番外編 act 2

「神楽ちゃんの顔ってとっても正直ね。」

神楽はキッチンに立ち、お妙と二人分のホットミルクを作っていた。
そしてその視線をエッ?と言う面持ちでお妙の方に向けた。
お妙は、神楽のソファに寝転がり、ほうずえを付き、ニマニマと神楽を見ていた。
神楽は顔を繕(つくろ)い、視線を逸らすが、淡く染まった頬の方が正直だった。

お妙はソファから身を起し、神楽の側へと寄って来る。
「ね、さっきの。嬉しかったんでしょ?」
言うと直ぐに神楽は耳まで真っ赤にさせた。『さっき』を、見られていたんだと…。
かわいいっとお妙は神楽を抱き締め、そのまま手を引き、ソファへと座らせた。

「ね、ね、大丈夫よ。今夜行っちゃえばいいじゃない?沖田さんの部屋に。きっと凄く喜ぶわよ。」
「ぅぅぅ〜〜。は、恥ずかしいアル。自分で言うなんて。」
「でもそれが一番確実だし、一番喜ぶと思うわよ。」
「ぁぅ〜〜。」

お妙は神楽の貌を覗き込む、神楽は両手で自分の貌を隠す。
大丈夫よと言うお妙の声は、若干楽しそうに弾んでいる。
神楽はその言葉を聴覚に滑らせ、もう一度自分の中で唱えてみたが、やはり恥ずかしく、悶えていた。
すると、不意に隣から聞こえてきた、ドアノブをひねり、ガチャリと開く鈍い音が二人の耳に入る。

お妙は神楽と顔を見合わせ、一目散に玄関へと走り、その会話に耳を澄ませる様にピタリと壁に二人してくっ付いた。
至ってまぬけだが、女が居るゆえ簡単に出て行く事も出来ないし、今の自分たちには精一杯の行動だった。

「やっぱもぅ暗いな。最近は日が落ちるのが早くなっちまったなァ。」
ドアの向こうから聞こえてきたのは土方の声だった。
「トシ、ちゃんと送ってやれよ。俺も通り道なんで二人送っていくから。」
「分かってんよ。じゃ行くぜ。」
耳をドアにピタリとくっつけながら、向かい合わせでお妙と神楽は視線を交した。
どうやら女の子を送っていくらしい。確かに日も沈み辺りは暗くなって来たと、先ほどホットミルクを飲みながら窓の外を眺め、神楽も思っていた。
近藤は二人、そして土方も二人を送っていくのか?
こう言うところはやはり男だなと少々感心する。近藤は置いておくにしろ、こんなさりげない優しさがモテる秘訣なのだろうかとその交す視線の奥の奥。
無言でお妙と語った。
しかし、その語りは一人の男の声でかき消される。

「じゃ俺らも行きやすかィ?」
神楽とお妙は視線をそのまま、思わず唖然となる、神楽はドアの中心にあるドアスコープを覗く。
一人の女が沖田と共に歩いて行く背中が見える。神楽は口を開けたままその光景を見た。
いや、見ていた、のだ。

食い入る様に見ている神楽に、私も少しだけ覗かせてとお妙は神楽に言うつもりだった。
しかし裸足で、しかもそこら辺に無造作に置かれている靴を踏んでいたため、カクンと足を滑らせてしまった。
崩れてしまった自分の体を立て直そうと、お妙はドアノブに手をかけてしまう。
ガチャリと開けられたドアは、圧力によって、いきなり開く事は無かったが、それでもその動きをとめる事は出来ず、お妙は崩れるようにそのドアの向こう側へと体は傾く。

そして同じく神楽もそのドアに全体重を乗せていた所為で、ドアが開くと同時にその体は向こう側へと傾く。
先ほどの様に、ドアの向こう側に沖田はおらず、お妙と共ににコンクリートの上に雪崩れ込んだ。
こんな時に美しい傾き方。などと言うモノがこの世にあるのならば、是非そのレッスンとやらを受けて次回は倒れたいと思う神楽とお妙だった。

倒れる際、何とかこのビューティフェイスだけは守りたいと顔を庇う。
そのおかげで、守りきれた顔の代わりに全身を強く打ち付けた。冷たくひやりとするコンクリートが自分の肌にビタンと音をならし痛みを与えた。
今から匍匐(ほふく)前進をしようかと思うような格好。しかしそのスラリと伸びた二人の脚は辛うじて真っ直ぐに伸びていて、正直そんな格好悪い状態にはなっていなかった。

