番外編 act 1

あいつ…何で本当に何もしてこないノヨ。
分かってるヨ、あたしがシタくないって言った事。でも律儀に守んなくたって…。


そんな理不尽な台詞が頭の中に浮かび上がるようになってきたのは
二週間程前からだった
イベントが多い夏。自分が言った事とわ言え、自分の中で沖田の気持ちが膨れ上がって
ドンドン大きくなって、もっと触れたい、もっと近くに感じたい…
そう思ったがあの男は神楽との約束を律儀に守って全く手を出そうとしてくる気配が感じられない

花火大会だって楽しかった。プールにだって行った。
でも行ったダケ、キスしただけ、自分が言い出しか事なのだが、そこの所を切り取って、丸めて投げ捨ててしまった神楽は、段々と矛盾した思考にその思いを巡らせて行く

沖田はと言えば、ぐるぐる目の回りそうな衝動に毎回耐えていただけ
神楽と別れたくなかったから、どれだけ自分が好きなのかを分かってもらえる手段が、あの馬鹿女の言うふざけた提案であり、それをキチンと守っていただけだった

大好きなのに…
いつしか、その言葉はそれぞれ違う思いを運んだ。

大好きだから、何もしない…
大好きだから、触れて欲しい…

......
本文

『今日遅くなる、先に帰っていいから。』

パチンと携帯を神楽は閉じた。
空へと息を吐くように、ため息を濁らせた。
どんどん、思いが大きくなる。大学の中で見てる時だって、歩いてる時だって、総悟は目を引く
色んな女の人が、振り返る。
ねェ、きっと、絶対あたしの方が好きの気持ちが大きい
すっごく大きいノ。総悟より、あたしの方が…

大きくなってく思いが膨らみ過ぎて、あたしの体には治まりきらない…。
ほら、馬鹿みたい、涙まで出てきた。

一言言えばいいダケ?
そんな事あたしの口から言えれる訳がないヨ。
もともとあたしから言い出したことなのに、それに、総悟がちゃんとあたしを好きでいてくれてるのか
今も、その、触れたいって思ってくれてるとか、分からなくなっちゃった。

別れる…?ううん、絶対嫌、そんなの絶対嫌…!
だったら、だったら…だったら…。

そう!総悟を我慢できなくさせればイイ!
あたしにまだ触れたいって思ってるとか、とりあえず置いといて、まずは総悟を『ゆうわく』して、
我慢できなくさせちゃえばいいネ!

そうと決まれば、と神楽は行動に出た。
家に帰り、まず浴槽に湯を張る。その間に帰ってきて、口実になるように食事を作る
溜めた湯の中に、入浴剤を入れ、その中に浸かる。絶対、絶対このチャンスをモノにする…!!
心身ともにリラックスをしたら、次は洋服。

チュニック?パンツ?うぅん、違う、そうじゃなくて、何かこう…。

あっ。そういえばこの間買ったばかりの…あった!真っ白のニットワンピース!
コレ絶対可愛い。しかも超ミニ!素足見せて…絶対コレで総悟を落とす!

食卓OK、後は総悟の帰りを待つだけ…。
いつも一緒に帰れない日は、必ずあたしの家に寄ってくれる。
ただいまって、そんでしばらくあたしの家で寛いで、自分の部屋に帰ってく。
だから後は、待つだけ…、、、、

そんな事を考えていると、外の方から声が聞こえてきた
神楽は顔をぱっとほころばせる。しかしその声は一つではない。二人?いやもっと…

思わず神楽はガチャリと扉を開けた
すると丁度今沖田は家の鍵を開け様としていたところであった。
そしてその後ろには、土方、山崎、近藤、と知らない女が4人程…

「アレ?何処か出かけるんですか?」
しばしの沈黙の中、山崎が口を開く
「エッ?何でアルカ?」
少々どもった神楽
「だって、今朝と服違うし…何か風呂あがり…みたいな」

まさかコレから男を誘惑するつもりに準備してましたなど言えるはずもなく…
「あ、姉御と買い物」
適当に答える神楽に今度は沖田が口を開く
「服着替えて、風呂まで入ってかよ。」

