のポーカーフェイスが崩れるほど、正直ショックだった

正直、実は簡単に仲直りが出来、二人の未来が見えるものだと思っていた甘い考え。
それが、見事に崩れた
仕事も手に付かない。
一番隊隊長としての責任。それがやっと近頃身についてきていた
サボる回数も、減った
そんな自分には、考えられないくらい、身に入らなかった

そこまで、アイツを追い詰めたのかと、考える
会いたい。触れたい。声が聞きたい。
思うのは常に神楽の事ばかり

ただ、興奮させると駄目らしいと、小耳に挟む

深夜、一度、そっと顔を見に行った
ベットでは、静かに寝息を立てる神楽。たかが顔を見れただけ。たったそれだけの事だったが、思わず笑みが漏れた
触ると起きるか・・・一瞬そんな事を考えたが、触らずには居られなかった

頬に触る。もう何度この頬に触ったのだろうか。何回口で触れた?
小さな証明ライトには、神楽の顔がぼんやりと映し出される

桃色に流れる髪にそっと手を滑らす
いつもの神楽の香が、ふわりと自分を包んだような気がした

もう何年も、この髪は自分だけのモノだった
このほっぺも、この口も、体も、心も、全部、自分だけのモノだった
何回、この柔らかい桃色の髪に手を滑らせたか分からない。何回このさらさらの髪で遊んだか分からない
綺麗に伸びてゆく、この髪を何年一緒に見続けた?

このほっぺを何度つねって遊んだか分からない。この柔らかいほっぺに何回頬をすりよせたか分からない

この赤い小さな口に、何度キスを落としたか分からない。
この柔らかい口から出てくる、甘い声に、何度感情を揺さぶられたか分からない
この口から出てくる自分の名を、誰よりも愛しく思えてたのに・・・

この心は、ずっとずっと自分のモノだけと信じていた
この体は、永遠に繋がっているものだと信じていた


この柔らかい体に、何回自分を沈めた分からない
この体と自分の体、愛しくて、大切で、だからこそ溶け合って、一つの命を生み出す奇跡が起きたのに



それも、これも、全部、全部、自分から、粉々に砕いてしまった


(自分で終わらせたくせに、何やってんだ俺ぁ・・)

ぐちゃぐちゃの感情の中、神楽を見つめる


後悔・・・・人生に置いて、かつてコレほどまでに後悔という事をした事がなかった
もう一度やり直したい・・心からそう思う

この髪の毛も、頬も、口も、全て・・・全部が大好きだった

沖田は、寝息を立てるその小さな赤い唇に、ふわりと口を落とす
もう何年もしてなかった様な感覚。たまらず、もう一度落とす

長いまつげが、一瞬ピクリと動く
しかし、再び、規則ただしい寝息を立てた

蒼い瞳を見ることは出来ないが、せめて寝顔だけでも触れさせてくれと
毎日、毎日通う
そして、毎日毎日、一つ一つ。口付けを落としていく

そして、その行動を、姉経由から、土方に知られてしまい
途中から、神楽が、狸寝入りをしながら、自分を待っていたとは、全く知らずに・・又今日も訪れた


……To Be Continued…

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