「神楽ちゃん、ごめん〜〜。」
「あっ痛たたたッ…だ、大丈夫アル、気にしないで…、」
二人が体を起そうとすると鈍い痛みが体を巡り、思わずその貌を歪ませた。
「お妙さん!!」
反響する中、近藤が物音と声を聞きつけ、お妙の元に駆けつけその体を優しく起す。
流石のお妙も何も言わず、近藤の逞しい腕にすがるように立った。
その横で、今もまだ自分の力でカクカクと立とうとしてるその体は、、ひょいと抱かかえるように体が浮き、地面に足を付かせた。
向かい合わせになる様になった顔を見上げて見ると、呆れた貌の沖田の顔がそこにはあって…。
「何してんでィ。」
何してると言われても、ご丁寧に、盗撮まがいの事をしていましたと馬鹿正直に言えるはずも無く、神楽は空笑いでごまかした。
沖田はため息を付いて、一人で立てるかと言う。神楽は沖田のその体にまだ触れていたいと思う衝動を何とか抑えつつ、一人で立つ。
神楽とお妙が何をしていたのかを、知ってるのか、もしくは知らないが、特に気にする様な事ではないかのどちらかだったが、とにかく神楽に背を向けた。
平然と向けられたその背中にを見ながら焦燥感がひどく神楽を襲った。

なんで…?
そう言葉が思わず出てこようとするのを思わず引っ込めた。こんなみっともない自分を見せたくなかったからだった。
口をきゅっと結ぶ神楽を土方は見逃さず、頭を掻き何か言いたそうにしたが、どちらにせよ女を送らなければいけない事はどうやっても変えられない訳で、
その言葉を飲み込み背を向けた。

神楽は、沖田と隣の女がマンションの角を曲がる際、一瞬だけみてしまう。女の手が、沖田の袖を握ったのを…。
どうしようもない嫉妬心が神楽に芽生える中、お妙と、近藤はそれを見ており、お妙は、神楽の肩に手をやった。
「大丈夫よ。戻ったらちゃんと二人の時間くらいは持つこと。ね?」
神楽がお妙を見ると、お妙は柔らかく微笑んでいた。
「大丈夫、総悟はアンタしか見ちゃいないさ。コレは断言できるぞ。」
近藤もその横で柔らかく笑みを漏らす。
神楽が、ゆっくり頷くと、お妙は、神楽の部屋から自分の荷物を持ってきた。
「姉御、帰るアルカ?」
「うん。近藤さんがマンションの前で待っている先輩と一緒に送ってくれるって言うから。」
近藤は、妙の横でひたすら目をキラキラと輝かしていた。おそらくマンション前で近藤に放置された女の事など、これぽっちも頭に入っていないと思われる。

神楽はお妙とばいばいと手を振る。
お妙は、少々心配している様子だったが、近藤が、すぐに沖田が戻ってくるさと言葉を出すと、安心する様に近藤の隣に姿を並べた。

憂鬱。
神楽は思わず字と意味を頭に浮かべながらソファに項垂れた。
今の自分の心境、憂鬱がまったくもってぴったり当てはまった。分かってる。
何でもない事。でもココロが曇ったまま、その雲は動くことなく晴れない。
事もあろうに雨雲に変化し、雨や雷雨まで呼び寄せそうだと神楽は思った。
...

気持ちが通じ合えた時、嬉しくてたまらなかった。
その唇に伝う温度が、感触が、細胞が、あたしだけに唄ってくれた。
でも、最近はあたしばかりが唄っている気がする。分かるヨ、さっきキスされた時も体が解けちゃいそうに甘く甘く疼いたのも、
それはきっと其処に総悟の気持ちがあるからこそ…。

それでも、何も言わなくても、触れ合うだけで聞こえてきた唄は、最近は、あたしの一方通行の様な気がしてならないノヨ。
もっと、もっと体に浸透するくらいに全身で唄って欲しいヨ。
あたしじゃなきゃ駄目って、誰から聞くんじゃなく総悟に唄って欲しいと思うあたしは欲張り?
もっと、もっとって思うあたしは可愛くないノカナ?
それを確かめるために、もっと近づきたいって思ったノ。もっと近づきたいから一つになりたいって思ったノ。
でもそれって間違った方法?言葉で聞いた方がイイ?
ううん。あたしは総悟の奥の奥の奥にある、その『心臓』から出される信号に直接聞きたいノ。
あたしの事をスキって発する、全身に巡らされて行く血に、温度に、気持ちに、細胞に唄われたいンダ。

それってやっぱ欲張り?