「や、だからこれは…。てか皆どうしたアルカ?」
そう神楽はちらりと女の方を見た。もはや神楽が沖田の彼女だと言う事は、大学中の誰でも知っている。
女は神楽と目が合うと、すぐに伏せた。
しかしその赤く染めた頬が神楽に伝えるモノがあり、何となく気に食わない

「あぁ、大学際が来月あるからその打ち合わせ。俺ら実行委員だから。」
「そ、そうなのカ。じゃ、あたしはそうゆう事で、失礼するアル…」

バタンと玄関の扉を閉める。
しばし立ちつくし、息を吐く… … …。

あ〜!!もぅ、何でよりに寄って今日?てかあの女の子誰?あたし見たことないヨ!
絶対あの子達、トッシーか総悟のどっちかが好きアル!だって顔に書いてたモン!

玄関先で神楽は悶える。
計画は全部パァ。打ち合わせなんて何時に終わるか分からない
なんてタイミングが悪い…。

神楽はため息を付く。
そして携帯を取り出した…。

「もしもし、姉御?計画がパァ。だってネ、だってネ、それでネ…」
実はこの計画はお妙にも話していた。お妙は頑張ってと応援してくれていたのだが…
ひと通り愚痴を吐き出した所で、気晴らしに遊びに行く?との声。神楽はウンっと答えた

どうせココに居ても、楽しそうな声が聞こえるダケ…だったら気晴らしに遊びに行く!
と神楽はもぅ一度鏡を見る。外だったら、やっぱレギンスをあわした方がいいか?とも思うが、このニットワンピースを買いに行った時、店員に、足が凄くきれいだから、そのままの方がぐっと可愛く見える、そう言われた事を思い出し、やはりそのままで行こうと決めた。

小さめのバックを持って、最近買ったお気に入りの香水つけて、準備万端だと、ブーツを履いて玄関に出る。

ドアノブを押した瞬間に、反対側から扉が引かれた。
ぅお!っとそのまま神楽の体は前のめりになり、其処に立っている人物の胸へと飛び込んだ…


ふわりと香る、香水…

「総悟…。」
上を見上げると、不機嫌な貌した沖田が神楽を抱きとめていた
「何処に行くんでェ」
「だから姉御と買い物…」
「んな格好してかよ、風呂まで入って、香水つけて…」
この格好は、お前を誘惑するつもりだからダヨ!香水だって買ったばかりで初めて今日つける予定だったんダヨ!
神楽はムっとし、沖田の方を睨んだ
「私の勝手アル!もぅ行くから退くヨロシ」
神楽は沖田から離れようとしたが、その華奢な体を沖田は離さなかった
ムキになるように沖田の腕の中で暴れる。思わず声も大きくなった

「お前だって女連れでんダロ!」
あまりの声に、言葉が玄関口で反響した。驚いたのは二人とも、沖田は神楽の体を離す。
其処に、沖田の部屋から土方が出てきた
「お前ら声丸聞こえ…」

神楽は瞬く間に貌を赤らめた。こんな会話を中に居る女に何か聞かれたくなかったからだ。
振り切るように神楽はその場から駆け出し、沖田はその神楽を唖然と見送った

そんな二人を、土方は重いため息をつき、やれやれと頭を掻いた


......


「神楽ちゃん、そんなに落ち込まないで…」
「姉御ぉ、もう駄目アルヨ、失敗どころかお別れフラグが立ったアル」
「そんな事言わないの。沖田さんだって、やきもち妬いちゃったんでしょ。神楽ちゃんがこんな可愛い格好して出てきたから。」

9月の秋空、涼しくなり始めた風邪を受けながら、神楽は公園のベンチにお妙と座り、その足をブラブラとさせた

お妙が慰めるが、神楽は激しく落ちこんだままだった
そんな神楽の手を取り、遊びに行こ!っと笑った。お妙の気持ちが嬉しく神楽は頷いた

本屋に服屋、巡りに巡る。途中、三度程ナンパされたが、二人は冷たくそれをスルー。
後ろを振りかえられるのは、何も沖田だけではないのだが、この女達はそれに気づくことは無く、街をめぐる。
途中からは、あまり沖田の事も考えることなく過ごせた。