.....

ふうとため息を漏らし神楽は立ち上がる。
お妙には言われたが、どうにも夜這いまがいな事をする気分じゃない。
お風呂には入ったし、テレビを見るのも退屈。部屋の掃除はこの間済ませたし、洗濯や洗い物は終えてある。
立ち上がったはいいが、ふむ。どうしようと思い。神楽は頬に手をやり考えた。

目を、あちらこちらとやり、思いついた様に財布を持ち、玄関へと足をむけ、その扉をあける。
このモヤモヤを打開するべく、コンビ二に甘いものでも買いに行こうと。
テコテコ歩きながら、先ほど来たお妙のメールの文章を見る。どうにも近藤が自分だけに話しかけてきて、後ろからの女の視線が痛い。
てか男も女もうざく、ふっ飛ばしたい気分だとの内容だった。
むしろやっぱ一人で帰った方が楽だったとの最後の言葉に神楽は思わず顔を微笑ませた。

恐らく既にお妙は家路に着いている…。
家に帰ったらもう一度電話をかけてみようと神楽は思う。
多分凄い剣幕で話が途切れないだろうと…。そんな事を考えながら、コンビニに入り、デザートを選ぶ。
プリン・ア・ラモードもいいが、焼きプリンも捨てがたい。しかしショコラも、あっ!新作ダブルシュー!これチェックしてたんだ。
なんて考えてるフリを決め込みながら、その全てをカゴの中へと入れていく。
そんな神楽の背中に声がかかった。
「そんなに食べたら太るぞ、ちゃんと飯を食え飯を。」
神楽は振り返る、と共に満面な笑顔へと変化した。
「銀ちゃん!」
銀八のカゴの中には神楽の倍の数の、数々の甘いものと名称がつくものがあった。その中に定番の苺牛乳も忘れることなく。おそらくアレは彼の生活の一部だと神楽は思う。
むしろ、苺牛乳こそが、銀八だといっても過言ではないと。血液さえそのピンクの液体が体を巡っているといっても何らおかしくなかった。
とにかくその銀八が神楽の目の前に居る。
神楽は銀八の腕にしっかりとしがみ付くように頬をすりすりとさせた。
暑苦しいからやめろと言う彼の声を軽くスルーすると、そのカゴの中に自分の今しがた入れ込んだデザートの数々を入れ込んだ。

「ちょ、神楽、テメー何しやがる!俺ァこんなに食えねェよ。いや、食えるけれども!。」
「誰が銀ちゃんにあげるなんて言ったアルカ。私の分も一緒に買うヨロシ。」
盛大に貌を引きつらしたが、神楽は笑った。どんなに嫌がっても買ってくれるのは分かっているから。


「で、最近どうなの?沖田くんと仲良くしてんのか?」
少し間を置いて、神楽はコクンと頷く。神楽の反応に何かを汲みとったが、あえて銀八は言わなかった。
真っ暗な中、別に行きも恐くも何も無かったが、銀八が居る事によって、更にその感情は薄れた。
神楽は銀八の腕に手を絡ませながら、すりすりと甘えてくる。
「その甘えをなんでアイツに見せねェんだよ。」
神楽はぷっと頬を膨らませた。毎度のことだが銀八には隠し事が通用しない。いつも手前で適切なアドバイスを遠まわしに教えてくれる。
神楽は銀八に腕にぶら下がる様に体重をかけた。神楽の方に銀八の体は撓り、瀕死の叫びをあげている。それを見ながら神楽はケタケタと笑った。

それ以降は特に沖田の話を銀八はしないでくれ、最近の近状、パチンコに負けたとか、学校に行くのがだるい、クオリティの高いAVに巡り会えた事など、
どうでもいい話しにはなが咲く。