もぅそろそろ帰ろうかとの、お妙の声に、神楽はブンブンと首を振る
お妙は困ったように微笑みながら神楽の頭をナデナデとする。
「神楽ちゃんのお家に遊びに行ってもいいかしら?」
お妙の言葉に神楽は満面の笑みを見せ、ぎゅうとお妙に抱きついた。

服に化粧品にマニキュア…手に袋一杯さげて家路へとたどり着く
神楽がごそごそ鍵を探していると、隣の部屋のドアがガチャリと開いた
反射的そちらに二人は視線を滑らす、と其処に近藤がひょっこりと顔をだした

「やや!お妙さんじゃないですかァ。こんな所で逢えるなんて―――。」
「運命じゃありませんよ。」
ふふっと、お妙は笑った。その顔はとても美しく、恐ろしい
近藤は顔をヒクリとさせる。そして、お妙のところに行き、耳打ちをした
「何とか部屋に来てもらえないかと。」
その問いにお妙は何故と返す。どうやら神楽が出て行った後、打ち合わせにならない程総悟の機嫌が悪く、現在も進行中だと言う。
土方が総悟はほっとけと部屋の女と話を進めるが、やはり気まずいらしい。
ちゃんとお妙と買い物に行き、帰って来たと一目顔を見せて欲しいと言うのだ。何故神楽ちゃんが行かなければならないんですか?とのお妙の言葉。しかし近藤に頼むと下げられ、息を付き、分かりましたと言う。

程なくして、嫌がる神楽を連れて、おじゃましま〜すとお妙は手を引く。
リビングで女の子4人と、其処に座る土方と山崎。
神楽は女の子と視線を合わしたくなく、目を伏せた。沖田はと言うと一人ソファに座り、テレビを見ている。
お妙が、沖田さんと呼ぶが返答は無い。お妙の隣で突っ立っている神楽は、コツンと肘で突かれる。
神楽は頬を膨らますが、お妙は、ホラっと促す。

「た、ただいま…」
しかし神楽が言っても沖田は返答が無い。
それにムカつくは神楽。ココですごすごと帰る気が失せた。
なんならトコトンこいつを無視してやるネ!と台所に立った。
「姉御ぉ〜!何か飲むアルカ〜?」
神楽の言葉に思わずお妙は、エッっと声を上げた。すぐに帰るつもりだったからだ。
そして、それは沖田も同じようで、一瞬神楽に怪訝な表情を向けた。しかしそれを神楽はスルーした。
「確かココに…あった!姉御、カルピスがあったアルヨ!」
にっこりと微笑む神楽に思わずお妙は固まった。そして近藤はやっぱり連れてこなけりゃ良かったか…と冷や汗を浮かべる。
土方と山崎は顔を見合わせ、がっくりと項垂れた。

神楽はカルピスをお妙に渡すと、土方と山崎の間をこじ開け、お妙と座る
「何を決めてるアルカ?」
「出し物。」
「えっ?食べ物アルカ?じゃあタコ焼きは決定アル。後はお好み焼きダロ?焼き鳥にカレーにうどん。あとオデン。肉まんにチュロス、クレープもあるし、フランクフルトにチョコバナナとかもたまんないアルヨ!後はねェ…」

「ちょっと待った。分かったからもうしゃべるな。」
まだまだ出てきそうな神楽の口を土方が止めた。とはいえ、出てくる出てくる案。これは案外いけると土方は感心した。
神楽は大学祭と言う響きにワクワクと胸を膨らませ始めた。
「後はお化け屋敷ダロ?」
「いいなァ、是非俺もお妙さんと―――」
「行きません。」ぴしゃりとお妙が言い放つ。

「クイズとかで商品用意するのもいいアル。後はビンゴゲームダロ?バンド何か出来る奴集めるのもアリだし、ダンスやってる奴にも声かけるアルヨ!後ミスキャンパスコンテストを開くのもアリだし、ほら、メイド喫茶やありきたりだけどホストっぽいのもやってみる価値あると思うネ。」

どんどんと出てくるアイデアに山崎も関心し、土方は真剣に聞いていた。
神楽が話す事で女の子はただただ年上だというのに黙って聞いていた
「てか姉御、うちのクラスはメイドじゃなくてコスプレ喫茶がいいアルヨ!言って見るネ。色んな衣装着て接客するアルヨ。男も女も混じって。そしたら年齢も性別も関係なく来てくれるネ!」
その考えにお妙の他に土方なども感心した。