銀八の首に神楽は飛びつく。うぉぉぉ!!と低い声を出しながら、銀八はマンションにたどり着く。
銀八は下りやがれと言うが神楽は抱きついたまま、銀八の首を話さない。真っ青になりながら、生命の危険を察知した銀八は買い物袋をコンクリートの上に落とし、じゃれ付く神楽の手をはなし、口いっぱいに酸素を取り込んだ。
「ったく、こんなトコ沖田君に見られちゃ俺ァ、マジで殺されらァ。さっさと帰ェンぞ。じゃあな!しっかり食べろよ!飯をだぞ!飯!」
神楽はふふっと柔らかい笑みを見せる
手にはビニール袋を、その中にはしっかりとデザートの山。
「銀ちゃんは、心配しょうアルナ。」
そう言いながら自宅のドアを開ける。

心臓が止まった。
いや、止まっては無いけれども、一瞬だけ、確かにその動きは停止した。絶対。
「ひゃ…。そ、総悟…。送ってたんじゃ。」
神楽が開けたすぐの所、肘を壁にと体重をよせ、神楽を睨む。
「んなモン、適当に送ってきたに決まってんじゃねェか。てかお前こそ何してんの?俺が関係ねェ女を送ってくほど暗がりに一人で出てくって?しかも銀八に送ってきてもらうって何?抱きつくとかありえなくね?」

神楽は一気に血の気が引く。
口をぽかんとあけたまま、総悟を見つめる
「な、なん…?」
「何でってか?ココから見てただけでさァ。オメーが見てた様にな。」
沖田は、コンコンとドアスコープを人差し指で鳴らす。
思わず神楽は声が出なかった。


「ちょッ痛っ!痛いアル!」

言葉の出ない神楽をそのまま部屋の中へと引っ張り込む沖田。ドアはゆっくりと閉まっていき、ガチャンと言う音のみが部屋の中で響いた。
乱暴な沖田に反抗を表す神楽だが、簡単にリビングに連れてこられた。
一際大きな声で神楽は離せと言うと、同時に手を振り、沖田の手から逃れる。
冷たい目で見る沖田に怯むが、負けてたまるかと口を開く。

「何でそんな目で見られないといけないネ!ちょっと買い物に行って、ばったり会った銀ちゃんに送ってもらっただけアル!」
叫ぶ様に話す神楽に負けじと沖田は口を開いた。
「俺が帰ってくるまで待てばいいだろうが!」
「いつ帰ってくるかも分からないお前を何で待たないといけないアルカ!」
「だからって一人で行くことねェだろィ!会ったんじゃなくて、呼んだんじゃねぇのか?!」
「はァ?まだ銀ちゃんとの事を疑ってるアルカ?全然私を信用してないアル!」
「その台詞そっくりそのままかえしてやらァ。オメーだって全然俺の事信用してねェだろうが!」
「信用されない様な行動取るからいけないネ!」
「そりゃお前だって言える事だろうが!あんなにべったりくっ付きやがって!」
「銀ちゃんは家族アル!変な目で見る方がおかしいネ!」


そこまで言ったところでお互いに息が切れ、言葉が止んだ。
今日の計画も、お妙のアドバイスも、銀八のフォローも全く意味がなくなった。
落として、粉々に割れて、破片が散らばって、ぐちゃぐちゃで、修復不可能。
神楽は沖田の横を通り抜け、ソファの前に立った。沖田は神楽の背中を見る。

(何で?何でうまくいかないアル…。まるで…こんなのまるで神様が…。)
一気に高ぶった感情は、上へ上へと上がっていき、唯一外に出られる所まで登ってきた。
押し寄せる様に溢れた涙は、何が原因で流れているのか、神楽自身ちゃんとした答えを見つけることが出来なかった。


背中が震え、涙を拭うしぐさが背中越しに伝わると、沖田は神楽に近づき、その肩に手をかけた。
だが、神楽は鼻をスンと鳴らしながら、左手で口と鼻を覆い、背を向けたまま、右手で沖田に待ってと手をあげた。
「っごめ…一人にして…本当にゴメっ…。」
息を詰める様な声に、沖田は苦みばしった表情をしながらその肩の手をそっと離す。
その離れた手をもう一度神楽の肩に置こうとする。その手をぎゅっと握り締める。そしてそのまま背を向ける。
震える背と、ぐちゃぐちゃの感情の背。似てるようで、真逆の様なその背は、一つの部屋で離れて行く。

崩れる様に神楽はその場にへたり込む。その背にはガチャンと言う音だけが振動し響いた。

.....

狂う感情。
そんなモノに自分が出会うとは正直思ってなかった。
その感触に触れたくて、その表情を自分だけのモノにしたい。
そんな事、とうの前から思っていた。そして俺は手に入れた。そう、しっかりと。この手に。
だが、手に入れたと思ったその『形』は、まだ不完全だった事に気付く。
終わりだったと思ったその形は、其処が始まりだった。

この手の中だけに閉じ込めたい。些細な俺の願いは、叶えられたと思っていたが、それは勘違いだと今更気付く。
何一つ。変わった様で、変わってない。だから、俺だけの特別が欲しかった。
だがそれは今は叶わない望みとしる。その望みはいつ叶えられるか分からない。今叶えられるかも知れないが、
それはまだまだ先かもしれない。

狂いそうだった。

確かに、俺は、確かにそう思った。
むりやりその願いを叶える事は容易い事だった。ただし、叶えた後、影も形も残らないまま消滅してしまうと言うその言葉を引き換えに。

俺は徹した。
ならば意識しなければいい。そう思う。が、それは難しいとすぐに気付く。
それは確かに自分の手の中にあるのか?時折心配になり確かめてみるが、それは確かに自分の手の中にあると知り、安心する。
その狂気ともいえる感情を殺し、ただひたすら待つと言う拷問に挑戦する。

しかし、その中で小さな変化を見つけた気がしたのだ。
ほんの小さな小さな変化。気付かなくてもいい位の変化。
あいつの口。目。手。
何が違うと気付く。
何か今、たった今自分の手の中からすり抜けなかったか…?
....


沖田は神楽の部屋の玄関の前、ドアにもたれかかりながら、その自分の手をゆっくりと見つめた…。



何が、一人にしてヨ。泣いちゃうくせに、寂しいくせに、逢いたいくせに。
嫉妬ばっかり、狂いそうになる。誰にも、誰にも触れさせたくない。
あたしだけのモノに…。
自分で作った鋼の鎖を、今ほど憎む事はない。出来ることならあの頃の自分に言ってやりたい。

その行為自体は同じでも、其処には裏と表、光と影ほど違う意味が存在すると言う事。
たった二人のためにならば、その行為は最上級の愛にと変化さへ成し遂げることが出来ると言う事。
教えてあげたい。不安にならないでと。
教えてあげたい。かならず後悔すると。

自分が作った鎖だからこそ、その外し方を知ってるのは、唯一自分だけ。
なのにどうやってその鎖を外す鍵のありかを探す事すら分からない。

助けて。ねェ。助けて。とっくに答えは出ているのに、何故自分が立ち上がれないのかが分からない。
馬鹿な事ばかりやってないで、直球勝負すればいいなんて事は分かってる。
でも、言えないのが女心でショ?勝負するのが恐いなんていったって、笑ってゆるして欲しい。

でも、あたしは、聞きたい。その唄を聞きたい…。
ねェ、息吸って、ほら、吐いて。
ねェ、神様あたしに勇気を頂戴。言葉にする勇気じゃない。素直になる勇気を、ちょうだい。

...

そしたら、神様がきっとご褒美くれたの。
だって、いきなりドアの開く音が聞こえたと思ったら総梧がぎゅって抱きしめてきた。

「悪りィが、一人にはできねェ。」
背中にあったかい温度が触れて、耳に息がかかって、体が、とってもあったかくなってきた。
言葉にする勇気がなくても、せめて…。



神楽は、もがくように沖田の手の中でぐるりと回った。向かい合わせになったその顔に、まずはちゅっと。
驚いてる沖田のほっぺに、またちゅっと。
細い手を首に絡ませて、またちゅっと。体をピタリとさせてまたちゅっと。

そこで一旦やめ、神楽はうつむく。沖田は神楽の髪を耳にかける。
神楽はゆっくりとその顔を上げる。その唇に沖田はおうとつを合わすように埋める。

目なんか瞑って、この夢と現実の狭間にゆらゆらと酔うように二人は、その感触に侵された


……To Be Continued…

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