「例えば?」
山崎が神楽に聞く
「なんでもいいアル!衣装は洋裁の得意な子を集めて作らすから。例えば…スッチーとか女教師とか、メガネかけてタイトスカートはいて、白いシャツで決めるアル!」
思わずおぉ!と声が沸く。更に神楽は続ける

「後は…看護婦とか浴衣や水着、チャイナ服に、銀座のホステス。男はスーツ…しか浮かばないアル。バリエーションがないアルヨ。」
ふむむと神楽が唸る。
「私服とかでも面白いんじゃない?」
山崎の声に、神楽はそれいい!!と叫ぶ。

「絶対総悟とかってスーツが似合うアルヨ…っと…」
あまりに白熱したため思わず本音がポロっと出てしまった。
自分は怒ってたはずなのに…そう神楽は思うが、沖田がテレビをプツッっと消した事で、緊張が走った
沖田は首を鳴らし、ソファから立ち上がる。

「俺は何でも似合うに決まってンだろィ?」
そう笑う。一瞬神楽の表情が緩んだのを其処に居た皆は見逃さなかった
「自意識過剰アル。」
「とりあえず土方の野郎よりは似合ってまさァ」
「あ〜ん?テメー言うじゃねェか。じゃどっちが指名取るか勝負しようじゃねぇか。」
「吼え面掻いてもしりやせんぜ?」
「上等だテメー。そのコスプレ喫茶とやらで勝負だ」

「エー!それはうちのクラスがやるアル!」
「今は俺たちの案をだしてんだ。言ったテメーが悪い、諦めんだな」
「ぶぅぅ!じゃあ私たちはメイド喫茶にするアル!短いメイド服で、ご主人様〜って奉仕するアルヨ!」
「いや、悪りィがそれは認めねェ」

来ていた女の子は、神楽を羨ましそうに見ている。
方や彼氏でもある総悟と、方や土方と楽しそうに口論をする様。
少々、妬みや嫉妬などのスパイスを入れた視線に気付くお妙は、話題を切り替えた

「神楽ちゃん、そろそろ帰りません?」
にこりと微笑むお妙に、神楽はそうアルナと頷いた。

ではではと神楽が立つ。実は先ほどからずっとなのだが、座ってる人からすれば神楽が立ち上がった時に見せる
足のアングルは結構きわどい、短いワンピースゆえだった。
そんな事に今更沖田は気付きドキリとする。

見れば、其処に居る男は視線を伏せているではないか、沖田はチリチリと感情を燃やす
荷物を持って、歩く神楽とお妙、沖田は玄関まで見送る。

靴を履き、お妙が先に出て行き、神楽がそれに続く…
その手を沖田は引く。
するとお妙が出て行った後、玄関の扉はゆっくりと、まるでスローモーションの様に締まっていく。
お妙は神楽が後ろに居ないことに気付き後ろを振り返ると、僅かな隙間の間から、神楽が引っ張られ、そのまま沖田の方へと体を向けられ、その顔が近づけられて行く様が見えた。

ほんの数メートル先には何人もの人が居る。
どのタイミングで誰がコチラ来るか分からない。
それが頭の片隅に浮かび、神楽は瞬間貌を逸らす、しかしその顎を沖田は固定するとハナッから舌先を絡めるように進入させた。

口で呼吸出来ず、もがくがその生暖かい湿った感触は、瞬く間に自分を侵食して行くのが分かった。
僅かな合間に腰に手を滑らせ、きつくその細い腰に回された手から伝わる熱に侵されて行く。
しかし、どうにもそれが嬉しくてたまらない。先ほどイライラとしていた感情はその熱に焼かれ散った。

体の芯が狂うほど火照り、やがて立てなくなりそうになる前にその感触から逃げるように離れた

が、しかし目の前の男はとうに満足そうに、口元に笑みを浮かべながら掌でその跡を拭う。
その視界に入る光景にさえ溺れそうになり、ドアにもたれかかる様に開けると、チカチカと光る電気と共に
苦笑しているお妙に思わず手を差し出した


……To Be Continued…

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